第7話 願望と陰謀と
その室内には古びた本や、茶色く変色した紙が足の踏み場もないほどにうず高く積み重ねられている。
中央に置かれた黒檀の古びた豪奢な机。
机にデザインを合わせた華美な装飾が行われた椅子。
その椅子に腰を掛け、楽しそうな顔をしている七色の髪をした少女がいた。
少女は傍らに佇む喪服のような服装をした銀髪の女に尋ねる。
「ねぇ、『世界』? 今のところボクのゲームはどんな状況になっているかな?」
「……ゲームマスター様。いえ、師匠。ここには二人しかおりません。無理なキャラクターをつくるのはやめていただいて構いません。というより、うざったいのでやめろ」
「……君は相変わらず言いにくいことをズバッというよね」
「えぇ、師匠の教育がいいもので」
ゲームマスター。
師匠と呼ばれた、風谷七詩は頬杖をつく。
そして、目の笑っていない微笑みを浮かべた。
それに対応するかのように、硬質な声色で「世界」と呼ばれた女は答える。
「現在の生存者は20名です。死亡者の内訳としては、師匠が殺してしまった『女帝』の金城麗花。それと、『悪魔』の後藤方舟が殺した『魔術師』の有幕遊の2名となります。その2名が所有していたカードはすべて後藤方舟が所有しております。あとの人物はすべて1枚ずつとなっております」
「ふーん。まだ始めたばかりとは言え、割と低調な滑り出しだね」
「おそらくですが、人を殺めるということに忌避感をこの国に住まう人物が持っていると考えられます。後藤方舟や二瀬野陽彩、そして村田フレイは例外になるでしょうが」
「じゃあ、次はその忌避感を取り除いてあげないとね」
ゲームマスターはニヤリとした笑みを浮かべる。
「師匠、2つ質問よろしいでしょうか?」
「何だい?」
「後藤が『魔術師』を使えなかった理由と、露刺朝陽に『塔』の逆位置による影響がなかった理由がわからないので教えていただければと思います」
ゲームマスターは椅子の背もたれに体を預け、楽し気な笑みを浮かべながらその問いかけに対する答えを提示する。
「まずは後藤クンが『魔術師』を使えなかった理由。実はすごく簡単なことなんだ」
軽い調子で答えながら、まるで裁判の際に静寂と傾聴を求める木槌のように机を指で軽く叩く。
「カードたちはね、その人間が持つ『心の中からの望み』に結びついている。で、『魔術師』は『創造』を司るカードなんだ。つまり、『何かを創りたい』という思いが必要さ。でも、後藤クンの場合は『壊す』『殺す』ことが目的。それが何で『悪魔』と結びついたのかはわからないけど、『終わらせる』系統の願いを持つ人が、『創造する』カードを使えないのはなんとなくわかるよね」
その「世界」と呼ばれた女は、その一言一句を聞き逃さないように注意深く聞いている。
ゲームマスターからの説明。
理解したことを示すために、「世界」と呼ばれている人物は軽く首肯する。
「そして、露刺クンに『塔』の逆位置による影響がなかった理由ね。これはさ、『塔』の逆位置は『相手の精神を破壊する』能力なんだ。どんな状況でも絶対に壊すことができないものって何かわかるかい?」
言葉を切り、「世界」に対して尋ねる。
その「世界」はその質問に対しての答えがないので、「わかりません」とだけ答える。
「簡単だよ。もうすでに壊れているものはどうやっても壊せない。露刺クンはあんな顔をしているけど、どっかすでに壊れているんだろうね。このボクが頑張ってルール説明しているときに一人だけ青い顔をして、吐きそうになっていたし」
「……理解しました」
その「世界」の答えに対して、ゲームマスターは満足そうに頷く。
「じゃあさ『世界』。そろそろ君にも動いてもらいたいな。ボクたちの。いや、ボクの目的のために」
「……かしこまりました。師匠の目的のために、師匠にすべてのカードを捧げましょう。では、行ってまいります」
そう言い残しよく磨かれて鏡のようになった金属製のドアをくぐり、「世界」はその部屋を退出した。
見送ったゲームマスターは床に積み上げられた本の中から一冊の白い本を手に取り、机に置いた。
本の名前は――虞美人草。
残された部屋の中、ゲームマスターは。風谷七詩は、そっと小さく呟く。
「……ここまで400年か。ボクの願いが叶えばいいんだけど」
その言葉は微かに部屋に響いたが、部屋には静寂が戻った……。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――