第42話 模倣と資格と
「……少し手間をかけてしまいましたが、これで終わりとなりますね。はぁ、最低な存在でした。あまりにも面白くない、不快でした」
村田が、何かを呟いている。
そのカード、「審判」で造られた棺。
棺の蓋が開き、俺の身体が外へと放り出される。
「では、カードをいただくといたしましょうか」
村田が、俺のカード――「死神」に手をかける。
「…………るな」
「はい?」
薄汚い村田の手が、俺のカードに触れた。
だから、俺は怒気を込めて叫ぶ!!
「……俺の、カードに、…………汚ねぇ手で、触れるなっ!!」
俺は左手で村田の顔を殴りつける。
手に伝わる、骨が折れた感触。
見ると村田が鼻血を流していた。
鼻骨が折れたのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでも良い!!
「な、なぜっ! 動けっ!? ひっ!! 血ぃ!! 崇高な私の血ぃ!? き、貴様ぁっ!! 何故、この崇高な私のカードで死なない!?」
「……俺は信じたのさ。カードの力を。お前みたいに、猿真似をするだけじゃ無い。――これが俺の信じた戦い方だ!!」
村田が俺に、棺桶の中で見せてきた光景。
それは過去の俺が引きこもりになるまでの、絶望の日々。
だけど、それがあったから俺は太陽ねぇに出会えた。
だけど、それがあったから俺は後藤さんにカードを託された。
俺が「克服」した過去に過ぎない。
そんなもので、今さら俺は折れないっ!!
「……ならば、これでいかがでしょうか? No.15正位置 対象はそこのゴミぃ!!」
村田が鼻をおさえながら、カードを使う。
だけど、そのカードは効果を示さない。
「そのカードは後藤さんのカードだ。お前ごときが使えるわけないだろ。お前に、その資格は――無いっ!!」
俺はゆっくりと村田の元へ歩みを進める。
「……では、こちらは! No.7 正位置。 ――はぁっ!?」
村田が「戦車」のカードを使う。
しかし、そのカードも効果を示さない。
「……お前は俺が『死神』しか使わないって言ったよな?」
「ひ、ひぃ!! く、来るな!! 来るな化け物!!」
俺が歩みを進めるたびに、村田は少しずつ後ずさる。
「……『化け物』、か。俺からしたら、お前のほうがよっぽど化け物だろ。――さぁ、終わろうぜ。あえてお前の真似をして、誰かの戦術をパクろうか。そのほうが、お前も苦しいだろ? 魔術師、正位置<人知創造>銃」
中学の頃、「学ぶ」という言葉の語源は「真似ぶ」と聞いたことがある。
誰かの真似をするのは良い。
問題はそのあと。
それを自分なりに昇華し、新たな概念へと変化させる。それが大事なのだと。
まぁ、これも太陽ねぇのパクリではあるんだけど……。
俺は引き金にかけた指に力を籠める。
「来るな! 来るな! 来るな! 来るな!」
「……うるせーよ。死神、正位置<終焉の宣告者>。お前はもう、しゃべるな」
村田が酸素濃度の低い水槽に入っている金魚のように、口を何度も動かしている。
だが、声は発せられない。
俺は、「死神」で村田の声帯を殺した。
「さぁ、終わろうか。選ばせてやる。この銃で撃たれて死ぬか、カードを捨ててリタイアするか。選べっ!」
俺は村田のこめかみをかすめるように、「節制」のカード効果で銃弾の軌道を調整して発砲する。
目から涙、鼻から鼻水、口からよだれ、股間からは失禁。
これが、他人を舐めてきた人間の末路か……。
「……っぁ!!」
俺は地面に落ちた、「審判」のカードを拾う。
「……これで、よかった。のかな?」
俺の問いかけには、誰も答えることはなかった……。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――




