第39話 決意と覚悟と
「……後藤さんは大丈夫でしょうか?」
逃走を続けながら、月代さんが呟く。
俺はそれに答える言葉を持たない。
だって、後藤さんは――死ぬ気だから。
「まだ後藤氏とは会ってから間もないから、どういう人かはよくわからない。でも、この『太陽』のカードがあれば怪我なら治せる。だから、きっと……大丈夫な……はず……」
太陽ねぇがそう言い、自分が持つ「太陽」のカードに触れる。
その様子を見て、俺は足を止めた。
「……露刺くん?」
「どうした、少年?」
二人が俺に問いかけてくる。
だから俺は、笑顔で答える。
「二人は先に行ってください。たぶん、村田は自分の身体能力を上げるカードを持っている。だから、俺がここで足止めします」
「……え?」
「……はぁ!?」
二人が素っ頓狂な声を上げる。
後藤さんがあれだけ「危険だ」と言っていた相手に、俺一人で立ち向かおうとしている。
「な、なにを言っているんだ少年! さすがに無茶だ!!」
「そうですよ、露刺くん。死んじゃいますよっ!?」
「……月代さん、よく考えてみてください。後藤さんが負けて、村田が『悪魔』を手に入れていたらってことを。その状況なら、3人一緒に居たところで、操られて同士討ちですよ。それなら、もう分かりますよね」
俺はそう問いかける。
無論、答えは一つしかないことはわかった上で……。
「……露刺くん。露刺くんは最高にひどい人ですね。何度考えても、ここで露刺くんと別れるのが最適解となってしまうじゃないですか」
「……3人で戦ったとしても、『悪魔』の効果で同士討ちをさせられて終わり。少年が戦って負けた場合、『死神』を取られたとしたらどのみち終わり。少年の『死神』は他人を即死させられる。ほんのわずかだけど、少年が一人で残って勝つのが最適解」
「……そんなことは、頭ではわかっているんですよ。でも、そんなことは認めたくないし、したくない」
月代さんと太陽ねぇは、状況を理解したようだ。
だけど、それを受け入れがたくて困っている。
「……だから、俺があいつと戦います。そして、勝ちます」
俺はまっすぐに二人の目を見て宣言する。
その視線に耐えられないかのように、二人とも目を伏せる。
「……そうだ! 私の『女教皇』で失神させれば!!」
「無理ですよ。その前に、地面と融合させられて終わりです。俺の『死神』は唯一それを回避できる。実際、さっき一回やりましたからね」
「……少年、死ぬ気なのか?」
「まさか。俺は後藤さんから託されたんですよ? まずは、あのゲームマスターとかいうクソ女をぶん殴って、元の世界に戻って高校生活を送りますよ。それから……好きな女の子をつくらないと。まぁ、フラれるかもしれませんけどね」
「……月代氏、無理だ。少年は本気でここに残る気だ。この覚悟を決めた目を崩せるだけの根拠はあるのかい?」
月代さんは答えず、「女教皇」のカードを取り出し見つめる。
怪しげに微笑むカードの女性は何も答えない。
「……露刺くん、一つだけ約束してください」
「何ですか、月代さん」
「絶対に生き残ってください」
「はい」
「……行きましょう、赤沢さん」
「少年、勝てよ」
二人の姿が徐々に小さくなっていく。
そして、完全に見えなくなった……。
「……はぁ、怖いなぁ」
俺は思わず呟く。
よく見ると、腕が小さく震えていた。
――少しは、格好を付けられたかな。
「後藤さん。俺に、できますか?」
問いかけた言葉に答えるものは居ない。
だが、後藤さんにかけられた言葉が俺の脳内に反響する。
俺は目を閉じ、そっと首からネクタイを外す。
この世界に来た時にクソ女に外見を変えられ、無駄に長くされた銀髪をネクタイで縛ってまとめる。
喪服を思わせるようなジャケットを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを一つ外す。
これで少しは動きやすくなった、と思う。
「……後藤さん、俺に力を貸してください」
託された4枚のカードを俺は見る。
そしてカードに自らの血を垂らし、その能力を確認する。
俺は村田を倒す方法を考える。
後藤さんは「死神」で即死させろと言っていた。
だけど、俺はそれをしたくない。
「……この方法ならいける。かもしれない」
分の悪い賭け。
でも、この方法がうまくいけば……。
「……後藤さん、力を貸ります」
俺は後藤さんから託されたカード達を見る。
それらは何も答えない。
だけど、後藤さんに背中を押されたような気がした。
だから……。
「かかってこい、村田フレイ」
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カードが揃うまで、物語は止まらない――




