第31話 観察と処刑と
「美玲ちゃん、大好き。死んで!」
「やめて! 彩菜ちゃん!! 痛い!!!」
姉妹喧嘩と言うには、あまりにも剣呑な様相を眺める一人の女が居た。
その名は、村田フレイ。「審判」のカードを持つ人物である。
「やはり、挽き立てが恋しくなりますね。缶コーヒーも悪くはありませんが、どうにも味気ない。――少々、物足りませんね」
否。
眺めているのではない。
視界には捉えているが、無感情にその瞳に映しているに過ぎないようだ。
まるで、つまらない映画の中盤部分を見るかのように。
まるで、実験生物を見るかのように。
「この崇高な私に渡されたNo.20。このカードの効果は、少々面白いですね」
村田が見つめる「審判」のカード。
そのカードは薄黒いモヤのようなものに包まれている。
「逆位置の能力が『手を触れたものに対して』発動できる。『理想や目標への不信感を与える』か、『他者への信頼感を失わせる』。または、『強烈な虚無感を与える』ですか。そこから好きに選べるとは、なんとも贅沢ですね」
そう言うと缶コーヒーを一口のみ、2匹のモルモットを無感情に見つめる。
「今回は『理想や目標への不信感を与える』を選んでみましたが……。何でしたか、コレは。確か、『ヤンデレ』とか言うのでしたか。相手への愛情に対して不信感を与えてみたところ、こうなったわけですか。――興味深いですが、少々飽きてまいりましたね。そろそろ、片付けるといたしましょうか……」
村田は手持ちの5枚から1枚を選ぶ。
そして双子に向けて構えた。
「No,5 正位置<支配者の威光>により命じます。お互いが持つカードを使って、どちらかの命が尽きるまで争いなさい」
カードから薄黒い光が放たれ、それがモヤのように双川姉妹を包む。
そのまま数秒が経過しただろうか。
モヤが晴れると、お互いのことを憎しみと愛情がミキサーにかけられてグチャグチャの綯い交ぜになった瞳でにらみ合う姉妹の姿がそこにあった。
「恋人たち 正位置 <混色創成> 彩菜ちゃんと地面を融合して!!」
「力 正位置<克己軽勝> 彩菜の身体能力を向上させて!」
美玲が「恋人」で彩菜を地面と融合させようとする。
彩菜が「力」で自らの身体能力を向上させ、空中へと逃げる。
少しだけ興味を引かれた目で見つめる村田フレイの姿。
「なるほど。『力』のカードは自らの身体能力を向上させる事が出来るのですか。となると、逆位置の能力はどのようなものになるのでしょうか。 ……確か意味していたものは、現実逃避や自信の喪失などでしたか。まぁ、いずれ分かるでしょう」
姉妹がその力の限り、争う
それはまさに殺し愛と言う様相。
お互いがお互いを愛し合い、憎しみ合う。
その目には深い愛情と、深い絶望が刻まれていた。
「彩菜ちゃん……どうしてこんなことに……。でも、やめられない。止められないのぉっ……!」
「お願い、美玲ちゃんやめて! ……愛してる。なのに、なんでこんなに……。こんなに、殺したいって思うの……!?」
矛盾した叫び。
矛盾した思い。
愛しているから、殺す。
愛しているからこそ、殺す。
その、矛盾。
しかし、それを見つめる村田フレイの目には明確な「飽き」が浮かんでいた。
「……少々、食傷気味ですね。どこでも人間は変わらない。この世界で少しは楽しめると思いましたが、もう良いでしょう。飽きました」
その声には、一切の感情がこもっていなかった。
村田は1枚のカードを取り出す。
そして、その能力を発動した。
「No.4 正位置<支配者> 『恋人』の効果を無効にいたします」
美玲の持つ「恋人」のカードから色が抜けた。
それは同時に、「地面と融合」をされる心配が無くなったことと同義。
「なんで!? 『恋人』が発動できないの!?」
「……ばいばい。美玲ちゃん!!」
彩菜が「力」のカードで身体能力を強化し、地面を強く蹴る。
天高く舞い上がるそれは、まるで天使のようであった。
もたらすのは救済ではなく、死であるが。
重力に従い、美玲を蹴りつける。
それが、美玲の最後であった……。
「No,20の逆位置効果を終了します」
村田がそう宣言を行う。
自らの持つ「審判」の効果を終了する。
それはカードの効果で歪めていた思考を元に戻すと言う、残酷な宣言。
狂気に染まっていた彩菜の瞳が正常なものに戻っていく。
すると、その身体が震え出す。
嗚咽。慟哭。そして、吐瀉。
「……最高に汚い美しさですね。最愛の人物を自らの手で害す。素晴らしいですよ。とても楽しませていただいたお礼です。No.20 正位置<追想の牢獄>。今の記憶を何度も楽しんでくださいませ」
彩菜の身体が、「審判」のカードで現れた棺桶に納棺される。
そして、ゆっくりとその蓋が閉じられた。
「『追想の牢獄』は、『自らの最も辛い記憶を追体験させる』能力ですか。何度も何度も何度も、自らが最も愛する人物を殺した記憶を楽しんでいただきましょうか」
そう言うと、缶に残っていたコーヒーを飲み干す。
その缶を棺桶に向かって緩やかな弧を描くように放り投げる。
目標物から缶は外れ、軽い金属音と共に地面へと落ちた。
「この能力は便利なのですが、発動中は一切の手出しが出来なくなってしまうのが難点ですね。この距離であれば、缶を外すことはあり得ない。しかし、このように当たることが無い。そこだけはいただけない。当然この棺桶に触ることすら出来ません。窓の部分を開けて苦悶の表情を観察することが出来ないのは、非常につまらないですね」
村田がそう独り言を言う。
その言葉が終わったのとほぼ時を同じくして、棺桶が開かれた。
異様な形に首が曲がった彩菜の身体。
それが静かに光となって消えていく。
あとには、「力」のカード1枚だけが残されている。
「つまらないですね。最も辛い記憶の追体験。それに耐えられずNo.8の効果で身体能力を向上。そのまま自分の首をへし折り自害と言うわけですか。……これだから人間はつまらない」
村田は「力」のカードを棺桶の中から拾う。
そのまま少し離れたところに落ちていた「恋人」のカードも拾った。
「これで7枚ですか。いささかこの世界にも飽きてまいりました。そろそろ、終わりたいものですね」
静かにその場を後にする村田。
残されていた棺桶は砂と化し、その場に元から誰もいなかった様相を示していた……。
ご覧いただき、ありがとうございました!
★での評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。
感想をいただけると励みになります!
次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!
カードが揃うまで、物語は止まらない――




