忠実・官僚・生贄
やっとストーリーに入ります。
(※はあとがきにて追記しています)
〈日本列島区・東海区・区都ナゴヤ〉西暦2050年(西暦という言葉自体ない)
地下。黒い部屋のなか、機械音が鳴り響いている。そこに住まうアンドロイドたちは人間の上官の命令に従いひたすら業務に励んでいる。そして、その上官、身長は178cmと少し小さいが堂々と立ち振る舞い、凛とした目で前を見ているのが“レイ”・・・いや、RE-010だ。識別がしやすいように、全世界で伝わりやすいように簡略化された名前である。旧名はレイ=シャロノフ。(元)極東ロシア人がルーツの彼は長い茶髪でスラブ系女性の顔をしている。〈連邦所属・政治局(※1)〉のバッジをつけたブレザーを着用している。機能重視の服装だ。頭にしては大きな制帽は彼女の位の高さを周りに示している。レイの身体は華奢ではあるがこの人を覆うオーラは内包されていたはずの弱さを隠し、鉄の心をもつ人へと変えている。声変りが完全ではないその人の前に、今まさにアンドロイドたちに両肩をつかまれながら手枷足枷をはめて歩いてくる人たちがいる。体は綺麗ではあるが目は疲れているようだった。アンドロイド群を仕切る一人の男性がレイに近づく。レイよりも年上だが、レイの部下のようだ。
「レイ上官、今日の生贄を連れてきました」
「既に精密検査は終えているのか?」
「はい、今日処理する予定であった20人の内、10人は身体が健康であったため、実験や移植でつかうために臓器摘出手術を行っています。要らないところは別の管轄下で処分します。そして、残った10人の内5人を今からこの場で処理します」
「分かった。あの装置を起動させよ。私は彼らの最後の弁明を聞くとしよう」
「分かりました。さっそく業務にとりかかります」
部下は素早く去り、レイは面会室に入る。そして各々と対面で話し合う。・・・だが、1人目から4人目までは特に何もなかった。彼らは「連邦がどれほど愚かであるか」「己の理論がどれほど正しいか」などと愚鈍なことを言い続けるだけだった。連邦の先進的な考えをもてない馬鹿な猿共に説法をするほうが無駄に感じ、すぐに処理場へと案内した。レイは最後の弁明を聞くという職務がいくら上が定めたものといえど、無駄なことのように感じていた。さっさと処理すればもっと効率的に業務がまわるというのに。唯一の回答を間違えたくせにあれやこれやと言い訳をしようとする人間たちにお灸をすえる必要すらないと感じていた。
最後の処理予定者と面会する前にその者の情報をタブレットで見ていた。レイの目が長い間止まっていた。「ギフの森奥に住んでいた非文明人。自身のことをエルフと主張。検査の結果、ほかの自称者と同じ傾向(遺伝子・身体的特徴・言語のなまり)をもつことが判明した」と。金髪で目が緑色。特徴的な耳をしている。レイは疑問に感じ、部下に尋ねる。
「ん?この手の物は研究所送りではないのか?」
まだデータとして活用することができるのではないかと思っていた。なぜ処理場に送られてきたのかわからなかった。部下はすぐに答えた。
「その手の研究データは既に多量に集まっております。この個体に特に注目を引くものもないですし、身体には損傷がみられますので、罪状非文明受容者として処理することになりました」
「通常の人間とは異なるが、この機械で処理しても構わないのか?」
「上が大丈夫と言っておりましたので・・・」
レイはあまり納得がいかなかったが、そう上から言われているならば従わなければならない。
「そうか。・・・まだ時間に余裕はあるな?」
「ええ。あります。何かあるのですか?」
「いや、私自身エルフという奴と対談するのは初めてでな。連邦のためにも情報を引き出せないかとほかの者よりも多めに対話しようと思う」
「わかりました。隣の傍聴席の方で聴かせてもらいます」
そういって敬礼しながら部屋へと向かっていった。
科学的根拠によって世の事象がほとんど解明されていたが、近年になって不可解なことが起き始めた。それまで発見されてなかった物質や生命体が出現してきたのだ。全国の学者が研究を急ピッチで進めているが、謎は多くなるばかりであった。レイも専門外でありながら時折そのことについて聞いているうちに興味を抱いており、連邦に尽くすため、そして自身の知的好奇心を満たすために証拠となる者から聞き出そうとした。無論、職務から逸脱しない程度にだが。
レイが面会室に入るとそこには見た目の若い女性がそこにいた。以前は金髪であっただろう髪は焼け焦げたような色になっていた。服や肌にも汚れや傷がみえる。だが、特徴的な耳はそれ以上に目立っていた。そのエルフはレイを見るやすぐに驚いたような顔をして喋った。
「あなた、15歳とかじゃないか?なぜここに?」
開口一番、知らないはずの年齢を当てられてレイは驚いた。だが、今いうべきことなのだろうか?子どもだと侮っているのか?年功序列が存在しない成果主義・先進的能力主義の連邦において年齢による優劣は存在しない。
「なぜここに・・・と?私はこういう職務を与えられているのでいるだけです。年齢は関係ありません。しかしながら、私の歳を言い当てたのには驚きました」
