第21話 予想と自問と
「……月代さん、あの双子って、結局なんだったんでしょうか?」
テリヤキハンバーガーの包み紙を丁寧にたたみ、ポケットにしまいながら俺は月代さんに問いかける。
「……分かりません。ただ、一つだけ分かるのは『二人だけの世界』がほしいって思っているんじゃ無いかなってことです」
「……二人だけの世界、か」
あのクソみたいなゲームマスターは、何を考えているんだ……?
そもそも、「この世界に集めた22人と、それぞれに対応したタロットカード」の関係性はなんなんだろうか。
俺は自分の「死神」のカードを見て、自嘲する。
「『情けない自分を殺したい』って事だったのかもしれないな……」
「露刺くん……?」
「……俺がコスプレをしていたって話はしましたよね。今思えば、それは現実の情けない自分から逃げるためだったんじゃ無いかって思ったんです」
ゲームマスターがルール説明で言っていた事を思い出す。
確か、「心の底から強い思いを持つ人間を22人集めた」とか言っていたはずだ。
それが真実だとしたら……。
「『死神』は『死』を象徴しているはずですよね。もし、ゲームマスターの言う『心の底からの強い思い』って言うのが、『情けない自分を殺したい自分』って考えると辻褄が合うなって思うんですよ」
「つまり、露刺くんはあの双子は『自分たちだけの世界がほしい』って思っている。それ以外は誰もいらない。まるで永遠を誓い合った『恋人たち』みたいだって、思っているって事ですよね」
そして、月代さんがため息をつく。
「……私は間違った道を歩んできました。他の人には私と同じ道を歩んでほしくない。賢くあってほしい。そのためにまずは自分の頭がよくないといけない。だから、『知性』を象徴する『女教皇』が私のところにって事ですよね。確かに、そう考えれば辻褄は合いますね」
「それがゲームマスターの考えと同じかは分かりません。でも、俺が『死神』、月代さんが『女教皇』。そして、あの双子が『恋人たち』なのは妙に納得できる……」
俺は自分の「死神」のカードを見つめる。
黒い鎧に身を包み白馬に跨がっている騎士は黒い弔旗を掲げたまま、何も語らない。
「露刺くん、私が先生になりたいって思っているっていうのは話しましたよね?」
「はい。それが?」
「そのときに、心理学の授業があったんですよ。そこで、面白い理論を知ったんです。詳しいことは割愛しますが、露刺くんがコスプレをしていたのは『同一視』って言う心理行動なのかなって思ったんです」
「同一視……」
確か保健体育の授業で習ったような気がするけど、なんだったっけ……?
「あまり言葉はよくないですけど、露刺くんは自分に自信が無かったんですよね?」
「……はい」
「その、何でしたっけ? カラフルコレクター? その主人公のコスプレをすることで、精神的な安定性を求めていたんじゃ無いかなって思ったんです」
「……精神的な安定性」
確かに、あの服を着ていたときは「なんかすごい自分」になれた気がしていた。
今思うとそれは一種の「逃げ」だったのかもしれない……。
月代さんは首肯し、続ける。
「それが不幸にも他人から馬鹿にされたことで、自信をなくしてしまった」
「……」
「それが、赤沢さんでしたっけ? その人のおかげで立ち直れて、今の露刺くんがいる。そうですよね?」
月代さんが俺を見つめる。
俺はその目から、自分の目を逸らしたかった。
でも、今ここで「それ」をするのは違うと思った。
「……この『死神』は、どうして俺のところに来たんでしょうか。情けない自分を殺したい。それは分かります。でも、逆位置の効果が無いのがよく分からない。もし、それに何か意味があるのなら。でも、よく分からない。結局、『俺』って何なんですかね」
俺が疑問を口にしたときだった。
「……はっ! バカだと思っていたが、バカじゃねーな。お前は、クソガキだな」
俺はその癇にさわるような声がした方に勢いよく振り返る。
そして、その姿を確認した瞬間に俺は飛び退いた。
血と死の匂い。
奴は口元を歪めながら、まるで俺の心を見透かすかのようにこちらを無遠慮に見つめる。
ボロボロの白衣に身を包んだ、骸骨を思わせるような容姿。
それが俺の神経を逆なでする。
横目で月代さんを見る。
月代さんも、カードを取り出し臨戦態勢をとっている。
「……後藤、方舟っ!!」
ご覧いただき、ありがとうございました!
★での評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。
感想をいただけると励みになります!
次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!
カードが揃うまで、物語は止まらない――




