冷たく拒む令嬢と婚約解消したら、理想の令嬢と幸せな愛を手に入れた!
「婚約者を交換しないか?」
この言葉を言ったのは、キャリド王国のハリド・フェリル公爵令息。言われた相手はジュリアス・アレス公爵令息。家格は同格である。
二人は同い年、18歳。互いの婚約者はハルディス公爵家のミレンシアとアリディアの双子の姉妹である。
双子と言っても、ミレンシアとアリディアは似ていなかった。
明るい金の髪に華やかな美人のミレンシア。金の髪を三つ編みにし本ばかり読んでいる地味なアリディア。
派手なミレンシアはジュリアスの婚約者で、地味なアリディアはハリドの婚約者である。
ハリドは黒髪碧眼の美男だ。女性達からとてもモテる。それなのに、婚約者のアリディアは本ばかり読んでいて、本当に話も合わなくてつまらない。
それに比べて、ミレンシアは華やかな美人で。長い黒髪を背に垂らしている美男のジュリアスとお似合いの婚約者同士だと言われていた。
羨ましい。自分もお似合いの婚約者同士だと言われたい。
ジュリアスにきっぱりと断られた。
「冗談を言わないで下さい。私とミレンシアは上手くいっているのです。婚約者の差し替えなんて簡単に出来るはずはないでしょう」
「確かにな。冗談で言っただけだ」
どうして姉妹であんなに性格が違うんだ?
ミレンシアはとても明るくて、クラスの人気者で。
それに比べてアリディアは人とは話をしなくて、本ばかり読んでいる。
ハリドはどちらかと言うと、行動的でみんなと話をするのが好きだ。
誰とでも仲良くなれる自信もある。
だが、アリディアだけは駄目だ。
話をしようとしたって、
「わたくしは本を読んでいるのです。邪魔をしないで下さいませんか?」
「なんの本を読んでいるんだ?俺に教えてくれよ」
「貴方には理解できない本です。この王国の歴史についてですわ」
「歴史なら理解はあるぞ。このキャリド王国の初代は、苦労をして王国を建てたバルト一世陛下だよな」
「戦いの事なんて興味はありません。わたくしの読書を邪魔しないで下さる?」
「戦いがあってからこそ、今があるんじゃ‥‥‥ああ、そうだ。今度、花をプレゼントしようか?もうすぐ君の誕生日だし」
「わたくし、花は好きではないの。わたくしに似合わないから」
「え?じゃ、何が好きなんだ?」
「本がいいですわ。でも、本は図書館で読めますから、買わなくていいです」
ハリドはため息が出る。
なんか付き合いにくいんだよな。アリディアって。
もっとこう、何か違うというか。
ミレンシアと話す機会があった。
「ハリド様。今度の学園祭の企画の中で、ダンスパーティを催そうと思っておりますの。ハリド様もアリディアと出席して下さいませ」
「ダンス?苦手なんだよな」
「いずれは社交界で必要となりますわ。ハリド様なら、美男なので、社交界の華になれますわ」
「男だから華にならなくてもな。ミレンシアこそ華になれるんじゃないか?」
「まぁ、有難うございます。ともかく、ダンスは踊れるに越した事はありませんわ」
何事にも積極的なミレンシア。
ミレンシアが婚約者だったらなぁとついつい思ってしまう。
アリディアと比べてしまう。
アリディアと顔を突き合わせると疲れるのだ。
「アリディア。今度、一緒に街でデートをしようか。勿論、護衛もつけて万全にするよ。送り迎えも全てこちらで馬車を用意するから」
「わたくしは読書をしている方が好きですわ。ですからお断りします」
「たまには外へ出て、色々と見た方が楽しいんじゃないか?」
「わたくしは外は好きではないの。他の方とお出かけ下さいませ」
偉く、疲れた。疲れる令嬢だ。
彼女と婚約を続ける意義があるのか?そりゃ、家同士の都合もあるだろうけれども。
両親に頼んだ。
「アリディア嬢と合わないので婚約を解消したいんだけど」
父、フェリル公爵は怒った。
「政略も絡んでいる。アリディア嬢を我が公爵家に迎え入れる。これは決定している。お前はアリディア嬢と結婚すればいい」
「しかし、父上」
「いいな」
母は何も言ってくれなかった。
ジュリアスと仲良く歩くミレンシア。
羨ましかった。あんな風に婚約者と仲良く歩いてみたい。
