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第40話 死神と審判と

 月代さん達と別れてから、ほんの僅かしかたっていない。

 それなのに、時は無情にも、加速していくように感じる。


「……おや、銀髪の女だけですか。ほかのお二人はどちらに行かれたのですか?」


 俺の前に村田フレイが悠然と現れた。

 まるで俺のことなど、道端に落ちている石ころくらいにしか思っていないような様子である。


「……やはり、信頼できるのはご自分だけ。ということですか」


 まだ少し言葉を聞いただけだが、一つだけわかったことがある。

 こいつは――他人を舐めている。

 他人を見下し、蔑み、その命の散り際を楽しむ。

 俺は、こんな奴に、負けたくないっ!!


「……信頼など、何の役にも立たないゴミですよ。お分かりでないのですか?」

「さぁな。そんなことはどうでもいい。ただ一つだけわかることがある。お前は俺の敵だ。俺はお前を倒す!!」

「できるものですか? 貴方のようなちっぽけな存在に!!」


 村田は「塔」のカード。その力で、落石を発生させて俺を殺そうとする。

 だが、俺は「死神」のカードの効果でそれを無効にする。


「なんだ、もう終わりか? ――やっぱお前、後藤さんの言う通りだな」

「……ほう、後藤方舟が私のことをどう評していたのでしょうか?」

「簡単に言ってやるぜ。『バカ』だってさっ!!」


 俺は吐き捨てるように怒鳴る。

 それに対して村田は表情を消した。


「……この崇高な私が、『バカ』ですと?」

「あ、悪い。間違ってたわ」


 消したはずの表情に浮かぶ不快感。

 それをもっと歪ませるように、俺は煽る。


「訂正するぜ。『超絶怒涛前代未聞の大バカだ』って。後藤さんなら、そういうだろうなっ!!」


 少し誇大表現をしてみたけど、まぁいいだろう。

 徹底的に煽って、冷静さを失わせる。

 それが、俺の思いついた勝ち筋の一つだから。


「……滑稽ですね。ゴミが喚いても汚い音が響くだけですよ。まったく、黙って聞いていれば好き放題。かないませんね」

「黙ってねーだろ。あと、お前口くせーんだよ。お前こそ、ちったー黙ってろ」

「……もういいです。お前は殺す。確実に」

「いいや、俺は生きるっ! お前を倒して!!」


 村田は「恋人」の力を使い、俺と地面を融合させようとする。

 地面がうねり、腹を空かせた大蛇のように俺を取り込もうとする。

 だが、俺の「死神」がそれを許さない。


「それならば、こちらはいかがでしょうか?」


 口調に冷静さが戻った村田は「塔」のカードを使う。

 落雷や突風が巻き起こり、俺を死へと誘おうとする。


「……大体分かった。お前、他人のものまねしか出来ねーだろ」

「………………は?」

「さっきの『恋人』は双川姉妹の使い方と同じ。今の『塔』の使い方は『二瀬野陽彩』の使い方と同じ。は、情けねーな。このパクリ野郎」


 村田のこめかみに青筋が浮かぶ。

 咳払いをして、冷静さを取り繕うように村田は俺に話しかけてくる。


「……先ほどから『死神』しか使わないようですが、そのカードしかお持ちではないのですか? ほかの二人にすべてのカードを押し付けたので?」

「は。バカにすんなよ。お前ごとき『雑魚』に何枚もカードを使ったら、単なる虐殺になっちまうだろーが。今みたいに、遠慮して、手加減して、やっと互角の勝負になってるだろ? あんま瞬殺したら、かわいそうだなと思って。もっと死力を尽くせよ雑魚」

「……はぁ?」


 村田の表情に、明確な怒りが浮かぶ。

 冷たい自信に彩られた冷酷な仮面が、少しずつ剥がれ落ちている。

 だから最も的確に村田をイラつかせるであろう言葉を選び、奴に向かって言い放つ。


「はっきり言ってやる。お前、弱いだろ」


 明らかに村田の表情に「お前を殺す」という色が浮かんだ。

 村田は持っているカードをすべて取り出し、俺に見せつけてくる。


「……いいでしょう。あなたがその気なら、この崇高な私が全力をもって叩き潰します。――死ねよクソガキ」

「俺のことを『クソガキ』って言っていいのは、後藤さんだけだ。――つまんねー奴だな」

「殺す」

「死なねーよ。お前を倒して、俺は生きる!!」


 村田が小声で何かを呟いた。

 すると、俺の身体を赤黒い霧が包む。


「残念ですが! 終わりですよ!! もう逃れられない!!!」

「……なんだよっ! これは!!」


 俺の身体を赤黒い靄が包む。

 咄嗟に「死神」の無効化能力を使うが、それも効果を示さない。

 ……何が起こっている?


「最期ですので教えて差し上げしょう。これは崇高な私のNo.20。その力。逆位置<キャン・ノット>ですよ」

「……クソっ!! 何でだよ!! 何で俺は、コイツに勝てると思ったいたんだ!?」


 村田フレイが酷薄な笑みを浮かべる。


「理想や目標に対して強烈な不信感を持つ! 他人への信頼感を失う! そして、強烈な虚無感に襲われる! それがこの力になるのですよ!! 最高に美しい汚さですね!!」

「……なんだよ、なんなんだよ! さっきまで、勝てそうだったじゃないか!!」

「他人をバカだと蔑むからですよ。たった1手あれば、それでいいのです。――では、さようなら。No.20 正位置<追想の牢獄>」


 俺を包んでいた赤黒い霧が棺へと姿を変え、俺をその中へと納棺した。

ご覧いただき、ありがとうございました!

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次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!


カードが揃うまで、物語は止まらない――

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