第14話 陰影と推断と
「『月』の逆位置で後藤先生であることはわかっていたんですけど、先生からはっきりと言ってもらったことで確信が持てました。後藤先生。あのときはありがとうございました」
震える声で感謝の意を述べる。
しかし後藤はそれに対して、素っ気なく言い放つ。「そんなもん、たいしたことじゃねーだろ」と。
それは医者としての使命に対する、歪んだ思いから生じた忌避感の表れであろうか。
「そんなことはありません! 先生が助けてくれなければ、私は!!」
後藤は肩をすくめて、ため息をつく。
自分はそんな大層な人間ではない。
そんな気持ちを存分に込めて。
「……ただの仕事の一つだ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもねぇ。俺様にとってはただの日常だ。感謝なんかいらねぇ」
その言葉に魚住の表情が変わる。
意を決したかのように、何かを決意したかのような目に表情が変わる。
「そんなこと言わないでください! 私の命を救ってくれたんですよ!! それをそんな風に片付けないでください!!!」
そして、魚住は髪の毛を掻き上げて自らの手術痕を後藤に見せつける。
「これがその証拠です! 先生が私の命を繋いでくれた証拠なんです!!」
「……ちょっと待て。なぜその傷がある」
「それは! 先生が私の頭を切ったから!!」
「……違う! 少し考えさせろ。2~3分黙ってろ。あと、ついでに『月』の効果を切れ」
後藤は少し考える。
謎のタロットカードを渡されて、殺し合いをしろと言われる。
そのカードは「自分の願い」に対応しているらしい。
他人のカードを手に入れた場合に「使える」と「使えない」がある。
そして、容姿をゲームマスターに変えられていること……。
「……おかしい。俺様たちはあのクソゲームマスターに姿を変えられているはず。なら、この傷跡を残す理由がない。なぜだ?」
後藤が推測を行う。
小声でつぶやきながら今わかっていることと、わからないこと。
そして推測から立てる仮定。
「……情報は少ねぇがなんとなく見えてきた。ゲームマスターのクソ女は俺たちの姿は変えたが、身体的特徴や物事の考え方は変えてねぇ。とすると、考えられる可能性はいくつかあるな」
「……後藤先生。ゲームマスターさんが私のこの傷を残したのは『あえて』なんじゃないかって思うんですよ」
「どういうことだ?」
後藤が訪ねる。
それに対して魚住は自分の推測を交えて、語る。
「私は『傷跡を隠したい』っていう思いがあるんです。知らない人から奇異の目で見られるのが嫌で、普段は帽子を被っているんです。それに対して与えられたカードは『月』なんです」
「……『月』はどんな意味なんだ。このタロットマニア」
「正位置が『隠し事』や『深層心理』を表しています。逆位置が『悩みが解決する』や『隠されていた状況が明らかになる』って意味です。私の『隠していたい』に対して、『隠していることを暴く能力』が与えられているんです」
「……なるほどな。なんとなくおまえの言いたいことが見えてきた。要するに、あのクソゲームマスターは、『心の中の望み』に対応しているカードを渡した。だから、それに関連している要素は残しているって言いたいんだろ」
魚住が首肯する。
「推測は大体できた。後はそれを検証するだけか。魚住、俺はちょっと会いたいやつがいるがおまえはどうする。俺様にカードを渡して消えておくか?」
「……考えていたんですけど、一緒に行って良いですか? 迷惑になったら切り捨ててもらってかまわないです」
「……すでに迷惑だけどな」
そう後藤は言い、面倒くさそうに笑う。
しかし、その笑みの中にはどこか人を安堵させるような優しさが宿っていた。
「さて、いくか」
後藤は「節制」のカード効果を終了し、部屋を後にする。
それに遅れないように魚住が後を追う。
二人が屋外に出ると、そこに広がるのは無限に薄暗い灰色の空。
荒れ果てた仄暗い路地裏。
ただ、路地を覆う静寂だけが、二人の背中に重くのしかかった……。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――