「アリディア。俺達は婚約者なんだ。だから少しはそれらしい交流をしたいんだけど」
「わたくしが貴方の元へ嫁げばすむことです。安心して下さいませ。きちっと妻の務めは果たしますわ」
冷たいアリディア。
こんな女性を妻にしたくはない。
再び、父、公爵に懇願した。
「どうか、アリディア嬢と婚約を解消したい。どうしても彼女だけは嫌だ。俺は、愛する女性と結婚したいんだ」
「お前は貴族をどう思っている?そんな事は許されん」
母、公爵夫人が今回は味方になってくれた。
「でも、こんなにハリドが嫌がっているのですから。確かにあそこの令嬢のアリディアは、大人しすぎるというか。わたくしも会ってみましたけれども、本当に我が公爵家に嫁いでくるつもりがあるのか、あれでは公爵夫人として先行き、やっていけるか不安ですわ」
そこで初めてフェリル公爵は、
「そこまで酷い令嬢なのか?」
「ええ、なんでしょうね。心を開かないというか、話しにくいというか。人として何かが欠けているのでしょうね。そういう令嬢を我が公爵家に迎えるとなると、わたくしも苦労しますわ」
母が口添えをしてくれたお陰でやっとアリディアと婚約解消することが出来た。
両親が、ハルディス公爵家に行って、相手方と話をつけてくれたのだ。
ハリドは王立学園でジュリアスに向かって、
「やっと自由の身になれた。今度、婚約する相手とは上手くいくといいな」
「よかったですね。上手くいくように祈っておくよ」
そう言っていたジュリアスが、思いついたように、その日の昼休み、テラスに女性を伴って連れて来た。
ジュリアスの妹のフェレイラを紹介された。
ジュリアスは、ハリドに、
「うちの妹のフェレイラ。二つ年下なのですけど、よかったら次の婚約者に。家格的にも同格ですし、妹は婚約者をこれから探そうと」
「フェレイラです。よろしくお願いします」
16歳のフェレイラはジュリアスと似てさらさらした黒髪が長い。とても美人だ。
ハリドは舞い上がった。
「ハリドだ。フェリル公爵家の。フェレイラ。君と少し話したいな」
ジュリアスはフェレイラに、
「ハリドと話をしておいで。私は席を外すよ」
「ええ、お兄様」
ハリドはフェレイラと話をした。
「フェレイラの趣味はなんだ?」
「わたくしの趣味は乗馬です。馬が好きなの」
「乗馬か。今度、一緒に馬に乗らない?俺も乗馬は好きだ」
「まぁ。嬉しいわ。一緒に草場を駆けましょう。それから、わたくしね。ハリド様の事を沢山知りたいの。ハリド様は何が好きなのかしら?」
「俺か?俺は身体を動かすのが好きで。後、前の婚約者が一緒にデートしてくれなかったから、街デートしてみたい」
「街デート。いいですわね。お店、探しておきましょうか?それとも、ハリド様が探して下さるの?お勧めのお店に連れて行って下さるのもとても嬉しいですし、わたくしがハリド様を連れて行くのも良いですわね」
アリディアとは大違いだ。
フェレイラは、初対面なのに自分に心を寄せて来てくれる。自分の事を理解しようとしてくれる。
それに比べてアリディアは、こちらが心を寄せようとしても、嫌がって寄せ付けなかった。
アリディアによって傷つけられていた心が癒される。
そんな気がした。
フェレイラと乗馬を楽しむ。
キラキラと光る草原を共に馬を駆けさせた。
フェレイラの黒髪が風に舞って、とても綺麗で。
緑の瞳がキラキラしていて。
一通り馬を駆けさせた後、水飲み場で馬に水を飲ませながら、共に身を休める。
フェレイラは布を手に持ち、
「汗かきましたわね。拭きましょうか?」
と言ってハリドの汗を拭いてくれた。
そして水筒を差し出して、
「わたくし、水筒を二つ持ってきましたのよ。冷たいお茶が入っておりますの」
「気が利くね。俺も二つ水筒を持ってきたんだけど、水しか入っていない」
「それなら、お茶を一緒に飲みましょう。足りなければお水を頂きますわ」
二人でお茶を飲んで、フェレイラが持ってきてくれた菓子を食べた。
「街でお勧めの焼き菓子を持って来たのですわ」
とても美味しい。
草原は、気持ちよい風が吹き抜けて、フェレイラと過ごす時間がとても幸せに感じた。
