第5話 正義と妄執と
「いや~危なかったっすね」
その少女は微笑みながら、俺たちに語りかける。
少し長めの髪の毛をポニーテールにまとめ、いかにも快活そうな部活動の後輩マネージャーといった感じのジャージを着用している。
「……助けていただいてありがとうございます。俺は露刺朝陽と言います」
「私は月代聖良です。あなたは?」
「僕は二瀬野陽彩って言うっす。お礼なんていいっすよ。『困っている人を助けるのは正義の味方。その役目』っすっから」
その言葉に俺は過去に見たアニメを思い出す。
そのセリフは俺が父親の仕事でアメリカに住んでいた時代、日本のアニメに詳しいやつが勧めてくれてよく見ていた魔法少女もの。
最初は主人公に敵対する組織の「悪の魔法少女」として登場し、のちに主人公たちの味方になるキャラクター。
その人物がまだ悪の組織にいた時代、自分を正義と称して行動していた時の口癖だったからだ。
「……魔法少女カラフルコレクター。黒崎礼奈」
「……知ってるっすか! 結構マニアックな作品っすよ!?」
二瀬野が俺の話に食いつく。
俺自身、この作品は大好きでコスプレをしていたくらいだ。
それが日本に帰国したときに友人の前で見せたら、「女の格好をする変な奴」って言われた。
それで、心が折れたんだけど……。
でも、作品に罪はない。
「いや、俺も好きだったんだよ。特に24話! 黒崎礼奈がクーリアに能力と記憶を消されて、マゼンダとの記憶からブラックとして覚醒するっ!」
二瀬野の表情がスッと曇る。
そして、不満そうに口をとがらせる。
「24話は大っ嫌いっす。悪の組織に所属しておいて、自分なりの『正義』を掲げて戦う。それを全部台無しにしたっすから。見返す時は23話でやめてるっす」
「……は? なら、なんで黒崎のセリフをお前は言うんだ?」
俺は少し、声に怒気を交え問いかける。
それに対し二瀬野は眉をひそめながら答える。
「そりゃ、23話までの礼奈が好きっすからよ。23話までの礼奈は『正義』の本質をついていたっす。でも、24話のあれは無いっす。あれは視聴者への裏切りっすよ。あんなもんは正義でも何でもない。ただのエゴっすよ」
二瀬野はそう語りながら、その拳を強く握りしめていた。
心の底から、その作品を恨んでいるかのように。
「は? お前、ちゃんと見たのか? あれは黒崎と赤峯がお互いに対立する正義と正義をぶつけ合った結果だろ? 黒崎なりの正義を貫いたっ! クーリアに脅されながらっ!! その名シーンを? ざけんなよっ!!」
俺は声を荒げる。
こいつは「自分の為に行う正義」と「他人の為に行う正義」。
その区別がまるでついていない。
あの作品が伝えたかったことを何一つ理解していない。
――むなしい。
いや、違う。
こんな奴に、俺の好きな作品を否定されたことが許せない。
俺の人生を変えてくれ、そして心の支えとなってくれている作品が伝えたかったこと。
それを何一つ理解していない。
俺は、殺意を覚えた。
そして、それは二瀬野も同じようだ。
俺たちは、カードを取り出す。
「もういいっす。お前を助けたのは間違いだったっす! 塔、正位置。<崩天の号令> 落石を発生させるっす!」
「死神<正位置>終焉の宣告者! その落石を無効にする!」
落下してきた岩が、砂と化し、消えた。
俺たちはにらみ合う。
もうわかった。解釈違いは殺しあうしかない。
俺はこいつを殺す。
「なら、これでどうっすか! 塔、逆位置。<マインド・ブレイク>! 露刺朝陽の精神を破壊するっす!」
「効くかよ! そんなもん!! 死神<正位置>終焉の宣告者! その効果を無効にしろっ!」
俺は先の戦いで受けた痛みや怪我を忘れたかのように、二瀬野に襲い掛かる。
「は!? なんで<マインド・ブレイク>が効かないっすっか! これは即時で効果が発揮されるっすよ? 対抗なんてできるわけないっす!」
「知らねーよ! 効かないなら、効かないだけだろ! そんなどうでもいいことは、どうでもいいだろうが!」
こいつはここで殺す。
殺さなければダメだ。
解釈違いは生かしておけない。
「……死神、正位置<終焉の宣告者>。死ね! にせ 」
「『女教皇 逆位置<サーキット・ブレーカー>』露刺くんを対象にします」
俺が「死神」のカードを使い、直接二瀬野の命を奪おうとした時だった。
月代さんが、それより一瞬早くカードの能力を使用する。
すると、俺の意識はスイッチを切ったかのように闇に落ちた……。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――