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第33話 円環と交錯と

「いや~、人心地つきました~」


 赤髪ドリルテールの女が、後藤さんからもらったチョコレートを食べている。

 後藤さん曰く、「クソ女にもらった。キメェから食ってねぇ」って言っていた。

 あのぶっきらぼうな後藤さんがチョコレート好きなんて、ちょっと意外だ。


「で、テメーは何もんだ? そのチョコレートの代金分くらいは答えてもらおうか」

「そうですね。100円かそこらですので、名前くらいですかね? 名前は、赤沢(あかさわ)太陽(たいよう)っていいます」

「……赤沢太陽って、太陽ねぇ!?」

「なんだクソガキ、姉貴いたのか?」

「いや、違います。俺の、俺の命の恩人みたいな人です」


 その名前に俺は覚えがある。

 引きこもりになった時に、俺の人生に光を照らしてくれた女の人。

 俺の、大切な人の一人だ。


「太陽ねぇ! 俺です。露刺朝陽です!! 数年前に太陽ねぇが俺の家に、ガラスを割って不法侵入してきたっ!!!」

「……つゆさし、あさ……ひ? って……。あーっ!!」

「……太陽ねぇ! うるさいって!!」

「カップル限定テリヤキバーガーセット150円引きを食べるために、なんかつまんなそうに引きこもってたからガラス突き破って無理矢理つれ出した、あのっ少年かっ!!」


 そして太陽ねぇは、無駄にいい顔をして続ける。


「久しぶりだね少年。すっかり髪の毛も白くなって、こんなに長くなっちゃって。胸もこんなに……。ん?」


 そう言うと太陽ねぇは、俺の元に歩み寄り胸を揉んできた。


「うん、確か露刺朝陽は男の子だったはず。確かにかわいい系だったけど、こんなに大きいおっぱいはしてなかった。パチモン?」

「……かわいい系って。この世界で女の姿に変えられたんですよ!! あのゲームマスターに!! 太陽ねぇだって、顔が違うじゃないか!!」

「あぁ、そうだそうだ。忘れてた忘れてた」

「……なぁ、クソガキ。この女、大丈夫か?」


 あの後藤さんがちょっとひいている。

 でも、このマイペースぶりは間違いなく太陽ねぇだ。

 俺が間違えるはずがない。


「……あぁ、なんか思い出してきたわ。赤沢太陽か。確か昔、段違い平行棒で開放骨折やらかした女か。そういやぁ、手術したわ。くっそ面倒くさかった覚えがあるぜ。マイペースすぎて」

「ということは、あなたは後藤ドクター。その節はどうも」


 太陽ねぇと後藤さんも面識があるのか。

 意外と世の中って狭いんだなぁ……。


「あの、ちょっと良いですか!」


 魚住さんが口を挟んできた。


「もしかして、つながりがある人たちなんじゃないですか? どこかで何かで、誰かとの」


 その魚住さんの発言で、太陽ねぇが俺の胸を揉むのを辞めた。

 後藤さんが何かを考えている。

 聞き耳を立てて見ると、ブツブツと何かを呟いている。


「そうか! そういうことか!!」

「うるさいですよ! 後藤先生!! 鼓膜が破けちゃうじゃないですか!!!」

「……そのときは俺が手術してやるから、諦めろ」


 後藤さん、ひどい……。

 そんなことより、


「後藤さん。何が『そういうこと』なんですか?」

「クソガキ。『スモールワールド現象』って知ってっか?」

「……何でしたっけ。確か、『知り合いの知り合いをたどっていけば、世界中の誰にもたどり着ける』とかって奴でしたっけ?」

「そこまで分かってんなら簡単だぜ。こう言えばクソガキなら分かんだろ。クソガキと繋がりのある赤髪ドリル。赤髪ドリルと繋がりのある俺様。言ってみれば、俺様とクソガキは『この世界に来る前から、知り合いの知り合い』ってわけだ」


 後藤さんが何を言いたいかは大体分かった。

 月代さんもおおよそ察したようだ。

 だけど、太陽ねぇと魚住さんがポカンとした顔をしている。

 だから、簡単にまとめてみたいと思う。


「要するに後藤さんは『ゲームマスターが知り合いの知り合い』を伝っていって、俺たち22人をこの世界に集めたって事を言いたいんですよね」

「そういうこった」

「……なら、この世界に集められた人物をたどればゲームマスターまでたどり着けるのではないですか?」


 月代さんが疑問を口にする。

 その発言で一瞬、場の空気が止まった。

 それは。

 それは――俺が考えてはみたけど、口に出すのは怖かった仮説だった。


「どういうことかよく分かりません!」


 その静寂を打ち破る、無駄に元気な声。

 魚住さんだ。


「……魚住。俺様には、お前が頭良いんだか悪いんだかわかんねーよ。時々ハッとさせられるようなこと言うけど、普段はダメダメだもんなお前」


 後藤さんがため息を一つつき、ものすごく雑にまとめる。


「要するにだ。俺様たちはクソ女の知り合いの知り合いの以下略。くらいの関係性があるんじゃねーかってこった。で、その仮説があってんならその関係性をたどればクソ女の正体にたどり着けんじぇね? ってこった」

「補足するなら、それがどんな繋がりかは俺たちには分からないって事です。もし分かるとしたら、それはゲームマスターだけでしょうね」


 俺たちの言葉を受けて、下を向いて魚住さんが何かを呟いている。


「アレフ、ベート、ギーメル、ダレット……」

「おい魚住、お前どうした?」


 突然魚住さんが、何か呪文のようなものをつぶやき始めた。

 だけど、これってどこかで聞いた覚えが……。


「へー、ヴァヴ、ザイン、ヘット、テット、ヨッド、カフ、ラメド、メム、ヌン、サメフ、アイン、ペー、ツァディー、コフ、レーシュ、シン、タヴ」

「……おい、魚住。お前どうした」

「少し黙っていてください。後藤先生っ!! 今、大事なところなんです!!」


 魚住さんがらしくもなく、言葉を荒げる。

 そしてつぶやきは続く。


「ケテル、コクマー、ビナー、ケセド、ゲプラー、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、マルクト。そして、隠された存在のダアト……」


 なんか聞き覚えがある単語が出てきたぞ。

 これって、確か「生命の樹」じゃなかったっけ?

 アメリカに住んでいた時代に、ちょっとだけ聖書の勉強をして出てきた覚えがある。


「今の例えから考えるなら、アレフはケテルとコクマーをつなぐ。そして、コクマーはダレットによりビナーとつながる。だけど、へーによりティファレトともつながる。つまり、ケテルとビナー。ケテルとティファレトはつながっていると言ってもおかしくはない。そして、ケテルからコクマー。コクマーからビナー。ビナーからティファレト。ティファレトからホド。ホドからイェソド。イェソドからマルクトとつながる。そのつながりを示す小径が22。22はタロットカードの大アルカナ。その枚数と一致している」


 なんかよく分からないことを呟き続ける魚住さん。

 そしてそのつぶやきはなおも続く。


「……小径22はタロットカードの大アルカナと対応させるという考え方もある。そうなると、生命の樹。カードの不思議な力によるつながり。『つながり』そのものが、カードの力と仮定するなら。これが一番、可能性が高いはず」


 魚住さんが「すべてを理解した」というような表情で、顔を上げて呟いた。


「この世界は、ゲームマスターによって造られた世界ですね」

ご覧いただき、ありがとうございました!

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次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!


カードが揃うまで、物語は止まらない――

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