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2,叡知の本

 さて、これからどうしていきましょう。

私、ルイーゼは今、大変悩んでおります。

 女神様との約束を思い出したは良いものの、私は現在、10歳になったばかりの子供です。

手足は小さく、もちもちと柔らかい…なんということでしょう。子供の肌とは、こんなにも柔らかいものなのですね。驚きました。

 以前の、前の世界の私は、子宝には恵まれませんでしたので、こうもまじまじと幼い肌を観察するというのは随分と新鮮です。

 「はっ…!こんな事をしているばあいではありませんね」

 ずれてしまった思考を戻さなければ…ええと…。


 コンコンコン。

 頬に手を添えながら、部屋でうんうん唸っていると、ふいに扉が叩かれました。

 「はぁい。どうぞ、おはいりになってください」

 ぱっと顔を上げ、まだ子供らしさの残るような、高くまろい声で返事をします。

 入って来たのはメイドのエマです。彼女は15歳くらいの女の子で、私の身の回りのお世話をしてくれています。

 「お嬢様、おはようございます」

 エマはニコニコと可愛らしい笑顔で、朝の挨拶をくださいます。

私も、つられるように笑みをうかべて、おはようございます、と返します。

 エマはてきぱきと、朝の支度を整えてくださいました。

 今は私の髪に櫛を入れています。

 「お嬢様は、今日もお綺麗ですねぇ」

 感嘆の込められた、うっとりとした声音で、エマが呟きます。

10歳の子供に、綺麗というのは、なんだか不相応な気がしないでもないですが…。そう思いながら、目の前の鏡を見ます。

 ルイーゼは、豊かな金糸の髪に、ローズピンクの愛らしい瞳をした少女です。波打つ金糸に光が反射して、キラキラしています。なるほど。

 いつか見た西洋のビスク・ドールのような少女は、確かに綺麗といえるのでしょう。

我が身の事となると不思議な気持ちですが、客観的に見れば、美しい容姿です。

 「10歳の礼拝もしましたし、きっとこれからもっともっと綺麗になれますよぅ。」

 ふふ、と、楽しそうにエマは笑い、丁寧に髪を梳いてくれました。

 礼拝…神様……綺麗……。あぁ、そういえば。


 エマとの会話で、またひとつ、記憶が開く音がしました。




 「私から、幾つか貴女に贈り物をしようと思うの」

女神様は、ゆったりと目を細め、私を見ます。

 「贈り物、ですか?」



 それは、御遣いとして充分に動けるように、という女神様からの気遣いでありました。

 一つは、『家柄と容姿』。それなりに裕福で、私が御遣いとして何かをする際に、十全にサポートできる環境の家に生まれさせてくださるということでした。

容姿は美しいに越したことはありません!というのは女神様の弁です。神様が美しいものがお好きというのは、案外本当なのかもしれません。

 そして、もう一つは、『叡知の本』。これは女神様の知恵の集大成で、私の元いた世界の知識が、転生先の世界ではどういう形になっているのかが書かれている本だという事でした。

 わかりやすく説明しますと、例えば元の世界でのジャガイモ。これを叡知の本で調べると、転生先ではピティエの実というものになるとのこと。

見た目も図で描かれていて、ピティエはジャガイモとそう変わらなかったのですが、元の世界の植物と味や香りが同じでも、見た目が異なるものも幾つかあるようでした。

 とても面白そうです…女神様すごい。


 じっくりと眺めていると、そんな私を見て、微笑ましそうに、しかし申し訳なさそうに、女神様は仰いました。

 「御遣いといえど、人並外れた能力を与えることはできません。ですから、どうかこの知恵を武器に、貴女の力で道を切り開いてください」


 どうか、貴女の生に幸多からんことを。




 「お嬢様…?お嬢様、お支度終わりましたよ、お嬢様~?」


 はっと、エマの声で我に返る。いけません、ぼんやりしてしまいました。

 「ありがとうございます、エマ。」

 エマのおかげで、叡知の本について思い出すことができました。

 言葉にはしませんでしたが、ニッコリと笑ってお礼をすれば、エマは支度の礼ととったようで、はい!と元気に返事をしました。


 孫がいたらこんな感じだったのかしら…なんて、エマを見て、そんなことを思いました。


 




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