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顔がいいので、許せます。


 結婚初日、「これは契約結婚だ、でも、一生別れられもしない、すまない」と謝られた。超絶ハイパーどタイプイケメンの旦那様に。


「かまいません!」


 即答すれば、申し訳なさそうな顔で唇を噛み締める旦那様。


「それに、愛人もたくさんいる」


 それはちょっーとだけ、嫌だけど。嫌とは言えない立場だろう。わかってるから、むぅっと膨れて答えないけど。


 まぁ、でも、めちゃくちゃ好みの顔なんだもん。白い肌に、透き通るようなパープルブルーの瞳。少し尖った八重歯。八重歯まで可愛いな、こんちくしょう。


 元々契約結婚なことは、承知の上で嫁いできた。プラチナブロンドのような私の髪の毛は、お父様には不服だったらしい。それでいて、何かに執着すれば周りが見えなくなる性格が、癪に触ったらしく、ほぼ幽閉状態。


 パーティーに出ることも、どこかへ出かけることもできずに、好みのものを収集し続けることすら禁じられた中での生活。冷え切ったご飯が届くだけ、マシだとはわかっていても、ひとりぼっちは少し寂しかったし、好きがない生活は心がどんどん磨耗されて行った。

 

 だから、もし顔が好みじゃなかったとしても、そんな私を外の世界に出してくれたのだから、感謝して愛を持って接していたと思う。


「吸血鬼なんでしたっけ、はい、どうぞ」


 髪の毛をまとめあげて、首をベロリと晒せば、両目を塞ぐ仕草。


 なんだ、乙女みたいで可愛いな。かわい、いな? ちょっと赤く染まった耳とか、不健康そうな頬にピンクが差し込まれた表情とか、くそかわいいな。


「淑女が、そんな破廉恥な」


 破廉恥な……ハレンチなって初めて聞いた! 本当に言う人いるんだ、そんなこと!


 興味津々で近づいていけば、ズリズリと後退りしていく旦那様。


「旦那様?」

「いいから髪の毛を下ろせ!」

「えー」

「それに、私は吸血鬼ではない!」

「あれ、違いましたっけ?」


 吸血鬼は、人を襲うからと畏れられて、人に迫害をされていたが、そんな危険性はないよと示すために、一応、王族である私が嫁ぐという契約だったはず。いわゆる、人質ってことじゃなかったけ?


「吸血鬼と勘違いされるが、私たちは、吸血鬼ではない」

「でも吸うんですよね、その牙」


 尖る歯が喋るたびに、唇の端から、こんにちはしてる。かわいい。尖ってる歯もかわいい。こんにちは、とぺこりとお辞儀をしてみせれば、不思議そうな顔で話を続ける。


 あ、続けるんだ。


「私たちは、愛を食べて生きてるだけだ」


 愛が無ければ死んでしまうだなんて、なんて……素敵なの! 愛を食べるってどうやって? どうするんだろう? 尖った歯は全く関係ないってこと?


 愛を、そもそも食べられた人はどうなるんだろう?


「一回食べてみてもらっていいですか」

「は……? はぁ?」


 一瞬出そうになった呆れの言葉を、押さえ込みもせず、私を信じられないものを見る目で見つめる。うん、そういう目もいいと思います。新しい扉が開そう……!


「変わってるな」

「変わってなかったら、こんなすんなり嫁いでこないと思います」


 ジリジリと後退していた旦那様を壁際に追いやって、ドンっと両手で行き場を塞ぐ。あれ、私が壁ドンしちゃってる……


「どうやって食べるんですか」

「こう、歯を突き刺してだな」

「吸血鬼っぽい食べ方なんですね」


 そもそも、愛というものは、どういうものでもいいのだろうか。愛の定義は? ペットや友人に向ける親愛でも構わないのだろうか。物や事に対する愛は?


「歯を突き刺すのはどこでもいいんですか?」

「そ、うだな」

「愛って、なんですか」

「は?」


 タジタジしながらも、私の質問には答えてくれるのは良い人なのかもしれない。時々突き刺さる、こいつはやばいって視線を除けば。


 まぁ、やばいから、幽閉されていたし、こんなところに嫁いで来れてるんですけどね。卵が先か、ニワトリが先か、的な。


「食べるのは、どういう愛なんですか」

「どんな愛でもいいが……」

「ふむふむ」

「親愛だったり、恋人への愛情だったり……」

「だから、愛人がいっぱい居るんですね!」

「そ、そうだな」

「自分へ向いてる愛情しか食べれないって事ですか?」


 だから、愛人もいっぱい居るだなんて宣言したんだろうか。じいっと見つめれば首を横に振る。あ、違った。


「どんな愛でも食べられるが……」

「味? 味的な問題?」

「味もあるが」

「じゃあ、何?」

「とりあえず説明させてもらえないか? ソファにでも座って」

「逃げません?」

「にげ、逃げない」


 一瞬、言い淀んだところを見ると逃げ出したい気持ちはあるらしい。興味津々と言った私が気持ち悪いんだろうか。気持ち悪いんだろうな。うん、今まで数人居た婚約者候補に質問を何個も繰り返して、気持ち悪いって言われたもんな。


