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第22話 虚実と相克と

(最悪だ……。考えうる最悪の展開だ……)


 目の前に現れた後藤方舟。

 こいつは、人の命の事なんてなんとも思っていない。

 俺は「死神」のカードにそっと触れた。

 でも、それだけはしたくない。

 それをしたら、多分俺は。

 俺は、もう、戻れなくなる。


「はっ! なんだなんだなんだっ! 『情けない僕ちゃん、人間失格です』ってか? 玉川上水(たまがわじょうすい)で破滅でも選ぶのかよ!!」


 後藤は獰猛な笑みを浮かべつつ、俺に問いかける。

 まるで俺の心の中を見透かしたかのように、的確かつ端的に。

 俺は油断なく一挙手一投足を観察しながらそれに答える。


「……ぼんやりとした不安くらい抱えたって良いだろ。偉そうに俺の事を評価するのはお前の勝手だけど、自分に垂らされた救いの手すら消えちまうぜ? そのままお前が破滅へ真っ逆さまさっ。まるで蜘蛛の糸のカンダタみたいにな」

「……はぁ?」


 俺の反論に対して、後藤の口元に浮かんでいた皮肉な笑顔が消える。

 一瞬だけ険しい表情を浮かべ、顔をわずかに伏せる

 そして、絞り出すような小声で呟く。


「……俺様は『もう』救われたいとなんて思ってねーよ」


 険悪で剣呑な雰囲気が漂う。

 だが、それをぶっ壊したのは謎の女の声だった。


「もう! 後藤先生!! 何やってるんですか!! 怖がられてるじゃないですか!! ダメじゃないですか!! ほんと、何やってるんですか!!」

「……いや、俺様の専門は外科だ。ガキの扱いとか知らねーし」

「研修医時代に! 小児科もやってるでしょ!!」

「…………忘れた」

「忘れないの!!」


 月代さんが毒気を抜かれた表情で、その二人を見つめる。

 俺も思わず「……コントか?」と呟いていた。

 俺の言葉に後藤方舟が頭を掻きながら、バツの悪そうな表情を浮かべながら俺に話しかけてきた。


「……コントじゃねーよ。つーか、お前やっぱバカじゃねーな。俺様がわざと出した太宰のたとえに対して、芥川で返してくるとか分かってんじゃねーか」

「……別に普通のことだろ」

「いや、面白い奴だな。ちょっと気に入ったぜクソガキ」

「……お前に気に入られてもなぁ。それと、クソガキは辞めろ。俺には露刺朝陽って名前があるんだから、そっちで呼べよ」

「クソガキにはクソガキで十分だろ?」

「後藤、お前……」

「『さん』を付けろよ。そういうところが『クソガキ』だって言ってんだよ」

「……露刺くん。もしかしてなんですけど、遊んでいますか?」


 ダメだ。

 これは口げんかで勝てる相手じゃない。

 戦略的撤退!!

 転進だ!!

 月代さんに「遊んでいますか?」と聞かれてしまうくらいだし……。


「そんなことより、後藤…………………さん? そっちの女の人は誰なんですか?」

「ん? クソガキは女の子に興味津々か? この思春期め」

「……いや、後藤………………………さんに対するツッコミがやたら鋭いから、知り合いか何かなのかなって疑問に思ったんだよ。お前みたいな人の命なんてどうでも良いと思ってるような奴に、付いてきてくれる人なんて居ないだろ?」


 俺が口にした疑問。

 だが、それを口にした瞬間。

 俺の胸ぐらが後藤に捕まれていた。


「……俺様が『人の命の事がどうでも良い』だと?」


 その声には明らかな不快感を通り越した、深い憤怒が込められている。

 まるで無間地獄から響く怨嗟のような……。


「スターップ!! もう!!! 後藤先生!!!! 会話のドッチボールをしないの!!!!! ちゃんとキャッチボールしてください!!!!!!」


 後藤方舟と一緒に俺たちのところに現れた謎の女が、後藤の耳元で大声を出しながらその手をつかむ。


「……おいコラ魚住。人の耳元でデッケー声出すんじゃねーよ。鼓膜破れたらどうしてくれる」

「後藤先生なら、自力で治療できるでしょ」

「無茶言うな。こんな何の医療器具もねーところで手術なんてできるわけねーだろ」


 後藤が魚住とか言う女性の頭を手の甲で軽く小突く。

 何なんだ、この二人は。


「改めて後藤先生がすみません。魚住優江と言います」

「……露刺朝陽です」

「私は……」


 月代さんが俺につられて自己紹介をしようとしたところで、魚住さんの手でそれを制される。


「後藤先生がやらかしたお詫びに、私のカードの力を見せますね。『月』正位置。<真実の追求者>そこの黒髪メガネの人。私の質問に答えてください。あなたの名前と持っているカードは?」

「月代聖良です。カードは『女教皇』を持っています」

「これが『月』の能力です。相手に質問をして、それに答えさせるというモノです。そして、逆位置もお見せしますね。『月』逆位置。<シー・スルー>露刺朝陽の持っているカードを教えてください」


 するとその場に、「月」のような天体が現れる。

 そしてそこには「DEATH」と書かれている。


「露刺さんのカードは『死神』ですね?」

「……相手の持っているカードを透視する能力ってことですか?」

「はい! それと、弱点を見抜くこともできるみたいです!」


 後藤………さんが来ただけでも最悪だと思ったのに、これは最悪を超えているかもしれない。

 弱点を見抜く。

 それはあまりも不味い……。


「安心してください! 私たちは露刺さんと月代さんに協力をお願いしに来たんです!」

「……魚住さんはともかくとして、この後藤…………さんが? 協力?」


 俺が後藤……さんの方を見やると、ニヤリとした笑顔を浮かべながら俺へと語りかける。


「クソガキ。お前も知ってるとおり俺様はこの世界で何人か人を殺している。だがな、俺様は俺様のことを殺そうとしてきた。または、他人を明確に殺そうとしていた。そのどちらかしか殺していない」


 後藤さんの言葉に俺は過去を思い出す。

 確かに後藤さんが俺に見せてきた、「魔術師」の持ち主は俺と月代さんを殺しに来ていた。

 それを後藤さんが見ていたのであれば辻褄は合うし、言葉の内容にも矛盾はない。


「この訳の分からんデスゲームに連れてこられて、右を見ても左を見ても自分の事しか考えていないクソだらけ。そんな中、たった一人だけまともに会話できそうな奴がいた。だから、そいつに協力を仰ぐかって思ってな」

「……なら、人のことを煽るなよ」


 後藤さんは俺の目をまっすぐに見つめて、続ける。


「そこはすまなかった。だがな、あまりにもアオクセーこと言ってる青二才がいたもんでついからかっちまった。『お前はお前だ』ってことが分かってねーみたいだからな」

「……何だよ」

「ははっ! 研修医時代に精神科での研修もやってるもんでな! 一般人よりはそういう知識には詳しいつもりさ。そんなことより、クソガキ。お前、俺様の計画に乗らないか?」

「……後藤さんの計画?」


 すると、それまでのふざけた態度を消した。

 そして俺の心の中まで見透かすほどに真っ直ぐに。俺の目を見て続ける。


「あぁ、俺様の計画。それは、このふざけたゲームを終わらせるって事だ」

ご覧いただき、ありがとうございました!

★での評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。

感想をいただけると励みになります!

次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!


カードが揃うまで、物語は止まらない――

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