第2話 闘争と逃走と
銃で撃たれたという「事実」が、俺の心を恐慌に叩き落す。
これまで15年生きてきて、「死」というものをここまでリアルに体験したことはない。
頬から流れ落ちる「血」。
まるで、「命」がこぼれ落ちていく……。
そんな俺の震える手を、やさしく包み込む人がいた。
「露刺くん、あなたは私のことを信じてくれました。――ここは私が時間を稼ぎますから、あなたは逃げてください」
「でもそれじゃあ月代さんが……」
「優しさや情けで言っているんじゃないんですよ。あなたがいると私が戦いにくい。さっき説明しましたよね? 私の『未来海路』は『過去の経験に基づいて、未来を予測する能力』だって。あなたのような私の過去の経験に無い、不確定な要素がいると――迷惑なんです」
冷たい。しかし、確かな温かさを感じる言葉。
それが俺の恐怖を押し殺す。
「……わかりました。でも、死なないでくださいね」
そういうと俺は物陰に身を隠す。
薄暗いせいでよくわからないから、敵が入ってきそうなのは正面の扉。
となると、裏口くらいしか逃げ道はないと思う。
心臓が早鐘のように鼓動を刻む。
この心臓の音が相手に聞こえる。
そんな、ありえない妄想すら浮かんでくる。
それから10秒くらい経過しただろうか?
入口のドアが砂と化し、消滅すると同時に銃弾が浴びせられる。
月代さんは予期していたように、カウンターの陰に身を隠した。
「魔術師、逆位置、<ルーインド・シュレッダー>。この銃を消滅させろ。魔術師、正位置、<人知創造>。小生のもとへ、回転弾倉式の銃を出現させろ」
砂が霧散し、そこに現れた人物が銃を持っているのが見て取れる。
肩くらいまでの淡い青のショートボブ。
服装はまるで、やくざ映画に出てくる下っ端のようにスーツを着崩している。
だけど、その目には「決意」をした者だけが持つ光を宿していた。
「そこにいるのはわかっている。小生にカードを渡せっ! 拒否するようなら、これで蜂の巣にする!!」
月代さんが両手を挙げて、カウンターから顔を出す。
「死ぬのはイヤなので、カードを差し上げます。なので、撃たないでください」
「良いだろう。まずは、そのカウンターにカードを置け」
そう言うと、ショートボブの女は月代さんに向けて引き金を引いた。
「なぜ、素直に小生が待つと思った! 殺して奪うっ! それが正解!」
1発の銃弾が、棚の木を砕く。
月代さんは相手が銃を撃ってくるのが分かっていたかのように、咄嗟に身を屈め回避した。
そのまま、机や椅子を盾にしながら移動をしていく。
2発目の弾丸が机の脚を折る。
月代さんに、銃弾の当たる様子が感じられない。
これが「未来海路」の効果なのだろうか?
3発目の銃弾が、俺の背後にあるガラス瓶を割る。
「……4、5、6っ!」
月代さんが一気に距離を詰める。
そこで俺は理解した。
月代さんは、弾切れの瞬間を狙っていた。
襲撃者が月代さんに向けて引き金を引くが、銃弾が発射されずに焦った様子を見せる。
「……くっ! 魔術師、逆位置、<ルーインド・シュレッダー>。銃を破壊っ!! 正位置っ!!」
「遅いっ!!」
月代さんが、地面を蹴り宙に舞う。
そのまま、ドロップキック。
激しく吹き飛ばされて、地面に激突した襲撃者。
それでも止まらずに向かいの店舗にぶつかり、やっと止まったようだ。
(逃げるなら……今っ!)
俺は月代さんがつくってくれた千載一遇の機会を逃さず、カウンターから裏口へ向かおうとした。
だけど、一つの思いが俺の足を縫い留める。
ここで逃げていいのか? と。
襲撃者へ追撃するためか、出入り口から出ていく月代さんの姿を扉の陰に隠れて見つめる。
(間違いない。ここは逃げるべきなんだ。でも、ここで逃げたら……。それは俺が理想とする男じゃない! それは嫌だ。なら、俺に何ができる……? 今の俺に何ができる? 何か、何かがあるはずだ!)
俺は考える。
襲撃者の行動を。
絶対的な暴力である「銃」。
それを創り出したのは、あいつが持っているカード。
そして創り出した銃を、能力で破壊。
(ん? 妙だぞ)
わずかに覚えた引っ掛かり。
それを手掛かりに考える。
(どうして、わざわざ壊すんだ?)
いらないなら、捨てれば良いはずだ。
たぶんそのほうが速いし、確実。
(となると、考えられる可能性は2つ。『奪われたくない』か、『壊されたくない』)
そこで俺は仮定を立てた。
もしかしたら、「創り出したものを奪われたり、他人に壊されたりすることにデメリットがあるんじゃ無いか」という仮説。
ならば、俺にできることは一つ。
扉から身を乗り出し、俺は叫ぶっ!
「月代さん! そいつの武器を奪って、破壊してください!」
「なっ! 仲間が居たのかっ!!」
襲撃を行ってきた人物は、俺の叫びに対して明らかな動揺する様子を見せた。
「小生の能力の弱点に、気づかれたっ!?」
銃を大事そうに抱える。
そして、思い出したかのように能力で破壊した。
「魔術師、正位置、<人知創造>。霧状のグリセリン! それと、マッチ!!」
襲撃を行ってきた人物がかなり慌てた様子で、透明の霧を発生させる。
そして、マッチを擦る。
すると、濃い煙が発生した。
「うわっ! なんだこの煙!!」
俺は思わず叫ぶ。
視界が閉ざされ、何も見えない。
(あ、これ先生が授業の余談で言ってた奴だ)
電子タバコの煙は、電熱でグリセリンを加熱して作っているらしい。
煙が晴れると、姿はすでにそこに無かった。
どうやら逃げたようだ。
「……とりあえず、助かったってことでいいのか?」
俺はつぶやく。
月代さんが「なんで逃げなかったんですか」と咎めるような眼をしてくる。
だけど、それを意図的にスルーして俺は続ける。
「……あいつが戻ってくるかもしれません。だから、とりあえず移動しませんか? 話はそれからで」
「……言いたいことは沢山あります。あのね、露刺くん。あなたが意外と頭が回って度胸があることはわかりました。でも、次からは人のいうことをちゃんと聞きなさい。いいですね?」
俺はあえてそれに答えず、「行きましょう」と移動を促す。
視界の端にボロボロの白衣を着た女がちらっと映った――気がした。
「露刺くん?」
「……すみません、今行きます」
俺たちは行方も知れぬまま、その場を後にした……。
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