第41話 地獄と福音と
『お前、女装とかキモいんだよ』
『中学生にもなって、魔法少女? そういうのが許させるのは小学生までだよね』
『よく見ると、可愛い顔をしているな。ちょっとこっち来い』
これは――地獄だ。
村田フレイが使うカードの能力なのだろう。
おそらく、過去の辛い記憶を追体験させる。
そして、心を折る。
俺は、その場にへたり込んでしまっていた。
(なんで、今さら、あの日の地獄を……)
母親に似て、女の子のような容姿をからかわれた日々。
父親にアメリカに連れて行かれて、たまたま見たアニメのコスプレをした日々。
コスプレを否定された日々。
その地獄を俺は何回も執拗に追体験させられ続ける……。
(これは、地獄だ……)
周囲が闇に包まれ、黒い人影が俺を罵倒する。
その罵倒は激しさを増し、俺は耳を塞いだ。
(……やっぱり、無理だったのかな。俺には)
人を信じて、裏切られて、罵倒される。
それでも俺は。
俺は、人を信じてみたかった……。
<情けねーな。だから、お前はクソガキだって言うんだ>
後藤さんのような声が聞こえる。
それは俺を責め立てるように聞こえた。
<は、ボクちゃんは悲劇のヒロインですってか? ちったー上くらい見ろや、クソガキ>
上?
上なんて見て、何の役に立つんだ?
俺はその声に従って上を見上げる。
どこまでも続くかのような闇。
そこにわずかだけど、光が差していた。
声が聞こえる。
<少年! 立て! あの日のように!! 少年なら出来る!>
<露刺くん。あなたなら出来ます。いえ、あなたにしか出来ません>
太陽ねぇに月代さんの声。
差し込んでいた光の筋が大きくなる。
そこから手が伸ばされる。
俺はその手を掴む。
<勝てよ! 露刺!!>
「後藤さん。ありがとうございました。勝ってきます」
俺の手には「死神」のカードがしっかりと握られている。
もう、俺は何も怖くない。
俺を閉じ込めていた、棺桶の蓋が開いた。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――




