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第4話 苦悩と策略と

 俺たちは路地裏で座り込んで休んでいる。

 月代さんはまだまだ余裕がありそうだけど、俺に体力的な余裕がなく休ませてもらっているという情けない状態。

 その情けなさが俺の劣等感を刺激する。

 俺は膝を抱え、下を向く


「露刺くん?」


 月代さんが俺の顔をのぞき込みながら、俺に声をかけてくる。

 その瞳には怒りはなく、驚くほど穏やかであり、全く俺を責めてはいない。

 それがかえって、つらい。


 俺は――無力だ。


「あなたがあの時アドバイスをしてくれたから、私たちはいま生きているんですよ? 単純な力で勝つことだけがすごいことじゃないんですよ。むしろ、私はあまり考えないタイプなので、うらやましいまであります」


 思った言葉が口をついて漏れていたらしい。

 月代さんにそんなフォローをされてしまうこと自体、俺にとっては情けない。


「……俺は確かにアイツの弱点を看破することは出来ました。ですが、ただそれだけです。月代さんがいなければ、俺は撃たれて終わっていた。こんな僕に何ができるんだ。わからない。わからない。わからないっ!」


 胸を切り裂き、引き裂き、それでも足りないような気持があふれ出す。

 そんな僕の体を後ろから抱きしめてくれる人がいた。


「露刺くんはいろいろ難しく考えすぎなんですよ。もっと馬鹿になっても良いと思います。『頭で考えすぎると、足が止まる。足が止まると、気持ちが止まる。気持ちが止まると、心が折れる』。――私がかつて救われた言葉です」


 俺は顔を上げ、月代さんの顔を見る。

 その顔は、にこやかに笑っていた。


「……あまり面白い過去の話ではないので、詳しいことは秘密にさせてください。それに、女には秘密があったほうが魅力的でしょ?」


 月代さんはそう言って、笑った。

 だが、その笑顔にどこかさみしそうな色がにじんでいるのはなぜだろうか……?

 俺はその月代さんの顔を見つめる。

 この人にも、何か叶えたい願いがあるのだろう。

 ゲームマスターは「心の底から湧き出すような強い願いを持つ人物を集めた」と言っていた。

 それが何なのかはわからないけど、きっとその「救われた言葉」を言ってくれた人が関係しているのだろう。


「……誰かが近づいてきます。露刺くん、立てますか?」


 月代さんが鋭い視線に代わり、あたりを見渡す。

 俺もまだフラフラするが、腰を上げ暗い路地の奥を注視する。

 規則的な足音。

 誰かがこちらに向かって近づいてくる。

 角を曲がり、姿が見える。

 ボロボロの白衣を着ているように見える。

 その人物は俺たちを見つけると声をかけてきた。


「あぁよかった。私は後藤方舟と言います。何か話し声が聞こえるので、情報を交換できればと思いまして……」


 後藤方舟と名乗ったその女は――まるで骸骨のようだった。

 無駄な脂肪が一切なく、一見するとやせ細った男のような体形。

 ゲームマスターが「全員を女の姿にした」と言っていなければ、たぶん男と勘違いしただろう。

 髪は青みを帯びた白で、ぼさぼさの脇くらいまでの長さとなっている。

 身長は170㎝くらいだろうか?

 そして、その瞳は友好的な声色とは対極。――狂気に染まっていた。


「あなたが私たちに敵意がないことを証明できますか?」


 月代さんが剣呑さを隠さずに問いかける。


「私のカードをあなたにお預けしましょう。もし、私が少しでも怪しい動きをしたら逃げていただいて構いません」


 気持ち悪い。まるで、空気が腐っていくみたいだ。

 俺は自分のカードである「死神」の能力を思い出す。

 確か「何らかのものを、終わらせる」という、ものすごく抽象的な説明だったはずだ。

 終わらせること……。

 それはつまり、例えばこいつがついている「嘘」を終わらせることもできるのか?

