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第一章:【時空の魔女】を追え!!2

 中高が一貫の学園だけあって、これといった真新しさを感じない入学式。広い体育館に並ぶ椅子に座り、学園長からの祝辞を静かに聴く。それに続いて情緒のない連絡事項を生活指導の教師、さらには寮母からの寮で過ごし方など。

 高等部の全校生徒が集うタイミングみよがしに、壇上の入れ替わりが繰り返される。


「……寒い」


 壁際に配置された暖房機具たちは稼働しているものの、体育館全体を温かくするのにも時間がかかる。たとえ冬仕様の制服だとしても、何かしらの防寒対策グッズは必須。

 だが、上着を一枚羽織ってしまうと、せっかくの制服が隠れてしまう。

 あちこちにはねていた寝癖を整え、子供っぽいと思いながらもお気に入りの髪形。右横髪と一緒に編み込むひまわり色のリボン。小さい頃はヘアゴムの代わりに後ろでまとめていたが、よく外で遊んでは無くして帰ってくることが多かった。

 特に大事なリボンだったから無くしたくない。

 けど、しまっておくのももったいないからアレンジの編み込み。

 その結果、百籃学園の制服でも違和感がない。

 中等部の頃はセーラー服だったが、高等部からはブレザーへ。色はそのまま白で、学年色を示していたリボンがネクタイへと変わった。柄も襟や袖部分を金色で縁取られ、手触りからしてしっかりとした素材感が伝わってくる。

 最初は慣れずに何度も練習したネクタイを形よく結べるようになっただけで、少しだけ大人へと成長した気分を味わえた。

 寒さ対策で弥姫ちゃんから中に何か着ればと勧められたが、ごわついてしまう。

 せめてもと履いた厚手の黒タイツだけで寒さに耐えていた。


「では、これで入学式を終わります」


 形式だけを整えた行事は一時間弱でお開きとなり、司会進行をしていた教頭先生の指示で席を立った。

 ぞろぞろと上級生から体育館を後に、それを待ちながら弥姫たちを探す。

 ほとんどの生徒が防寒をする中、弥姫ちゃんと沙衣ちゃんも例にもれずそうしていた。

 弥姫ちゃんはブレザーの下に一学年指定色のライトグリーンジャージを着込んでいる。

 対する沙衣ちゃんは、すっぽりと両手が隠れるほど大きな茶色のコート。裏面や袖口を羊の毛を模したかのようにボアが付いている。

 鼻頭を赤くさせて、時にはすすりながら耐え忍んだ。


「ミキちゃん!」

「くっついて来ようとするなっての」

「だからって、私に押しつけないで」


 温もりを求めて弥姫ちゃんに飛びつくも、隣にいた沙衣ちゃんへと流される。

 どちらにしても温かい。

 勢い余って沙衣ちゃんのコート、そのフード部分に両手を差し込んだ。


「うぅ~あったかぁ~」

「だぁ~から何か着ればよかったんだよ」

「花火……動きづらいってば」


 沙衣ちゃんとの身長差もあって、後ろから抱き着く形で暖をとる。

 そんな中、弥姫ちゃんは体育館中を見渡していた。


「何してるのミキちゃん」

「ん~ちょっとねぇ~」

「はぁ、懲りないわね」


 何やら訳知り顔の沙衣ちゃんに、無言で抱き着いて問いかける。


「花火、苦しい……」

「えぇ~私だけ仲間外れは嫌だよぉ~」

「もぉお、子供じゃないんだから」


 怒ったように声を張る沙衣ちゃんだったけど、怖いどころか普通に可愛らしい。それでもしつこいと口も利いてくれない可能性があるため、フードに突っ込んでいた両手も引き抜いて離れておく。


