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第9話 告白と灯火と

「このクソガキがっ!!」


 月代の父はいつもこうであった。

 お酒を飲むと暴力をふるう。

 母は下手にそれを止めると自分が殴られるからか、決して父を止めることをしない。

 これが月代の日常であった。


「うるせーよ! クソじじい!」


 だが月代が選んだのは恭順ではなく、反抗であった。

 殴られれば殴り返し、蹴られれば蹴り返し、噛みつかれれば噛みつき返す。

 痛みには痛みを与える。

 そんな暴力の応酬により、彼女の心は徐々にすさんでいった。


「は? なんでそんなことしなきゃならねーんだよ!」


 ある日コンビニエンスストアで、万引きの疑いをかけられた月代。

 ポケットに手を入れていた、という理由だけで……。

 そのまま店舗の控室に連れていかれる。

 無論、月代はそんなことは行っていない。

 ポケットに手を入れていたのは、傷を隠すため。

 無実は証明された。

 しかし、「疑われるようなことをするからだ」という店主の言葉に月代はキレてしまった。

 コンビニの店主を殴り、暴行罪の現行犯で私人逮捕。

 そのまま警察に引き渡され、検察へと送致される

 未成年ということと、コンビニ店主の態度も悪かったことを加味し不起訴となった。

 しかし、彼女の父はそれを是としなかった。


「このゴミが! 俺の顔に泥を塗りやがって!!」


 月代の父は月代の腹を執拗に殴り続けた。

 服を着てしまえば殴られた跡が分かりにくくなる。

 腹部や背中を集中的に……。


「テメーは今後外出禁止だ!」


 そう宣言され、実際に自室に中からは開けることのできない鍵をかけられた。

 そして、月代は自宅に監禁された。

 それから何日が経過しただろうか。

 月代は度々暴力を振るわれた。

 そして、「このままでは殺される」と思い込むようになっていた。

 いつものように暴力を振るわれた時に、父を思いっきり突き飛ばした。

 酒に酔っていたこともあり、ふらつきそのまま倒れた月代の父。

 箪笥の角に頭をぶつけ、その身体が鮮血の湖に沈む。

 月代は覚悟こそしていたが、人を殺したかもしれないという恐怖に駆られ家を飛び出した……。


(もう、私の人生も終わりかな……)


 当て所もなく夜の街を徘徊する月代。

 やがて、大きな河川にかけられた橋へとたどり着く。


(……ここから飛び降りれば、終われるのかな?)


 月代がそう考えた時だった。

 どこからかギターの音が聞こえてきた。


(死ぬのは、この曲を聴いてからでもいいかな……)


 月代はフラフラとその音楽が聞こえるほうへ歩みだす。

 するとそこには路上でアコースティックギターを弾きながら、路上パフォーマンスを行っている女性がいた。

 客は疎らで、お世辞にも上手いとは言えない。

 しかし、月代はその人の音楽に惹かれるものがあった。


「何?」


 その女の人に尋ねられる月代。

 だが、うまく答えることが出来ない。


「ふ~ん、なんかよくわかんないけど訳ありなんだ? 話せるなら話してみ? ちっとは楽になるかも知んねーよ?」


 少しタバコの臭いがするその女の人に、月代はすべてを話した。

 なぜ、すべてを話してしまったのかは本人にもわからない。

 だが、誰かに聞いてほしかったのかもしれない……。


「……おっも。思ってたよりヘビーじゃん。あんた」

「……ありがとうございました。おかげで少しだけ楽になりました」


 月代の心の中には、一種の安堵感が生まれた。

 これから命を絶つのに、心残りがなくなったからだろうか?

 だが、その女性は意外な言葉を口にする。


「あんたさ、家事出来る?」

「……え?」

「こう見えてあーし、だらしないからさ。もし家事をしてくれるんならあんた、家に住んでも良いけど、どうする?」

「……迷惑はかけられません」

「ふ~ん、迷惑ね~。死なれたほうが迷惑だっての。その顔、どうせ死ぬ気だったんでしょ?」


 その女性の言葉に月代は黙り込む。そして――


「お願いします」


 月代はそれを受けいれた。

 家事を担いながら、バンド活動の雑務をこなす日々が続いた。

 その女の人のバンド仲間とも次第に仲良くなっていき、ときどき泊まらせてもらいに行くこともあった。

 すべてがいい方向に転がりだしたと思った……。


「……なん……で?」


 その女の人は、自宅で首を吊っていた。

 残された遺書によると、デビュー詐欺で多額の金銭をだまし取られた。

 借金もしていたため、自身にかけていた生命保険で返済をする旨が書かれていた。


「……そんな、どうして」


 問題なのは月代だった。

 この事件をきっかけに、彼女は自宅へと送還されてしまった。

 そこには、うっとりとした顔で植物状態となった父を介護する母の姿があった。


「この人は、ダメな人なの。昔から、少しでもイヤなことがあると暴力に頼る。そんな人を支えられるのはお母さんだけ。弱い人は守ってあげないとね?」


 とは母の弁。

 月代はその姿に醜悪な現実逃避を感じた。

 そして嫌悪感を覚え、再び家を出た。


「めんどくさ。でも、あんたならまーいっか」


 あの女の人のバンド仲間だった女の人のもとにたどり着いた月代は、その一言で迎えられた。

 そして再びの居候生活。


「あんたさ、私たちは知識ってのがないから騙されたんだ。で、あいつは死んじゃった。だけど、あんたはまだ若いじゃん? だからやり直せる。今なら未来は変えられるじゃん」


 その言葉を胸に、月代は教師を目指す。

 自分と同じような境遇の人物に手を差し伸べられる人になりたいと願ったから。

 そのために、教育が必要だろうと思ったから。

 そして、この4月から高校で新任教師になる予定であった。


――――

――


「ほら、こんな父親を殺したような人間でも、新たな未来を目指すことが出来るんです。願いは絶対に叶うかはわかりません。でも、叶えようと努力をすればたどり着けるかもしれないんです」


 露刺はその月代の告白を聞き、しばし考える。

 自分も過去と向き合う決意を。

 過去を乗り越えるのではなく、受け入れる決意を。

 そして、静かにつぶやく。


「このゲームを終わらせたい」


ご覧いただき、ありがとうございました!

★での評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。

感想をいただけると励みになります!

次話もがんばって書いていきますので、ぜひお付き合いください!


カードが揃うまで、物語は止まらない――

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