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血の黙示録より。  作者: 血の黙示録再編集者
序章 一介の官僚
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契約者・姉・アカネ

〈ナゴヤ郊外・上級官僚住宅地〉


 同じ家が連なっている。レイを乗せたタクシーはとある家の前で止まった。レイが降りるとその車は新たな利用者の場所へ走っていく。レイはドアをノックし中にいる人を呼んでいる。中から甲高い声が聴こえ、認証キーの音とともにガチャリとドアが開く。出てきたのはレイと同じ背くらいの女性だった。桃色の長い髪、少しぶかぶかの白衣を着た女性は笑顔でレイを出迎えた。

「ただいま、アカネさん。戻ってきました」

レイはそういって軽く敬礼した。アカネと呼ばれる女性は笑顔で答えた。

「おかえりなさい。・・・さすが上級官僚ね。時間通りにすべてのことが進むのね」

「わたしの中には時計がありますので・・・連邦の歯車として当然のことです」

そういって、レイは家の中に入っていった。

 アカネは18歳の女性だ。そしてレイの()()()である。契約者というのは共同で生活する者を指す。官僚制は同じ部署内でのつながりは強いが、別の部署との連携はしにくい。それを解消するために所属する組織とは別に数値的結果に基づいてこのような処置をとっている。

 古語を使うなら、家族といっていいだろう。旧来の家族形態はあまりにも馬鹿らしかった、ただ遺伝子の一部が同一であるから、愛というあいまいで衝動的なものがあるから、という理由で勝手に組まされていた。地球連邦が統一する前、親と名乗る存在が自らの子を貶めるような行為が多発していた。そこで、連邦は全ての子どものスタートラインを平等にするために産まれた子どもをすべて国家の子どもとして施設におくり、同じ保育、同じ教育を施した。そして大体は8歳のときに数値的結果と”自らの意思”で受態民として生きるのか、官僚として生きるかを選択する。完璧な構造であろう。

 つまり、アカネとは血縁関係ではないがそれとは別の・・・古い制度の親子や夫婦を超えた尊い関係になっているのだ。

 アカネも官僚の一人だ。本来の所属は古代思想・文明研究所。旧来の文化について再調査するためにつくられたものだ。野蛮的なものであったとしても、そのすべてを全否定するのではなく考察に考察を重ねて完璧に批評するために作られた組織だ。だが、彼女は最近転属になった。未知科学研究所。近年の異常を調査するための部署である。彼女がその職務に適応しているのは言うまでもないが、それ以外にも理由はある。

 彼女は、実はその未知科学の被検体でもあるのだ。彼女には通常の人類が持っている動力とはまた別の動力をもっている。彼女は念じれば手のひらに火の玉をだすことができ、さらに、触っていないものを数センチ程度ではあるが動かすことができる。被検体は通常研究の為に平等権が削減されるがレイの取り計らいによりそれはある程度解消されている。といっても、厳しい研究素材として時には体を譲渡するためかなりの苦痛が伴う。それでも笑顔でポジティブに生きる彼女にレイは尊敬していた。レイはアカネさん、あるいは”姉さん”と彼女を呼んでいる。

 リビングに入ってブレザーを脱いで制帽を掛ける。アカネの用意していた飲料水を飲み干してレイは尋ねる。

「この後は、どういう予定だ?なにかあるか?」

アカネはたじろぎながらも答える。

「えっとね・・・。今日は研究の為に料理をしてみたんだけど・・・」

レイはその言葉に鋭く反応する。それは、好奇心ではなく、懐疑的なものだ。

「料理?どういうものだ?」

「昔この地域にあった料理よ。ワショクっていうらしいよ」

「・・・栄養バランスは大丈夫なのか?」

「簡易食糧には劣るかもしれないけど、違反にならない程度になっているよ」

レイはやっと落ち着いて応答する。

「そうか。・・・いただこう」

 アカネはすでに料理を用意していた。官僚は栄養素を正確に得られる簡易食糧(缶詰に色々と混ぜ合わせたもの。ビジュアルはあんまりよくないが全ての栄養素がとれる)を食べることが基本である。健康は官僚の義務である。料理を食べるのは受態民やそれらに振舞う料理人たちぐらいだ。

