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第三章:自称魔女に弟子入り!?

 ようやく百籃学園の七不思議である【時空の魔女】とされる、三年の渡堺聖果先輩と接触できるはずだった。

 だけど、いくら待っても姿を見せない。

 挙句には見回りの教師に帰宅していないことがバレ、早々に園内から追いだされた。

 何のために一時間近く、息を潜めるように物陰に隠れていたのか。

 そんな徒労に終わった中、恒例となった【時空の魔女】捜索集会の空気は重かった。どこか気の抜けた雰囲気は、炭酸が抜けた飲み物のよう。

 次という考えが、尽きてしまったのかもしれない。

 形上、テーブルに園内地図を広げながらも沈黙が続いた。


「んで、まだ諦めないの」

「ん~」


 沙衣ちゃんの唐突な問いに、仰向けで倒れていた弥姫ちゃんは悩まし気な声を発して寝返りを打った。

 露骨なやる気ダウンする弥姫ちゃんの姿は、如実にも今後を物語っている。

 それを察しられない仲でもなく、沙衣ちゃんもテーブルに広げた地図を片づけようと手を伸ばしていた。


「七不思議は他にもあるしね、そこをあたってからでもいいかなぁ~」

「……なら、次は――」

「その、ちょっといいかな」


 大まかな百学の七不思議については知らされ、いつまでも一つに執着するのは時間が勿体ない。

 そう頭では理解しつつも、芽吹いた好奇心に突き動かされるのか。

 何かしようという謎の衝動に駆られ、必死に考えているうちに終わっている。ここ何年とそれが続いて、気づいたら高校生にまでなっていた。

 二人の会話を遮る声量だったのか、驚いたような視線が向けられる。


「……私、もう少し魔女さんのこと追ってみてもいいかな」


 言葉の真意を探るように見つめられ、付き合いの長い幼馴染同士ゆえの無言で交わされるアイコンタクト。

 それも長いようで短い時間が過ぎ、おもむろに佇まいをただしてしまう。


「魔女さんは花火に任せたっ!」

「花火からなんて珍しくて驚いちゃったよ。情報は今後も集めておくから、魔女さんの件は任せるね」

「……うん!」


 改めて思うと、いつも二の足を踏んでいた一歩を動かせた気がした。

 ここ数日で集めた情報はあるとはいえ、ほぼ振りだしに戻った感覚がある。……もしかしたら、一切進んでいないのかもしれない。

 ……そう、思わされているだけという可能性もあった。

 雲を掴むような大袈裟な話ではないけれど、興味本位で近づく者を遠ざけるための策略。ない頭をフル回転させるも、一瞬で意識が途切れる。


「とりあえず、一から園内を回ってみるよ」

「だったら沙衣、私らは次どうしようか」

「花火が探し回るんだったら、できるだけ場所がかぶらない方が良さそうね。そうなると……」


 おもむろに取りだされた手帳をテーブルに広げ、話は進んでいく。

 こうして二手にわかれる形で、百学の七不思議を探っていく流れになった。三人がかりで見つけられず、はたまた第三者を頼ってすらたどり着けないでいる魔女さんの存在。

 それを一人で追い求めて探していくとなると、見つけられるか不安でいっぱいだった。

 ただ、何かが引っ掛かる感覚に突き進むしかない。

 少し前までの消えかかっていた気力が戻り、賑やかさを増す弥姫ちゃんと沙衣ちゃんの話し合いに耳を傾けていた。


◇    ◇     ◇


 明けた翌朝。寮から学園に向かう道すがら、チラホラと登校する生徒たちを目で追っていた。できるだけ怪しまれないよう、しきりに首を左右へと動かす。


「……花火、首もげるよ」

「明らかに不審者」

「えっ」


 いつものように一緒の登校をする弥姫ちゃんと沙衣ちゃんから、あまりにも侵害な指摘をされる。


「まあ、花火ってこういうところあるもんね」

「寝相が悪くて頭の打ちどころでも悪かったんでしょう」

「ねぇ! 可哀そうな目でみないでくれるかなぁ!?」


