第三章:自称魔女に弟子入り!?#2
「おや、お帰りにはならない様子で」
なんてことなく目にとまって、いつものように声をかけた。
教室で一人、窓辺から外を眺めている魔女さんの姿。珍しいこともあるもんだと足を踏み入れ、何気なく前の席に腰かけた。
どこか不思議そうにする雰囲気で、食事の邪魔でもしたかと怪訝に思ってしまう。
だけどそれも杞憂らしく、妙に言葉数も多かった。
いつもなら素っ気ない態度であしらわれ、関わり合いを持とうという意志すら感じられない。
こうして話せるのも、指折りで数えられる。
……むしろ、初めてかもしれなかった。
それでも何かを警戒するような視線に、取り留めのない会話を中断させて席を立つ。
帰ってすることもなければ、社交辞令の誘い文句で街に行くのも足がない。専用のバスは休日の朝と夕、こうして午前授業の日くらいは気を遣ってくれてほしいものだ。
下駄箱へと向かう道すがら、まだ残る生徒たちの賑やか話し声が耳に届いた。
立ち聞きをする趣味もなければ、おおよその見当がつく。
休み明けのテストが悲惨だったのか、断続な呻き声が二つ共鳴していた。
さすがに三年生でそういった生徒がいないから新鮮で、身に降りかかった懐かしい既視感に心からエールを送る。
そういえば、あの時はどう乗りきっていたっけ?
今となっては、ある程度の授業は聞いているだけで理解できる。それでも救済措置として設けられたノート提出のため、手慰みにしっかりとるようにしていた。
その必要もなく、そこそこの成績は維持できている。
「まあ、魔女さんには追いつけないけど」
おそらく今回も、全教科満点なのだろう。
一切授業に出席せず、教師からもお咎めすらない。
それが羨ましくて、勝手に対抗心を燃やして挑んだこともあった。その結果は見事に惨敗で、教師が何気なく口にした雑談程度の問題すら当ててみせたのだ。
なかなかに性格が悪いと不満を抱いたが、お陰で灯った火が沈下してくれた。
いつまでもこだわっていたら、おそらくまともな精神で居られないだろう。それくらいには、魔女さんは次元が違う存在なんだと察した。
上履きから指定の茶色のローファーを指先に引っ掛け、人目を気にせず放り投げる。
生活指導の教師に見つかれば、その場でお小言程度の説教をくらってしまう。
何かと厳しいくせに、魔女さんだけが特別扱いされる理由は何なのだろうか。
「やめ、やめ」
軽く側頭部を小突き、短くて重い息を吐く。
嫌でも脳裏にこびりつく、あの鋭く感情の宿らない冷たい瞳。運動部のかけ声が聞こえてこなければ、幻聴だと錯覚しながらも囁かれた台詞を思い返してしまうだろう。
触らぬ神に祟りなしとは、よく言ったものだ。
様子からして、三人組でいた生徒は【時空の魔女】を追うのだろう。口ぶりから百籃学園の七不思議を解き明かす意気込みで、なんとも若さが満ち溢れていた。
その先で、いったい何を見るのだろうか。
世間一般的で昔からある伝承や、まことしやかに囁かれて落ちているネット世界の情報源。他にも残された類似する書物に、題材となった作品も数多く存在する。
創作という作品ゆえ、結末からの受け取り方も賛否両論。
ざっとした調べた限りから、興味がひかれた項目が一つある。
「鬼が出るか蛇が出るか」
解き明かした者にしかわからない先があり、そこからが謎という深みにはまっていくのかもしれない。