「政治局のお堅い方にこういうのもあれかもしれないけど、おいしそうに見えない?」

「うーむ、わからないな」

栄養重視のあまり、形や味についてはよく考察されていない。

「そう?風貌も食事には大事だと思うんだけど・・・」

「はは、上司に言ったらそんなの無駄だと一蹴されるだけだ」

「いいのいいの。今日は私のプレゼンなんだから」

アカネは今日の料理について力説した。レイはそれを聞きながら食する。3Dプリンタで作られた箸という器具を慣れないながら扱う。効率的に食べることができず苛立ちながらのワショクの一品を口に入れた。

「・・・味は悪くないな」

「でしょ?簡易食糧みたいな一辺倒じゃだめなんだよ」

「それでも料理ですべての栄養素を賄うのは無理なんじゃないか?」

「大丈夫よ。そこも研究してあるから」

また説明が始まる。説得力は政治局で働いているレイからしてみればあまりない。まだ途上ということもあって稚拙だ。だが、レイはそれでも耳を傾けている。だって彼女は、レイの契約者であるから・・・。



 食事を終え、日誌を書く。電子媒体の方が記録しやすいのは事実だがレイは紙に書くのが好きだった。受態民には学が無くて絶対にかけない文字をかけるのは官僚の特権でもある。文字は官僚の象徴でもあるのだ。万年筆の紙の上で踊る音はレイにとって心地よかった。

 それを終えると次の作業にとりかかるためにアカネを呼ぶことにした。アカネは自室で本を読んでいた。

「そろそろ洗浄室へとむかうぞ」

それを聞いたアカネは急いで必要物をカバンに詰め込んだ。

「わかった。行きましょう」

レイはまたタクシーを呼んで都市部の官僚用の洗浄室へとむかった。


 洗浄室・・・昔の人向けに言えば、風呂というものだ。だがそれとはまったく違う。洗浄室は一方通行の道でできている。すべての官僚は指定された時間にこの場所へ来る。真ん中には洗うための機械群があり、両端には服を着脱するための場所がある。官僚たちはこの施設に入るやすぐにこれらの機械に身をゆだねる。裸体となった体を機械が誘導し、泡で洗い、湯に浸からせ、そして水滴を飛ばしていく。10分あればすべての工程は終了する。

 そして、この施設は全ての官僚がつかっている。男女という差で部屋が分けられることはない。不埒な考えをするものが現れるかもしれないと危惧するかもしれないがそれは絶対にありえない。理性によって統一されている官僚にはありえない話だ。それに官僚は野蛮性・・・つまり動物的本能を嫌っている。そのようなことは決してしないし思いもしない。これは洗浄室に限らず手洗い場にも適用されている。だがこの20年で性被害にあったという事例は0件だ。官僚どころか受態民ですらそれはしないのだ。男女の格差・・・それ以外のものを含めてこの問題はシビアであった。そこで連邦は動物性から解放するために男女という概念を吹き飛ばした。二分法ではなくすべてはそれぞれの個性として認定されている。今ではすべての人が髪の毛を一本人類製造局に譲渡すれば、そこからの情報をつかって人工子宮にとって人間を製造するため、わざわざ100%でもないやり方で、とってしかも何か月も苦痛に苦しめられるような方法でする必要もないのだ。理性は全てを超越する。さらに、ここ最近に誕生した人間はそのほとんどが製造過程で生殖機能から解放されている。だって、必要のないものなのだから。


2人は工程が終了するとまた家へと帰っていった。


 22:30になろうとしている。この時間は夜勤の者以外の官僚は全て寝なくてはならない。健康が義務である官僚にとって睡眠は必要なのだ。そして朝の6:30に一斉に起床する。その毎日が続くのだ。受態民たちは夜になっても騒いでいる。そのような自由奔放な生活もしてみればいいのかもしれないが、社会の歯車である官僚たちにとってはそれは無理である。いや、統制こそが文明的な生き方なのだ。レイは、アカネに今日最後の挨拶をして就寝した。夢なんかは勿論見ない。社会に従順な機械人間が夢を、理想を見るなんてことはない・・・。

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