 通り過ぎていく他クラスの同級生や、先輩たちからの怪訝そうな視線が刺さる。

 確かに今朝もベッドから落ちかけはしたけど、片足だけだからセーフの範疇だ。

 手掛かりとなる髪にリボンを編み込んだ生徒は一人として見当たらず、昇降口の門を潜って二人と一瞬だけわかれる。


「……もう登校してる」


 汚れどころか傷一つない茶色のローファーが、お行儀よく並んで収められていた。

 何とも言えない気持ちに、そそくさと二人の元に引き返す。


「早起きは……ちょっと、厳しいかな」

「頑張れよ」


 弥姫ちゃんからの抑揚ない叱咤に、沙衣ちゃんの無言で肩を竦めた素振り。

 謎に駆られた衝動のまま【時空の魔女】を追うと決めたが、幸先不安な雲行きだった。



「さてと、どこから探そうかな」


 それからお昼休みに麻岐先輩から不意に声をかけられ、流れで昼食を一緒に摂った。

 【時空の魔女】について、さらに麻岐先輩に訊きたいことはあったけど、弥姫ちゃんたちと他の七不思議で盛り上がっていたので切り込めず。

 結局、放課後を迎えてしまった。

 すでに部活動の時間となり、あちこちから熱量の孕んだ喧騒が耳に届いてくる。

 ……この独特な空気感、嫌いになれないな。

 ハッキリと物事の好きや嫌い、得意や苦手ということを意識したことがない。

 勉強は沙衣ちゃんのようにできるわけでもなくからっきし。

 運動だって、引く手数多の弥姫ちゃんとは比にならない。

 何事において平凡で、一つのことに熱中した記憶も定かじゃないときた。

 だからあの、何かに精いっぱい頑張る姿が羨ましく思えてしまう。

 ……もしかしたら、そんな真似事でもしようとしているのかもしれない。


「今は魔女さんを探さないと」


 首を横に振り、念のため下駄箱を調べる。

 朝と同様、お行儀よく納められた茶色のローファー。それだけも園内にいることが把握でき、散策する候補が屋内に絞られた。

 この時点で昨日と置かれた状況は変わらず、下校時刻ギリギリまで探せばいい。


「ん~そんなんでみつかるのかなぁ~」


 腕を組み、首を傾げてしまう。

 ミキちゃん、ずっと外探してなかったっけ?

 いつも必ず三人で手わけしていたけど、よくよく考えると一方は空振りに終わっている。沙衣ちゃんのことだから、屋内外くらいにいるかの確認はしているはずだ。

 何度か屋外を探していた時、魔女さんは本当に外にいたのだろうか。


「サエちゃん、本当に熱心だなぁ~」


 普段はクールで勉強ができる沙衣ちゃんが、少し頭を使えば考えられることを見落としている可能性がでてきた。

 けどそれくらい、熱心になっている。


「よぉ~し、頑張るぞぉ~」


 謎に全身をほぐすため関節をグネグネと動かしていると、叫び声を聞いて飛んできた教師に奇妙な目でみられてしまった。

 急激に熱を帯びる頬を両手で包み、何事もなかったかのように笑顔でその場を退散する。

 ヤバい! 絶対に変な子だって思われたよね!?

 今朝とのデジャブ感に、怒られない程度の速さで廊下を歩いた。



 それから数日が経っても魔女さん――渡堺聖果先輩をみつけられず、時間だけが過ぎていく。


「……花火ぃ~調子はどう」

「変わらずぅ~」

「二人とも、だらしないよ」


 放課後、それぞれが七不思議を探しに行く前に集まっている。各々の情報を交換という、現状の進捗を取り留めもなく話し合う。

 机を三つ合わせて、グループワークでもするかのように座っている。

 様子からして弥姫ちゃんたちも芳しくないのか、両手をだらりとさせて机に突っ伏していた。倣うように、机に張りついてしまう。

 毎日のように魔女さん――渡堺先輩の下駄箱を覗き込み、屋内外のどちらにいるかを確認している。連日と屋内にいるため、手当たり次第にあちこちと探し回った。最初は上級生のクラスに足を踏み入れるのを躊躇っていたけど、今となっては抵抗すら感じない。