 俺はその仮定を検証するために、震える指で自分のカードに触れたまま宣言する。


「死神の正位置<終焉の宣告者>を発動します。後藤方舟の本心を隠す行動を終わらせろ」


 月代さんが俺の顔と、後藤方舟の顔を交互に見る。

 後藤は俺に何かを言おうとして、辞める。

 何度かその行動を繰り返す。

 少し笑顔を浮かべて、何かをごまかそうとするがそれも上手くいかないようだ……。

 ――そして、後藤方舟が憎々しい目を俺に向けてくる。


「……はぁ。せっかくこの俺様がお前らをだまくらかして、お前らのカードを奪おうとしてるってのに。全部台無しじゃねーか。うぜーなこのクソガキ」

「……敵意は無いって言いましたよね?」

「あぁ? つまんねーこと聞くなよ。テメーみてーな羽虫。敵ですらねーよ。敵じゃねー奴に『敵意』なんてもん、持つわけねーだろ」


 これが本性なのだろう。

 相手に優しい声色で話しかけ、相手に信用させる。

 そして最後にそれを裏切る。


「あーあ、面倒くせぇ。こいつらだまして奪って俺様が勝利すればって考えてたの、全部無駄じゃねーか。ムカついたぜ。腹いせに、このカードでぶっ殺すか」


 後藤がそう言い、1枚のカードを取り出す。

 そのカードは「魔術師」。

 俺たちをあの居酒屋みたいな場所で、襲撃した女が持っていたカードだ。


「お前! そのカードのもともとの持ち主をどうしたっ!?」


 俺は問いかける。

 まだ、体力が回復しきっていないので少しでも時間を稼ぎたい。

 そのために、分かり切っているがあえて質問をする。


「はっ! バカみたいなこと聞くんだなクソガキが。殺したに決まってんだろ? まぁ、お前にも後を追わせてやる。行く先は地獄だろうなっ! 死ねよ。『魔術師 正位置 <人知創造> 銃』」


 後藤が能力発動の宣言を行う。

 だが、何も起こらない。


「ん? なんだ? 使えねーのか」


 そういって後藤はカードを白衣の胸ポケットにしまおうとした。

 その瞬間、月代さんが躍りかかる。

 拳が届こうとした瞬間。


「まぁ、こんな素人くせーパンチなら素手で余裕だっつーの」


 殴りかかった月代さんの腕を掴んだと思ったら、そのまま足払い。

 月代さんは自分の攻撃の威力を利用され、そのまま転ばされてしまう。

 そして、まるでサッカーボールを蹴るかのように月代さんの頭を狙って足を振り上げる。

 あの足が振り下ろされたらきっと――。

 月代さんが、死んでしまう……。

 嫌だ。

 嫌だ。嫌だ。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 俺に、何ができる?

 俺に、何ができる?

 動け、動け、動け!


「うわぁあぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!!」


 気が付くと、俺は後藤の足にしがみついていた。

 無我夢中。

 支離滅裂。

 他者から見たら、何をやっているんだと映るかもしれない。

 我ながらみっともない。

 だけど、今の俺にはこれしかできない。

 できないけど、それは「しない」理由にはならないっ!


「クッソ! 離れろこのクソガキ!!」


 反対側の足で踏みつけられる。

 蹴られる。

 痛い。痛い。痛い。

 でも、これで月代さんは助かるはずだ。

 そうなれば、まだチャンスはあるはずだ。


「もういい、てめーから殺す。悪魔の正位置、<操葬行進曲>このクソガキを対象とする」

「死神。正位置<終焉の宣告者>その効果を無効にする!」

「は? うっぜぇ、なぁっ!!」


 俺は思いっきり蹴り飛ばされる。

 咄嗟に、能力発動に対して無効の宣言をしてみたけど効果はあったようだ。

 多分、「効果を強制終了」という形で解釈されたのだろう。

 だけど、反撃の機会をうかがっていた月代さんに向けて飛ばされてしまう。

 二人まとめてその場に倒されてしまう。

 これで、終わりなのか……?


「これで終われやっ!!」


 まだ、何も。

 何も出来ていない。

 こんなところで、終わってしまうのか……?

 後藤がカードを構える。

 その時だった。


「塔 正位置<崩天(ほうてん)号令(ごうれい)>落石を発生させるっす!!」


 突如聞こえてきた声。

 それが起こした現象に、後藤が驚愕に目を見開く。

 上空から岩が多数、降ってくる。

 たまらず後藤は距離を取り回避する。


「二人ともこっちっす!!」


 俺たちはその声が聞こえたほうへ走り出す。

 落石が起こす地響きと、身体の痛みで走りにくい。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 今は生きるために逃げる。


「……黒髪のほうはともかくとして、銀髪のほうはいま殺すには惜しいか」


 後藤が何かをつぶやいたようだが、衝撃音にかき消されてよく聞こえなかった……。

ご覧いただき、ありがとうございました!

★での評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。

感想をいただけると励みになります!

次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!


カードが揃うまで、物語は止まらない――

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