 わかってる。大丈夫。うん……


 しゅんと萎れた私に勘違いしたのか、旦那様は頭をおぼつかない手で撫でてくれた。優しい、顔もいいし、優しいし、最高じゃん。軽々しくひょいっと持ち上げられ、ソファにゆっくりと下された。


「逃げはしない。こんなところに嫁いできて不安だとは思うが、その、なんだ、嫌がることはしない」

「じゃあ、愛人は嫌です」

「そうなると、私が餓死してしまう危険性があるんだが」

「私の愛を食べればいいじゃないですか」

「人は愛がないと生きていけないんだ」


 真理のようにうんうん頷いて、いい事っぽく言ってるけど、意味がわからない。少しはわかるよ、好きなものを禁止されていた時の、心がどんどんと死んでいく感覚を覚えているから。


 でも、愛なんていくらでも生まれてくる。


「えーっと、愛を食べられたら愛がなくなるんですか?」

「そうだな、食べてしまうから」

「それはどれくらいとか、量的なものは」

「だいたい、一つの物事への愛で一食分くらいだな」


 一つの物事への愛で一食分。多いのか少ないのかも見当がつかない。だって、目に見えないし。愛が目に見えたらもっとわかりやすいのに。


「とりあえず私の食べてもらっていいですか」

「だからどうしてそうなる」

「食べられたらどうなるのか、知りたくて。ってか、人の愛じゃないとダメなんですか」

「人以外は、愛という感情が少ない」

「なるほど……」


 感情が少ない、か。人は色々なものに興味を持って発展してきた生き物だものね。動物とかはもっと原始的な欲求の方が多いのかもしれない。


「で、とりあえず一回ズブっと」

「ズブっとではない!」

「だって、妻なんですよ」

「だから、妻はそういう対象では」

「じゃあ、愛人という名の食料を保管してるって事ですね!」


 ぐぬ、っと息を飲み込むところを見ると、事実のようだ。人受けする見た目なのは、愛を食べるために最適化された結果なんだろう。愛されれば、飢えることはない。強さで食べ物を得てきた人間とは違い、顔の良さで食べ物を得てきたと考えれば納得がいく。流行りの劇団俳優みたいな顔をしてるし。


「顔って定期的に変わるんですか」

「はぁ?」


 いよいよ遠慮のなくなってきた呆れた返答も、なんだか耳馴染みがいい。声も、人に受ける声なのかもしれない。少し低めの耳に浸透する心地よい音。


「声も?」

「顔は変わらんし、声も変わらん!」

「ちなみに、寿命って」

「人と変わらん!」

「あ、そうなんだ」


 吸血鬼とかって不老不死って言うけどね、違うんだ。なら、世代交代のたびに、その当時の流行りの顔を取り入れていくのかもしれない。


 なるほど。


「ちなみに、好きな愛の味は?」

「変わってるな」

「何がです?」

「いや……普通怖がったり、嫌がったりするだろ」

「だって、顔があまりにも好みなので……」

「は、はぁ?」


 横に座る旦那様の顔をぺたぺたと撫でれば、また赤く染まっていく。かわいいか! かわいすぎだろ!


 久しぶりにこんなに話したからか、喉がカラカラに乾いてきた。唇も引き攣ってきてる気がする。


「水ってもらえます?」

「あ、あぁ」


 水差しからガラスのコップに注いでくれる仕草を観察していれば、細長い指が目に入る。私よりも一回りも大きい手、いいな、好きだな。頭を撫でられたら気持ちいいんだろうな。


 からんからんっと氷が転がる音がして、水が注がれる。そのままコップを私の口元に運んでくれて……? 自分で飲めるけど、せっかくだから、あーんしてもらおっ。


 大人しく口に含めば、ひんやりとしていて何かの果物入りだろう。さっぱりとした甘味がおいしい。ぷはっと唇を話せば、ハンカチで口元を拭われた。


「えっと、あのー」

「な、なんだ?」

「その行動は?」

「ん?」

「お水飲ませてくれたり、口元拭いてくれたり」

「へ、変だったか?」


 尽くしすぎではとも思うけど、そういうところで愛を勝ち取ってきたのだろうか。心の奥で嫉妬心がメラメラ燃え上がっていく。顔を合わせたばかりとはいえ、私の旦那様だ。他の女の人にもこれからこうすると言われたらちょっと耐えられない。


 やっぱり愛人は捨ててもらおう。


「やっぱり愛人はいやです」

「だが」

「とりあえず私の愛を食べてみてください」

「だから」

「話はそれからです、はい、ガブっと」


 もう一度首元を露わにして迫れば、ぐいっと押し除けられる。


「愛が消えても、返せないんだぞ!」

「消えませんから、とりあえずどうぞ、ほら早く」

「ダメだって言ってるだろう!」


 今までと違う大きな本気の拒絶の声に、ぴくりと肩が揺れてしまう。体の芯から一気に冷えていく感覚に、胸がざわめく。


「ごめんなさい」

「いや、大きい声を出してすまない。でも、消えたら……」

「大丈夫だって言ってるじゃないですか」

「いや、その……」


 今まで、大丈夫だった試しがないという表情で、顔を背けられる。帰りたいと言われても帰せないから、困ってるんだろう。たとえ愛が無くなったとしても、帰れないことはわかってるから大丈夫なんだけどな。