 恐らく、同級生の中では一番を誇っていいほどには内部を知り尽くした気でいる。

 元もと七不思議については中等部の頃から耳にして、高等部に上がってさらに好奇心が高まっていた弥姫ちゃん。沙衣ちゃんがどうかわからないけど、今日まで付き合ってくれている。

 だから【時空の魔女】以外の七不思議に進展があったと思っていた。


「くぅ~一筋縄じゃいかねぇ~」

「……弥姫、机が揺れるんだけど」


 両足を机の下で暴れさせる弥姫ちゃんを、沙衣ちゃんが冷たく咎める。


「……サエちゃん、こんな時にお勉強?」


 そんな中、沙衣ちゃんはノートを開いていた。


「こんな時って、来週末からテストが始まるわよ?」


 唐突に突きつけられた事実にゆっくりと上半身を起こすと、同じタイミングだった弥姫ちゃんと目が合った。お互いに気持ちを落ち着けるため深呼吸をし、後ろの黒板に書かれた月間予定表に視線を向ける。


「今日って、何週目の何曜日だっけ」

「四月の三週目で……木曜日だね」

「それでぇ~テストはいつからと……?」


 確認のために沙衣ちゃんを見つめると、わざわざ手まで止めてくれた。


「四月の四週目、月曜日からよ。……要するに、土日挟むと四日後ね」


 実質今が放課後であるため、木曜日は終わっているようなものだ。

 そうなると、残された猶予は三日となる。


「どうしてそれを早く教えてくれたなかったんだよ!」

「ひぃ~今からじゃ間に合わないよぉ~!」

「自業自得でしょ?」


 抑揚もなく無慈悲で冷徹な一言に、頼りの綱が切られた錯覚に陥った。

 それは弥姫ちゃんもだったらしく、悲鳴にならない奇声を発しながら髪をかきむしっている。

 気持ちは同じだった。

 土日を利用して猛勉強したところで頭に叩き込めるとも思えないし、第一に出題範囲すら把握していないのだ。

 真剣に授業は受けていたけれど、教師の方が一度たりとも匂わせる発言を耳にしていない。


「ちなみに、範囲は春休みにだされた課題からよ。……おおむね、総復習ってところね」

「うげぇ、まだ終わってない」

「……それはそれでどうなのよ」


 沙衣ちゃんの表情から、さらに感情が消えていく。

 提出期限は入学式後、と去年中等部の春休みに課題と一緒にプリントを渡されている。やけに返却が早いと思っていたけど、そういうことだったのか。


「どこにいったかな」

「あんた達ねぇ~」


 弥姫ちゃんは未提出の課題が手もとにあるとして、返却されて以降の行方が不明ともなると目も当てあてられない。

 これで土日を使っての自学習は不可能となった。


「花火、こういう時こそ助け合いだろ」

「ミキちゃん!」

「……まともに解けるの?」


 いったいこのやり取りだけで何度空気が凍ればいいのか。

 何もかもが上手くいく見通しはなく、足もとに大きな穴が開いている状態だった。


「はい、帰って勉強会ね」


 どれだけ足掻いたところで現状が変わらず、頼みの沙衣ちゃんには従わざる得ない。

 荷物をまとめる沙衣ちゃんを横目に、いそいそと机を片づけながら席に戻って鞄を手に取る。半ば導かれる形で、弥姫ちゃんと後ろをついて歩いた。

 ここで合格ラインに達しないと、暢気に放課後を【時空の魔女】探しや百学の七不思議解明に時間を使えなくなってしまう。

 進捗が芳しくない七不思議を一度棚の上に、貴重な休日を勉強に費やした。

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