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第3話 策謀と絶望と

 その女、有幕(ありまく)(ゆう)は逃げ込んだ薄暗い一軒家の一室で体を休める。

 よく見ると、その身体は微かに震えている。


「……なぜだ。あの銀髪の女は、小生が造り出したもの。それを小生の能力以外で壊されてはならないと気が付いたのだ?」


 先の戦いを思い返しているようだ。

 その女の目には、焦燥が浮かんでいる。

 自らのカードである「魔術師」。

 そのカードを胸のポケットから取り出し、見つめる。

 そして頭を抱える。


「畜生! なんでも造れて、なんでも壊せるのなら! 最強のはずでは無いか!? 違うのか!!」


 銃を創り出し、遠距離から一方的に相手を倒せる。

 それが可能である。

 であれば、自らが与えられた能力が最強である。

 根拠はないが、半ばそう確信を持っていた。

 その思いが揺らいだことで、恐怖を覚えていた。


「……だがちょっと待て。まだ弱点がバレたのはあの二人にだけ」


 そう呟く。

 思考を巡らせる。


「……ならば、なんとしても小生はあの場面であの2人を殺すべきだったのでは無いか? そうすれば、ほかの人物にはバレていない。ならば、逃げたのは悪手だが、最悪手では無い? とすれば、あの二人さえ早めに処理出来れば……」


 恐怖が思考を短絡的にしていく。

 2人と組む。

 そして、時を見て裏切ると言う方法もあったはずである。

 だが、そこに考えが及ばない。

 それほどまでに、「恐怖」という感情は恐ろしいモノである。


「……ならば、どう殺す? 形のあるモノは不味い。となると、毒か?」


 有幕遊が思考を巡らす。

 耳が痛くなるほどの静寂。

 まるで、有幕遊の心情を象徴するかのように……。

 しかし、その静寂を破るようにドアが開かれた。


「誰だっ!」

「すみません人がいるとは思わなくて。少し休もうと思ってここに入っただけです。あなたに害意はありません」

「……信じられるとでも?」


 有幕は咄嗟に銃を出現させ構える。

 普通の人間であれば、「凶器」を向けられれば、大なり小なり動揺をするはずだ。

 だが、その銃を歯牙にもかけていないようにボロボロの白衣を着た女は答える。


「では、私のカードをあなたに預けましょう。まだ信じられないというのであれば、持ったまま逃げていただいて構いません」

「……カードを手放したことによって、このゲームから失格ってことか」

「ええ。ゲームマスターが本当のことしか言っていないと、仮定するのであればですが」


 1枚のカードを有幕に向けて投げ渡す。

 そのカードは「女帝」。


「……完全に信じたわけではない。だが、このカードに免じて少しだけここに居てもいい。だけど、少しでも変な動きをしたら俺はお前を撃つ」

「それで構いません。それと、申し遅れました。私は後藤(ごとう)方舟(アーク)といいます」

「……小生は有幕遊」


 有幕遊は後藤方舟から投げ渡された「女帝」のカードを手に取り、慎重に観察する。

 どこからどう見ても本物のようだ。

 血を垂らし、その能力を確認する。

 そして、後藤方舟が嘘をついていないかを確認するために質問を行う。


「この『女帝』の効果は何だ?」

「ええ、正位置は『愛欲の抱擁』で抱きしめた相手の思考能力を一時的に奪うようです。逆位置は『バウンド・リーシュ』と言って、同じようなもの。ただ、効果が出るまでに時間がかかるようです。それで、あなたのカードの能力は?」

「小生の『魔術師』の『人知創造』は、両手で持つことができるものであればどんなものでも造り出せる能力。その反面、造り出したものを破壊されれば、カードを奪われたのと同じになる……。逆に、『ルーインド・シュレッダー』は手を触れたものを破壊できる能力」


 この人は嘘をついていない。

 そう確信した有幕遊は、後藤方舟に対して信頼を示すためかその銃を破壊して見せた。


「便利なのですが、奪われるデメリットが非常に大きいです。そのため、不要になったら自ら破壊するという手間がかかってしまいます」

「そうなんですね。今の私に必要な情報はわかりました」


 そう言うと、後藤方舟は白衣のポケットから1枚のカードを取り出す。

 先までの友好的な雰囲気は掻き消え、心底つまらなそうにカードの縁を指で叩きながら構える。

 その様子を見て、有幕は動揺する。

 なぜ、カードを持っているのか。

 ここに「女帝」のカードがあるはずなのに、と。


「もうテメーはいらねーよ。『悪魔』正位置、<操葬(そうそう)行進曲(こうしんきょく)>。対象は有幕遊」

「な、なにを! 『魔術師』正位置、<人知創造>。銃。えっ!?」


 有幕遊の顔に「まるで意味が分からない」という表情が浮かぶ。

 その意に反して、有幕は能力を強制的に発動させられた。

 手のひらに一丁の銃が握られる。

 後藤方舟は肉食獣を思わせる、獰猛な笑みを浮かべる。


「ばーか! なんでこの俺様がカードを1枚しか持っていないと思った? たまたま俺様のほうに飛んできたカードだ。あのルール説明で死んだ金髪赤ドレスから貰っといただけだっつーの」

「な、なんだ、と? でも、お前俺に敵意はないって……」

「あぁ、敵意はないさ。お前みたいな雑魚、敵とすら思ってないからな。ついでに教えておいてやる。俺様が持つ『悪魔』の正位置は、『行動を操る能力』んだよ!」


 有幕遊の右腕が、自らの口へ銃を誘う。

 そしてその銃口を(くわ)えた。

 抵抗は叶わない。

 まるで悪魔に操られる人形のようだ。

 意図が理解できた有幕遊の瞳から、一筋の涙がこぼれる。


「反抗しようとしても無駄だ。俺様はこの能力を俺様自身に試し、意思と反する動きをしようとしてもできなかった。当然、お前もできないだろ? ――冥土の土産はこんなもんでいいだろ?」


 乾いた発砲音が起こる。

 硝煙の匂いが鼻をつく。

 ヒトからモノになった有幕遊が、その場に転がる。

 その身体は光の粒子となり、消えていく。

 後に残された「魔術師」のカードを、後藤が拾い上げる。


「さて、次はあの黒髪と銀髪の二人組でも狙うか……」


 そう言い残し、部屋を後にした……。


恐れ入りますが、作品の評価をお願いいたします。

下の☆☆☆☆☆を★★★★★★や★★★★☆、★★★☆☆等に変えていただければ幸いです。


また、さらにお願いをして恐縮ですが、「いいね」をタップかクリックしていただけると、私のやる気がバーニングします。

そちらも合わせてお願いできればと思います。


では、次話の更新をお待ちください。

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