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第3話 地獄に輝く光1

 (こう)に呼び出された日から僅か数日後、まず警察が感知したらしく、俺のママ活相手だという女性たちが逮捕された。

 どの女性も、本番行為こそなかったと主張しているらしいが、何度かホテルに入ったところも撮影されているらしく、未成年との淫行ということでしょっぴかれたらしい。


 そしてその女性たちは軒並み既婚者であり、俺は彼女たちの夫たちから多額の慰謝料を請求された。

 当然、俺自身が支払うことはできないため、両親が支払ってくれたが、そのせいで俺は両親から激しく疎まれてしまったわけだ。


 本番があったわけではないということでなんとか退学は免れた俺だったが、そんな俺を高校生というコミュニティが容易に受け入れるはずもなく、俺の居場所はなくなった。

 当たり前のように所属していた部活であるバスケ部は退部になり、あれだけ親しかったクラスメイトや他の友人たちも皆離れていった。


 物語の中にしかないだろうと思っていた机への落書きや持ち物の破壊なんかが当たり前のように行われた。


 学校内での扱いに関しては、ママ活をしていた、ということよりも、学年のアイドル的な存在である矢櫃倖(やびつこう)を裏切って悲しませたことにあるのだろう。

 あれからクラスメイトどころか学年、学校中のやつらが俺を倖に近づけまいとするせいで、あれ以来俺は倖と一切会話できていない。


 当然先方の両親にも疎まれているため、家に行っても門前払い。


 自分の家族にも疎まれて家にすら居場所はない。


 俺は何もしてないのに......。なんで誰も信じてくれないのか。

 誰かの陰謀でも働いてるのかと疑ってしまいたくなるほどに、俺の言うことは誰も信じてくれなかった。





 一体俺はなんのために生きているのか、こんなカスみたいな世界に生きている意味なんてない。

 最低の生活を続ける中で俺がそんなふうに思うようになるまでに時間はそう長くはかからなかった。


 そんな中でただ1人、俺の心を繋ぎ止めてくれたのは、他ならぬ御霊雅(みたまみやび)


 彼女だった矢櫃倖(やびつこう)よりも昔からの付き合いの雅。

 小学校1年のときにクラスメイトになり、1人で寂しそうにしていたところに声をかけたのが始まり。


 それから高校2年の今に至るまでの付き合い。いわゆる幼馴染だ。


 俺が倖と付き合いだしてからはあんまり他の女子と絡まないように意識してた。だからその辺りから交流が途絶えてたけど。

 だって幼馴染とはいえ雅も女子なわけだし、昔からの仲だなんて、むしろ倖を不安にさせる要因になってしまうと思ってたから。


 今となってはどうでもいいことだけど。


 そんな俺の都合で交流が薄くなってしまってた雅だったけど、彼女だけは俺がみんなから乱雑に扱われる中で唯一優しさをくれた。










 放課後学校に留まれる空気でもなく。

 家に帰っても両親に舌打ちされて睨まれるだけで帰る気にもならず。

 近所の公園で落ち込んでたら近所の人がヒソヒソとママ活がどうだとか俺に聞こえる声で噂話するせいで長居するわけにもいかず。


 文字通りどこにも居場所のなかった俺は、放課後は人目を避けて、心霊スポットとして有名な廃ホテル跡で勉強するようになっていた。


 不気味なところではあったけど、現実世界の人間たちの恐ろしさに比べれば気にならなかった。

 むしろ、人が寄り付かないって意味では安心できる場所ですらあった。


「アル......大丈夫............?」



 そんな場所で、油性ペンで落書きされた教科書を使って勉強していたところ、懐かしさを覚える声が俺の耳を打った。


「............雅?」



 ここしばらく聞いてなかった声。それでも聞き慣れた声だった。

 とはいえ、こんな廃墟で急に声が聞こえたからさすがにビビってしまった。チビらなかった俺は偉い。


 一瞬頭が真っ白になるも、すぐに自分が声の正体を知っていることに思い至って冷静になり、名前を呼んだ。


 すると、ボロボロの部屋の入口から見慣れた顔をひょこっとのぞかせた。

 廃ホテルで部屋の入口から頭だけが覗いている状態。正直、一瞬ホラーみたいだって思ったのは内緒だ。


「うん、雅だよ。それで、大丈夫......? って、大丈夫なわけ無いか......。大丈夫だったらこんなところで勉強してないもんね......」



 雅の声音に、態度に、敵意や悪意は一切感じられない。


 こんなふうに心配して気を遣ってくれる人、最近は1人もいなかったから、それだけで目頭が熱くなる。

 けど、なんとか涙をこらえて返す。


「あー、うん。そう、だな。あんまり大丈夫では、ないかな」


「そーだよね。ごめん、デリカシーないこと聞いた」


「い、いや、大丈夫。っていうか、どうしたんだ雅。こんなところで......」



 それこそ久しぶりに顔を合わせたのがこんな場所。

 意識こそする余裕もなかったけど、例の一件で当然に雅からも見捨てられてると思ってた。


「ごめん、アルのこと尾行してきたんだ」


「な、なんでそんなこと?」


「あたし、ここのところ家族の用事でちょっと学校を休んでてさ。その間にアルが大変なことになってたみたいで、全然気づいてなかったんだけど......」


「あぁ、そういう......」


「うん。それで、ぼろぼろになってて今にも死んじゃいそうな表情で帰るアルを見つけたから追いかけてきちゃった」



 どうやら雅は俺に起きた諸々をよく知らないらしい。

 だからこんなふうに接してくれるのか。なら、どうせ全部知ったら離れていくんだろ。


 嬉しくなって損をした気分だ。ぬか喜びとはまさしくこのこと。


 余計な期待はさせないでくれ。最初からもってないものよりも、手に入ったと思ってなくす方が悲しみが大きくなる。


 そうなるくらいなら、自分から手放してやるさ。


「俺は彼女がいるのにママ活とかして裏切った最低野郎だ。学校中、家族も街の人もみんな俺のことを煙たがってる。写真とか見てないのかもしれないけど、もう俺に近寄らないほうがいいよ」



 言いながら、なんで俺は無実なのにそんなことになってるのかと改めて虚無りながら、これで手に入って失う心配をしなくていいという安堵と、また敵が増えるっていう絶望感とで悲しみに溺れそうになる。









「心配しないで。あたしだけはアルのこと、信じてるから」








「..............................え?」



 雅は俺に方に駆け寄ってきて、優しく抱きしめて声をかけながら俺の頭を撫でてきた。

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