第三章:自称魔女に弟子入り!?3
身体が水の中を泳ぐかのような感覚に、上下左右を見渡しても一切の方向を掴めない。
それでも、意識だけがハッキリとしている。
ついさっきまで図書室で勉強をしていて、広がる真っ白な世界ではなかった。
そうなると、どうやってここに来たかを考えてしまう。
「ここは……夢の中?」
いつもは睡眠が深くて、目が覚めて夢を覚えていたことがない。
けど今回は、妙にリアリティがある。
こうして身体の手足を動かせるような、しがらみのない開放感。
どこまでも自由に飛んでいけて、イヤなことをしなくていい全知全能の神にでもなった錯覚すらしてきた。
……なんとも安直な神が降臨したかもしれない。
そんな世界に、薄っすらとした暗い影に覆われていく。
「……んっ!?」
目を細めて遠くを見ると、複数の小さな点が迫ってくる。
眼前に迫った物体をどうにか避けるも、回避しようもない質量に逃げ場がない。無駄な抵抗とわかりつつも両手足を動かし、飛来する物体を注視する。
「……国語辞典に英和辞典? あれは、中学の教科書に課題たち!?」
絶対にぶつかったらひとたまりもない分厚さから比較的に薄い物、他にも一枚は大したことのないプリントが雪崩のように降ってくる。
しまいには、どこからか用意された勉強机まで。
明らかにこれらを片づけるまで逃がさないという空間に、ただ頭を抱えた。
「魔女さん……勉強は……もう……」
誰に助けを求めるわけでもなかったが、不意にでた言葉に疑問を抱かない。
ほぼ押しつぶされる形でもがき、手を伸ばしても虚しく空を切るだけ。
そんな最中、全身を包み込む温かさに苦しさがひいていく。見ると、押し寄せきた教材たちが霧のように霞みだす。
この感覚、なんか懐かしいな。
抱えていた不安が吹き飛ぶような優しさに、息がしやすく気持ちが落ち着いていく。
それを皮切りに全身が動かなくなった。
けどそれすらも心地よく、身を任せてもいいかと思考を放棄したくなる。
そのまま徐々に意識が引っ張られ、まるで睡魔という沼にゆっくりと浸っていく。
……このまま何もかも、身に任せて生きていきたいな。
重くなる瞼をゆっくりと閉じ、両手足を投げだしてどこまでも落ちていった。