「わかりました!」

「何が」

「旦那様への愛じゃなくて、母国への愛にしましょう」


 どうせ帰れないんだもの。実家への思いも、国への思いも、もう私にとって不要なものだ。


 うんうん、頷きながら「さぁ」と首筋をもう一度晒せば、旦那様はますますイヤそうな顔をした。


「国への思いで嫁いできたんだろ?」

「いいえ?」

「は?」

「あそこに居たところで、ひとりぼっちなので飛び出したかったところに、あなたからの婚約依頼が来たので飛びついただけです」


 届いた旦那様のイラストがめちゃくちゃどタイプだったこともあるが、それは黙っておこう。


「……あー、なんだ、あー悪かったな」


 私の言葉に勘違いを起こしたのか、頭をさわさわと優しく撫でてくれる。邪魔者をこれ幸いと追い出したのをオブラートに包んだと思われてるんだろうか?


 邪魔者扱いされていたのは事実だし、追い出されたのも、まぁ事実っちゃ事実なんだけど。趣味を禁じられていた私としては、家を早く出たくて仕方なかったし、会話できる相手がいるだけで嬉しいんですが。


「その、お前の好きなものはなんだ」

「シャンデリーです」

「は?」

「名前、妻になるんですよ? 名前で呼んでください」

「シャンデリー……」

「はい!」


 こんなに美しい声で名前を呼ばれるだけで、幸せな気持ちになれるだなんて。美声、やっぱり最高!


 国で流行っていた劇団にハマって、こっそり通っていたけど。あの時の俳優の声より耳馴染みがいいし、体の中に染み込んでいくみたい。


「シャンデリーの好きなものはなんだ?」

「そうですねぇ、本も劇も好きですし、猫ちゃんもお菓子も、結構好きなものは多いですよ。あ、どれか一つ食べてみます?」

「食べないと言ってるだろ!」


 しつこいな、と語尾に付いている気がするがそれはご愛嬌だ。私は、自覚がなかったけど欲深いらしい。妻という立場で愛人は許容したくない。まぁ、そんなこと言える立場ではないのはわかってる。


 だって私は、国を侵攻されないための生贄だ。


 まぁでも、この美貌で人間たちを骨抜きにされまくったら、そりゃあ国は回らなくなるわ。


 うんうん、これだけの美は、暴力だわ。わかるわかる。だって、いくら見てても飽きないもの。


 まつ毛の一本一本を数えるだけでも、うっとりとして愛が深まる。


 顔が好みなのは、もちろんだけど、魅了的な力もあるのかもしれない。むしろあってほしい。癖に突き刺さる。


「魅了的な魔法使えます?」

「は?」


 いよいよ遠慮のなくなった返答と、眉間の皺すら愛しい。もはや病的に旦那様が好きになってる。これも、旦那様の種族的なものの影響かも、わからないけど。


「そんなもの、存在してたら世間を揺るがすだろ」


 旦那様の吸愛鬼っていう存在だけで既に世間を揺るがしてると思いますが、とは答えられない。久しぶりに誰かにこんなに話したから、また喉がカラカラだ。コップを手に取ろうとすれば、口元に運ばれる。


 至れり尽くせりなのは嬉しいけど、やっぱり激しい嫉妬が湧き上がってしまう。これも、もしかしたら、食いっぱぐれないための何かが作用してるのかもしれない。


 嫉妬も要は愛だ。愛してるからこそ、嫉妬をする。


 難しい……とにかく、旦那様のビジュが爆発してることだけはわかる……とりあえず、愛を食べてみてくれればいいのに。


 首元をもう一度捲って見せつけようとした瞬間、強い力で押さえつけられる。


「いい加減にしろ」

「タイプじゃない、と」

「そういうことではなくてだな」

「食べてくれたっていいのに」

「今日は別室で寝る!」

「えー! 新婚初日なのに別室だなんて」

「襲われるだろ」

「襲ってくれるんですか?」

「いや、私がお前に襲われるだろ!」


 心底怯えた表情でじろりと私の顔を見つめる。間違ってないかもしれない。寝ぼけてたら、ちゅーっと食べてくれたりしないかな、とかは思ってた。


「破廉恥な!」

「なっ……!」

「冗談です。襲わないので、とりあえず同じ布団で寝ませんか? 人質とはいえ、さすがに外聞が悪いのは……」

「あ、あぁすまない」


 おっきい天蓋付きのベッドに腰掛ければふかふかだ。ぐっすり眠れそう。


 旦那様の様子を伺えば、端っこの方で小さくなってタオルケットをまとっている。布団を私に譲るためなんだろうけど、健気で可愛いなぁ、本当に。


 ありがたく布団に潜り込めば、軽やかでふかふかで、思ったよりも体に溜まっていた疲れのせいか、ふわりと眠りに落ちていく。


「おやすみなさ……ませ……」

「あぁゆっくり寝ろ」


 

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