プロローグ
お久しぶりです。はなむけです。
プライベートの問題(転職~新しい仕事に慣れる)が、ひと段落したので帰還しました。
つまらない前置きはこのくらいにして、さっそく本文をお楽しみください。
小さなころから自分のことが嫌いだった。
男にしてはやや高めの声。
母親に似たせいか、初めて会う人には女の子によく間違えられる容姿。
そして、何より――そんな自分に自信を持てない自分のことが大嫌いだった。
だから、きっといつか。
誰かが、そんな自分のことを変えてくれると信じていた。
「……ここはどこだろう?」
俺は目を覚ました。
だが、意識にノイズがかかっているかのようにはっきりとしない。
確か、トラックに轢かれそうになったことは覚えている。
ゴムが焦げる臭いと白煙。
耳を切り裂くような甲高い金属音。
そして伝わってきた、骨が折れ砕ける感触。
記憶がそこで途切れている。
ということは――ここは病院だろうか?
それにしては薄暗い。
あたりを見回してもよく見えない。
もしここが病院であれば、ベッドに寝かされるはずだ。
でも、どうやら木の床に直接寝かされているようだ。
背中越しに感じる僅かなざらつき。
そしてわずかに軋む音が俺の耳に刺さった。
「ここは……どこだ?」
俺の脳裏に浮かんだ疑問。
しかしそれは目の前に現れた一人の少女にかき消される。
(……きれいだ)
異常としか思えない状況を忘れてしまうほどに、その少女は綺麗だった。
まるで彼女自身が光を放っているかのように、神秘的にその姿が薄暗い闇の中で確かな存在感を放っている。
年齢は15歳くらいだろうか?
腰まで伸びた髪の毛がまるで虹のように七色をしており、この異常な空間でも明らかに異質な美しさを放っている。
そして、少女は口を開く。
「もう! 君はこのゲームマスターであるボク! 風谷七詩がルールを説明している途中で気絶しちゃうなんて! ほんっと、失礼だよね! まぁボクは優しいから、と・く・べ・つ・に!! 君だけにもう一回だけルールを説明してあげるね! 感謝して崇め奉って、寺社仏閣を建立してね! ちなみに、教会も可!!」
少女の言葉で俺は少し前の記憶を思い出す。
確か、「今から君たちには殺し合いをしてもらいまーす」という、間延びした声と共にタロットカードを持っているかの確認をさせられたはずだ。
「……必要ないです」
「え~本当に~? じゃあ、どんなルールか言ってみてよ~?」
「確か、このタロットカードをかけて戦えって話だったはず。そして、ルールは最後の一人になるまで、殺し合えってこと……。後はカードにそれぞれ2つ能力があるから、それを上手く使おうってことでしたよね……」
ズボンのポケットを探るとそこには1枚のカードがある。
カード名は書かれていないが、黒い喪服のような服を纏った銀髪の女性が朽ちかけた馬に乗り、黒い旗を掲げている様子が描かれている。
まるで、「死」を象徴しているように感じた……。
「うん! よくわかっているじゃないか! 93点といったところだね! そして、そのカード22枚すべてを集めたら、どんな荒唐無稽で支離滅裂な願いでも必ず叶う。だからボクは、心の底からの強い望みを持つ人間22人を集めてデスゲームをしよう! ってことだね!」
ゲームのルール説明中に、ゲームマスターに食ってかかった赤いドレスの金髪をした女の人。
その人が、「は~い、キミは~ゲームオーバーだよ。このボクに逆らった罰ゲームを受けてもらうね」と言われ、跡形も無く吹き飛ばされたことを思い出す。
その時に嗅いだ血の臭いで、俺はこの現実感がない世界が確かな現実であると自覚をした。
「ホントはまだあるんだけど、まぁそれだけ知っていればどうとでもなるね! 何でもかんでも教えちゃうと面白くないもんね!! だけど、減点分の7点だけはきちんと押さえておかないと負けちゃうよ? そ・う・だ・よ・ね? かわいい女の子の姿になった露刺朝陽くん?」
その言葉で俺は思い出した。
思い出してしまった……。
ルール説明の最後に「知り合いだと本気で戦えないかもしれないよね? だからこれはボクの配慮! なんと、姿を変えておきました! はい、拍手!」と言われたことを。
ゲーム会場へと続く扉。
その鏡のようによく磨かれた、金属製の扉に映った自分の姿を……。
喪服を思わせるかのような、黒いスーツ。
短めにしていた刈り込んでいた髪の毛は、肩と腰の中間くらいまでに伸びた銀髪に。
少し鍛えて固くなり始めていた胸板は、大きく柔らかな曲線に変わっていた。
俺は――信じられない。
だが、右手を上げると、鏡像も右手を上げる。
右手を下げると、鏡像も右手を下げる。
そこまでも、「それ」は俺の動きに追従をする……。
「……これが、お……れ?」
鏡のようになった扉に映った「自分」の姿というモノが信じられない。
だけど、それは誰がどう見ても「俺」でしか無いだろう……。
信じられない。
信じたくない。
胸の奥が冷たくなっていくのを感じる。
鏡に映った「それ」を、拒絶できないでいる自分が何よりも恐ろしい。
この、「嫌悪」という感情が決壊したダムのようにあふれ出して止まらない……。
「そうだよ! よ~く見てごらん! 誰がどう見てもかわいい女の子だよね! 僕はむさくるしい男が大っ嫌いだから、みーんなかわいい女の子にさせてもらいましたー! その姿が変わっているって言うのが、減点した分の7点だよ~。これで、100点満点だね~。おめでと~!!」
汗が噴き出す。
鼓動が揺れる。
意識が白く染まる。
力なく足が崩れ落ちる。
「もう! 面倒くさいな! またそんなになって! もういいよ! ボクが適当に放り込むから!」
俺の体を無理矢理に引き起こし、扉を開けるゲームマスター。
あまりのショックで、力が入らない俺の体をその扉の中に放り込む。
「じゃ、改めて! ゲームスタート!」
というゲームマスターの声がわずかに俺の耳に届いたが、俺は意識を手放した……。
どこかに沈んでいくような、気持ちの悪い感覚を覚えながら……。
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カードが揃うまで、物語は止まらない――