「花火は興味なさそうだけど、結構有名だよ【時空の魔女】の噂」

「……【時空の魔女】?」


 ガッカリそうに肩を落とす弥姫ちゃんを、沙衣ちゃんはどこか呆れた口調で声をかける。


「だから言ったでしょ、実在しないって」

「けどじゃあ、なんで七不思議なんかになってるのさぁ」

「そんなこと訊かれても……」


 小さな子供のように唇を尖らせて拗ねる弥姫ちゃんに、困り顔で眉を寄せる沙衣ちゃん。助けを求めて視線を向けられるも、すっかり置いてきぼりにさせられている。

 同じ敷地内にある中等部から換算すれば、今年で四年目になる愛籃学園での生活。

 だが、残念なことに噂のような類を耳にしてこなかった。

 ただそれでも、弥姫ちゃんと沙衣ちゃんの口ぶりからすると前からあるモノ。怪談としてわかりやすい七不思議が、ウチの学園にも存在しているようだ。

 定番は夜、もしくは人気のない場所の印象が強い。

 だけど今は朝で、誰もが利用する体育館。そうなると、この生徒の中に紛れ込んでいることになる。


「魔女さんか」


 イメージからして三角帽子に、黒いマントのようなローブ姿。

 白が基調の制服に一人だけ黒は目立つし、見つけられないわけがない。


「その様子、花火も気になるよな」

「え、ん~まぁあ?」


 無意識に探してしまっていたようで、弥姫ちゃんからの嬉々とした口ぶりに歯切れ悪く返事をしてしまう。

 実在しているのであれば確かに気はなるし、名前からして時間を巻き戻せそうだ。

 それが可能なら、何度だってやり直すことが出来る。またその逆で、未来にだって行けてしまう。そうすれば、毎回の定期テストで焦る必要もなくなる。


「そんなこと後でいいから、そろそろ教室に戻るわよ」


 気づけば一年生も動きだし、残った一部の上級生が椅子の片づけ作業を始めている。

 先を歩く沙衣ちゃんを、弥姫ちゃんと一緒に追いかけた。



「というわけで、今年もよろしくね」

「ん、よろしく」

「まあ、今さら喜んだりはしないかも」


 入学式も無事に終えて、次に待っていたのはクラス分けだった。この一年を一緒に過ごすクラスメイトは気になるも、仲の良い友達がいるかの有無も必須だ。

 それもまあ、中等部からの付き合いばかりの子だから心配するほどでもない。

 その結果、四年間連続の記録を更新し、弥姫ちゃんと沙衣ちゃんとは一緒だった。


「それで、さっきの続きは!」


 改まった挨拶もそれなりに、HRまでの時間を【時空の魔女】について話を訊いていた。

 苗字の五十音で席が用意され、窓際の一番前と嘆いていた弥姫ちゃんの場所に沙衣ちゃんと集まる。

 席を立っている隣から椅子を拝借し、膝の上に沙衣ちゃんを座らせるつもりが断られてしまった。

 沙衣ちゃんは窓辺に寄りかかり、難しそうに腕を組む。


「そもそもだけど、花火は本当に知らないの?」

「え、うん。……そんなに重要?」

「そう訊かれると……そうじゃないけど……」


 言葉に詰まる沙衣ちゃんに、慰めるように弥姫ちゃんが頷いた。


「止めとけ、花火はそういうヤツだって」

「ミキちゃんには、私はどう見られてるの!?」


 あまりにも侵害で、つい声を張ってしまった。

 高等部に入学してそれほど経たず、すでに友達関係に亀裂が入った気がする。中等部の三年間はなんだんだろうか。

 ビクつきながら沙衣ちゃんを見据えると、諦めたようにため息を吐いた。


「確かに、花火だもんね」


 残念なことに、ボッチ確定の一言だった。


「……ごめん、席に戻るね」

「待て待て、何を誤解してる!?」

「そうだよ花火」


 今すぐベッドに潜って、これが夢だったと思いたい気分だった。

 だというのに、焦ったように手を引っ張る弥姫ちゃん。それに、普段はどこか落ち着いた印象の沙衣ちゃんも語気を強めていた。


「ほれほれ、おいで~花火」

「相変わらず、人の話を最後まで聞かないのね」

「……どういうこと?」


 どうにか泣かずに済んだが、二人は視線だけで何やら会話を始めた。

 さすが中等部前、親同士が同級生の幼馴染か。物心つく前から一緒に育ち、姉妹といっても過言じゃない付き合いなのだろう。微かな表情の変化や、目線の動きだけで通じ合っているようだった。

 そして、口を開いたのは沙衣ちゃん。


「とりあえず、花火が勘違いしてることは絶対にないから、安心しなさい」

「ホント?」

「じゃなきゃ、テストのたびに面倒見てないわよ」


 続くように、弥姫ちゃんも口角を上げて笑いかけてきた。


「そうそう、同じ追試ギリギリ組でいようね」

「それは、嬉しくないよ……」


 事実、そうなのだから切れない縁。

 再度席に着くと、詳しい事情を話してくれた。


「第一に、花火って七不思議とか興味ないでしょ?」

「うん。怖いもん」

「そう。そういった極少数だから耳にしてこなかったんだと思うだよ」


 確信を突いてくる弥姫ちゃんに、ただ頷くしかなかった。


「それにさ、さっきみたく人の話を最後まで聞かないでしょ」

「あと、たまにぼぉ~っとしてるもんね」


 沙衣の指摘は半ば頷けるものの、弥姫ちゃんが変顔のような間抜け面で真似なのか、どこか遠くを眺めている目をする。

 まったくといって心当たりがなく、首を傾げてしまう。

 それをみて、沙衣ちゃんは小さく笑った。


「そこまでじゃないわよ。普通に上の空って感じで、時どきだけど心配になるわ」

「けど、否定はしてくれないんだね!」


 どうやら、そんな姿が度々と目撃されているらしい。


「ついに花火も興味を持ち始めたということで、さっそく放課後にでも動きだしますか」

「弥姫、本気だったんだ」

「あったり前じゃん! せっかく高等部に上がったんだから【時空の魔女】を一度は拝んでおきたいよっ!」


 興奮気味に腰を浮かせた弥姫ちゃんに、辟易とした表情をする沙衣ちゃん。


「……で、説明はしてくれるんだよね?」


 相変わらず置き去りにされたまま、巻き込まれてしまったようだ。

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