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第1話 異世界転移〜エルフ族の領域へ〜

 揺莉(ゆり)は、独身時代、そして結婚後も仕事に誠実に、そして真面目に取り組んでいた。

 上司や同期、部下からも信頼があったが、妊娠を機に退職することを決めた際には、残念がる声が多かった。


 揺莉は妊娠し出産をし、そしてその後も妊娠と出産を繰り返し、3人の子どもに恵まれた。


 元気一杯の幼い子ども達を育てる揺莉は、日々子どもの世話で忙しく、一日中バタバタと家の中を動き回っていた。


 そして、子ども等はそれぞれ適齢期に幼稚園に入り、揺莉は出産後やっと、久しぶりに1人の時間をもてるようになった。


 とはいえ、せっかくの1人の時間も、子ども関係のことで時間を使うことが多く、今日は、子どもが食べたがっていた物を買いに、スーパーに出かけることにした。


 スマホの画面をタップし、幼稚園から何も連絡がきていないことを確認して、揺莉は自転車をこぐ。


 途中の大通りでは自動車が勢いよく走っており、スピードをかなり出している車が多かった。


 揺莉は向かいのスーパーに行くために、横断歩道前で待ち、歩行者用信号が青になったのを確認してから、自転車のペダルをこぎだす。


 今日は、珍しく横断歩道には揺莉しかおらず、揺莉はゆっくりと横断歩道を走った。


(スーパーについたら、あの食べたがってたもの買って、それからあと3人が好きなあの——)


 考え事をしながら自転車に乗っていた揺莉は、左からスピードを落とさず自分に突っ込んでくる車に視線の端で気付いたのは、自動車が自分の体から数センチの距離のときだった。


(あ…これ、逃げられない…)


 揺莉は瞬間的に悟ったその次の瞬間、バーーーン!!という衝撃を体全体で感じた。


 ◇◇◇◇


「このおねぇさん、だいじょうぶ、かなぁ…?」

「ママとか、だれか、よんできたほうがよくない?」

「ケガしてるの?」

「なんか、へんだねぇ」


 揺莉は、自分の近くで誰かが話している声が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、目の前には青い澄んだ綺麗な空、そして可愛いクリクリの目をした小さな顔が、いくつも上から自分を覗き込んでいた。


「うわぁ!おきたぁ!」


 揺莉と目が合うと、驚いたその可愛い顔らは、スッと視界から引っ込んでしまった。


 揺莉はびっくりして、ゆっくりと起き上がると、手の下のふさっとした感触にまた驚く。

 慌てて下を向くと、生き生きとした緑色の草がたくさん生えており、辺りを見回すと一面草原であった。


「えっ?ここ、どこ…」


 揺莉があっけに取られていると、後ろの方から可愛らしい声が聞こえてきた。


「声をかけてみなよー」

「えーこわいよぉ」


 揺莉がパッと振り返ると、そこには小さい子ども達が3人身を寄せ合ってしゃがみ込み、こちらを怯えた顔で見つめていた。


「あら、君たちどうしたの?ママやパパは…」


 揺莉は子供達に話しかけたが、途中で気づく。


 3人の耳が尖っていることに。


 そして、瞳の色も3人それぞれ違う。青に緑にピンク色。


 コスプレ…?でも、こんな幼い子供がコスプレなんてするわけないし…。


 揺莉が困惑していると、青い目の子がすっと立ち上がる。


「おねえさん、どこから来たの?おれたちと、なんかちがうね。ここはエルフ族がすむ場所だから、ちがうシュゾクは出ていかないといけないんだよ」


「えっ?——エルフ族??」


「そうだよ」


 あの神話とか漫画とかゲームとか、映画にもよく出てくる、あのエルフ族??


 揺莉は混乱したが、すぐに思いつく。


「あ…これがもしかして、最近流行りの異世界転移っていう、あれ…?まさか、私が…??」


 1人でブツブツ呟く揺莉を見て、3人のエルフ族の子どもは、不思議そうに顔を見合わせる。


「話しは通じてるし…やっぱりそういう感じかなぁ…」


 揺莉は、自分の最後の記憶を思い出す。

 横断歩道で車に跳ねられそうになって、それで…。


(だめだ…その先が思い出せない。これが夢なのか、現実なのか分からないけど、とりあえず、これからどうするか決めなきゃ…)


 揺莉は顔を上げると、にっこり笑顔をつくって、優しい声で3人のエルフ族の子どもに話しかける。


「教えてくれてありがとう。他にも聞きたいことがあるんだけれど、私がどうしてここに寝転んでいたか、分かったりする?」


「わかんない」

「ここに3人で遊びにきたら、おねぇさん、もうねてたよ」

「おねえさんも、わからないの?」


(か…可愛い…!!)


 揺莉は3人のキョトンとした顔に、まだまだ語録の少ないであろう中で、一生懸命話す姿にキュンとする。

 この素直さに、自分の子ども達と同じくらいの年齢かな?と思った揺莉は、更に尋ねることにした。


「そうなの。わからないの〜。だから、困ってるの。そういえば、君たちは今何歳なの?」


「5歳!!!」


 3人が口を揃えて言う。


「うちの子らと同じくらいかぁ…」


 揺莉は子どもを思い出して、ふと寂しくなる。

 暗い表情で俯くと、エルフ族の3人は構わず元気に話しかけてきた。


「わたしの名前は、ララノアっていうの」

「おれは、アノーリオン」

「…ぼくは、クルゴンだよ…。でも、知らない人に名前いって、だいじょうぶ、なのかなぁ…」


「なるほど、ピンクの目の女の子がララノアちゃんで、青い目の男の子がアノーリオンくん、緑の目の男の子がクルゴンくんね。大丈夫だよ、悪いことに使ったりしないからね」


 揺莉は忘れないように、必死に頭に名前を叩き込みながら、不安そうな顔をしているクルゴンに笑顔を見せ、自分は変質者じゃないことを必死に伝えようとする。


 しかし、クルゴンの言葉をきっかけに、アノーリオンとララノアもハッとした顔をして、まずいことをしかたも、という表情になっていた。


(う〜ん…このまま子ども達を不安にさせたままも、良くないよなぁ…)


 揺莉は悩んだ末に、3人に提案をする。


「そうしたらさ、皆んなのママやパパの所に、私を連れて行ってくれないかな?私ね、住む場所もないから困っていてね、大人の人に相談したいんだぁ」


 すると、3人は目を輝かせてパッと笑顔になる。


「いいよ!」

「こっちこっち!」

「ついてきて」


 脱兎の如く走り出す3人に、よろめきながら慌てて立ち上がる揺莉は、待って〜!と急いで追いかける。


 まさか、このあと、エルフ族に弓を突きつけられるとは知らずに。

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