「私には全ての生命の歳と寿命がわかるのよ」
「おぉ!それは素晴らしい!部品の使用年数が分かるのはいいことでは?」
もちろん本心だ。官僚ならみなそういうだろう。
「・・・・。今までこの世界で出会った人にあなたと同じ説明をしたら同じように返事が来たわ・・・。こういう世界なのね」
「それが官僚の回答として最適解ですので」
「・・・なんだか白くなさそうね」
「いえいえ、面白いものですよ」
扉を閉め、レイは机を隔てて向かい側の椅子に座った。隣の部屋では部下がこの様子を眺めている。
「無ナンバー(※2)であること、資料から見る発言から察するに、貴方は今の状況を理解していないのでは?」
「・・・そうです。もうすぐ死ぬという事以外はわかりません」
震えた声でそう答える。
「それだけで結構です。ええ」
「・・・私に何をしろと?」
「何か知っていることは無いかと聞くまでです。上から貴方を処理しろと命令されていますが、そのまま処理を行うにしては惜しいと考えまして。」
エルフは怪しそうにレイを見つめる。
「私なんかに時間をとってもいいの?」
「ええ、今日処理された人の中でも一番貴方には価値がありますよ」
「そ・・・そうですか」
エルフは当惑していた。レイはタブレットに資料を表示した。
「では、保安局(※3)からの情報によりますと、あなた達は東海区内陸の未開発地域(※4)で発見されたとされています。なぜそのようなところに住んでいたのですか?」
「それが・・・・私にもよくわからないのです」
「分からない?・・・断片だけでも教えてください」
「・・・あの場所に来たのはつい最近のことで・・・」
「つまり・・・どこか別の所にいたと?」
「こういって信じてもらえるかは分かりませんが・・・。実は別の世界からとばされてきたのです」
「はい?」
意味不明だった。このエルフの証言は事実だと受け入れることができない。
「そうとしか言いようがないんです!ただ私たちは突然知らないところに飛ばされてしまって・・・」
「・・・ほかになにか?」
「それ以外には・・・」
レイの興味は失われていく。あまりにも情報が乏しすぎる。もっといえば、別の世界から来たというのに理解ができなかった。異世界への出入りは科学の世界で否定されており、平行世界は存在しないと断定されている。そのような場所から来たという主張は余りにも馬鹿らしいのだ。狂人のたわごとでしかないのだ。
時間は経っている。もう処理場へ送ってもいいだろう。レイは冷めた目でエルフをみて外部にいる部下に伝えた。
「連れていけ。これから処刑する」
エルフは再びアンドロイドに両手をつかまれて処理へと連れていかれる。エルフはますます震えている。逃げ出そうとしているのかもしれないが隙は一切存在しない。慈悲など与える必要はない。
エルフは大きな釜のような装置に入れられた。まったく汚れのない金色でできている。レイたちはそれをじっと見つめエルフもそれを見返した。わけのわからない状況に陥ったエルフは叫んだ。
「いったいこれから何が始まるというのですか?」
レイはこの愚かな狂人に最後の教育を施してやろうとマイクをもって答えた。
「耳長の田舎者よ!あなたは知らないかもしれないが、我々人類は全て社会の為に尽くしている。それがたとえ国家反逆罪の人間であったとしても、最後の貢献は誰でもできるのだ!あなたはこれから死ぬだろうがその骸・・・いや血や肉は社会の為に活かされるだろう!」
レイは一間おいて定型文を読み上げる。
「これより、非文明受容罪として無ナンバーの自称エルフを処理する。一同敬礼せよ!」
部下達もアンドロイド達もエルフに向かって敬礼をする。一挙一動全て同じであった。
レイは処刑用のボタンを押した。押すと大きな音を立てながら釜の装置が動き始めた。釜は回転し続け、中のエルフはそれに流されていく。その中で無数の刃物で切り刻まれてエルフは息絶えた。ミキサーによって粉砕された物質はこの装置の地下で肉と濾過された血に分けられてそれぞれ必要とする部署へと運ばれていく。肥料となるか、餌となるかは別の管轄下の話である。
エルフは最初悲鳴をあげていたがとある瞬間でそれは聴こえなくなり、規則的な機械音が鳴り響いた。それでもなお一人の生命体の資源化を称賛する官僚たちは敬礼したままだった。レイは最後に叫んだ。
「連邦に栄光あれ!」
皆も続いてそう叫んだ。
(※1)政治局の役割は一般的な国家運営に携わるもの。通常の官僚・閣僚と大差なし。
(※2)官僚・受態民問わずすべての登録されている人間にはナンバーが割り振られている。ナンバーは連邦に所属していることの証明であり、登録は義務である。無ナンバーは重大な違反である。最初は反逆者に多い違反だったが、近年では謎の共同体(相手は転移だとかを主張)に多い。
(※3)保安局は警察・検察・公安などを統合した護国のための機関。
(※4)未開発地域は一般的に工場や農場などがない森林・砂漠などをさす。日本列島においては内陸の山間部以外は伐採されているか、林業地域として整備されている。地球環境を守るなんて考えは一切ない。