翌週、街デートをした。
フェレイラがカフェに行きたいというので、ハリドは美味しいケーキを食べさせてくれそうなカフェを探しておいて、彼女を連れて行った。
そこのチョコレートケーキは美味しくて。
二人で窓際の席でチョコレートケーキを食べながら、色々と話をした。
フェレイラは、
「婚約が正式に決まったら、フェリル公爵家にお伺いしたいわ。嫁ぐ家ですもの。色々と勉強もしたい」
「フェレイラは前向きだね」
「ええ。お兄様がこんな素敵な方を紹介して下さったのですもの。わたくし、ついているわ」
「俺もついていると思っているよ。君みたいな素敵な人が俺の婚約者になるだなんて」
フェレイラがにっこり笑った。
とても綺麗な笑顔だとハリドは思った。
護衛は背後にいたけれども、二人で街の店を歩いて、色々と見て。
互いの好きな物を語って、心が近いってこんなに素敵な事なのだと、ハリドは幸せに思った。
そして、正式にフェレイラはハリドの婚約者になった。
ハリドは王立学園の教室で皆にフェレイラと婚約したと報告したら、皆と共にジュリアスとミレンシアが祝ってくれた。
「おめでとう。妹から正式に決まったと報告を受けているよ。ハリドとは義兄弟になるわけですね。嬉しいですよ」
「有難う。素敵な妹君を紹介してくれて」
ミレンシアもにこやかに、
「うちの妹よりも、素敵なお嬢さんだわ。おめでとう」
「有難う」
そこへ、アリディアがやって来た。
「わたくしの何がいけなかったというの?新しい婚約者?どういうこと?」
ハリドはアリディアに、
「君は俺の事、嫌いだろう?だから婚約解消したんだ。そしたらジュリアスが妹を紹介してくれたから」
「わ、わたくしだって、一生懸命‥‥‥」
「一生懸命?」
「でも、わ、わたくし」
「君と俺とでは合わなかった。君は俺の事が嫌いだっただろう?」
「わたくしは婚約者よ。わたくしがどんな言葉を言おうとも、貴方がわたくしに歩み寄るのが当たり前ではなくて?」
「え?」
「わたくしはこの通り、美人でもないし、本を読むしか‥‥‥貴方は婚約者よ。こんなわたくしでも愛するのが当たり前ではなくて?」
ミレンシアが何か言おうとした。
手で制してハリドは、
「でも、俺と君とは他人だ。いくら愛されたいからとはいえ、君の態度に俺は疲れた。だから婚約解消をしたんだ。今度、君が婚約をするときにはもっと相手の事を考えた方がいい。でないと、また同じような事になるか、それとも、結婚した君が苦労をすることになる。いいね?」
ミレンシアが、
「だからいつも言っているでしょ?甘えるのもいい加減にしなさいと。だから今回、婚約解消になったのよ」
アリディアは泣きながら、
「だって仕方ないじゃない。わたくしは綺麗でもないし、この通り暗いし。婚約者なら愛するのが当たり前だと思っていたから。わたくしを愛してよ。どんな酷い態度を取ってもあきらめないでわたくしを愛してよ」
ハリドはアリディアに、
「君が変わらないと、幸せにはなれないよ。俺はフェレイラと結婚するけれども、君の幸せを願っているよ」
アリディアは泣き崩れた。
あれから二月が経った。
フェレイラに対して愛しさが増すばかりだ。
ジュリアスとミレンシアと、ダブルデートをした。
ミレンシアはアリディアについて、
「新しい婚約者が決まったわ。同じ派閥の伯爵家になるけれども、彼も読書家でおとなしい人よ。今度はアリディアも一生懸命、彼に興味を持って歩み寄ろうとしているみたい。反省したのね」
ハリドは胸をなでおろして、
「アリディアが反省したなら良かった。彼女には幸せになって欲しい。憎い訳じゃないからね」
フェレイラが手を握り締めて来て、
「そういう優しい所が好きよ」
そう言ってくれてとても嬉しかった。
後に、ハリドとフェレイラは結婚した。
社交界でジュリアスとミレンシアとよく顔を合わせた。
そして、アリディアとその夫となった伯爵令息とも。
アリディアが幸せそうでほっとした。
今日も夜会でダンスを踊る。
愛しい妻、フェレイラと共に。
彼女の心はいつも傍にある。
今日も幸せを感じるハリドであった。