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第一章:【時空の魔女】を追え!!#2

 一方、渡堺聖果と別れた後――、


「曲がり角には気をつけろ。……どういう意味だ?」


 聖果が魔女だと自称して回る前から掴みどころがなく、誰かと一緒に行動する姿を目にしたことがなかった。むしろ友達と呼べる存在がいるのか疑問ではあるものの、それすらも当人は気にした様子もなく過ごしている。

 その中で、時おり予兆めいた発言をしてきた。

 しかもそれが百発百中当たるとなれば、周りが騒がずにはいられない。

 多かったのはもちろん定期テストで出題される内容で、まるで職員室から盗みだしたかのように一言一句同じ問題を当日目にした。

 それは当たり前のように大問題となったが、これといった処罰もなく終着している。

 どんな手を使ったのかと疑問が絶えないものの、それは一度だけで以降は訊いてくる生徒を冷たくあしらっているようだ。その光景を何度も目にし、陰ではよくない噂を耳にしている。

 多感な時期で過敏になってもおかしくないが、変わらず孤高を貫き続ける鋼の意志。

 同い年からして存在な異様として映り、自然と周りが遠ざけるようになった。

 全寮制の閉鎖的な環境で、中高の一貫だけあって結束力は強い。上級生から話を聴かされる下級生も、根も葉もなく脚色された噂を信じている節がある。

 だから、興味本位で訊ねてくる生徒もしばしば。


「それにしても花火ちゃん、似てたよな」


 面と向かって事実を探ったが、納得しきれていないでいる。

 特に印象的なのは、左右は反対ではあるものの髪に編まれたリボン。ヘアアレンジとしては不思議ではないが、こうも【時空の魔女】という存在を知らずに真似できるのか。

 むしろ、百学(ももがく)に通いながら七不思議すら耳にしたことがない様子だった。


「……おっと」


 階段を下っている時は、考え事をしながらでも足音がすれば警戒することが出来る。

 ただ、それほど長くもない階段だけあって気づくと一階に到着していた。

 角を曲がれば職員室があり、その先に下駄箱がある。


「……はぁ、神経質になりすぎか?」


 寮に帰るには通らざる得ない。

 テストの一件も同じクラスだから目の当たりに、他にも魔女さんが助言した噂を小耳に挟んでいる。どこまで尾ひれがついているかが疑問はあるものの、何の前触れもなく直接な進言をされた。

 それは初めてのことで、やけに鼓動を早く感じる。

 妙な緊張感に一呼吸ついて、置かれた状況を客観的に把握すると笑いがこみ上げてきた。


「バカバカしい」


 魔女さんは気をつけろと口にしただけで、何についてはと言及していない。

 そう考えると、少しは気が楽だ。

 だって、何かが必ず起きることは確定している。信じたくはないものの、百学の七不思議である【時空の魔女】がそう告げるのであれば受けざる得ない。

 命や身に危機があれば、同級生のよしみで的確にアドバイスしてくれてもいい筈だ。それに、魔女さんと何気ない会話をしている唯一の存在と自負している。

 そんな相手が急にいなくなれば、少なくとも心細くはなると思う。

 覚悟を決めて曲がり角に差しかかり、念を押して顔だけを覗かせた。


「よし、誰もいないな」


 さすがの下校時刻が迫るだけあって、下駄箱のある外は賑やかだ。

 ただ生憎と、廊下には人もなければ隠れられる場所すらない。

 だから意気揚々と一歩を踏みだした。


「おう、ちょうどタイミングに通りかかった」

「げっ」


 かけられた男勝りの口調に、一瞬ではあるが女子高ということを忘れてしまう。

 開かれた職員室の扉から姿をみせた、三年学年の主任を務める教師。ビシッとパンツスーツを着こなして姿は気真面目な印象だが、生徒たちと年も近ければ口調や雰囲気から接しやすい。

 加えて背も頭一つ分は高く、モデルのようなスタイル。同性であれば一度は憧れるような容姿でもあり、親身に接してくれる優しさを兼ね備えている。

 一部の生徒から熱狂的な指示を得ているが、当人はまったく気にしていないようだ。


「麻岐紫真。これ、HRで配るつもりの忘れてたんだ。代わりにお願いしてもいいか」

「はあ」


 拒否する暇もなくプリントの束を渡され、もとい押しつけられてため息を吐く。


「確かに、これは気をつけて取り扱わないとな」


 A4サイズのプリントに印字された、進路希望調査という文字。二年の同じ時期に配られ、生徒と教師だけの二者面談。夏休み前に親も含めた三者面談を行った。

 そしてこの時期ともなれば、三年生は本格的に進路を決めておかないといけない。

 これは、教師側が生徒の意志を知るための道具だ。

 もしここで断れば内申的にも影響はないともいえず、他の生徒にも迷惑をかけてしまう。

 面倒な仕事を押しつけられた気分だが、半ば定められた運命だったのかもしれない。


「……帰るか」


 三学年だけでも結構いる在籍している筈で、一人ずつともなればプリントは厚みを増す。

 にもかかわらず、封筒やファイルに入れられていない。風に吹かれて飛ばされたらどうするのだろうか。

 学び舎から寮までは同じ敷地内だが、外にでないといけない。

 元より空っぽの鞄を開き、その中にプリントの束を押し込んだ。

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