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ARMS FACE  作者: 立花零
9/10

9.Root Breaker

 ハイエンドモデルに換装した背面ブースターは、ウルフの肉体が千切れんばかりの加速を生み出す。強化された火器管制システム(FCS)は両腕への射撃兵器の装備を可能とし、出力が大幅に増加したジェネレータが滞空時間を引き伸ばす。

 ハイブリッドAFとして生まれ変わったバレルキャリーは、胴体と頭部パーツ以外を全てハイエンドモデルに換装していた。右腕には四十ミリ機関砲を引き続き装備し、左手に三十ミリ機関砲を保持。予備武装として、左前腕部に高出力プラズマ・ブレードを搭載している。また、左右二つの背面ジョイントには、折り畳み式百二十ミリカノンを一門ずつ接続した。

 これらは全てシムズガンナー(SGN)から無償支給されたパーツであり、今回の調印式強襲作戦の重要さを伺わせるものだ。

 地平線の彼方に太陽が沈みきった頃、ミッション開始の合図がSGN理事会より直接出された。

 私は調印式会場を目指し、コーンウォールと呼ばれていた大地を高速移動する。背面ブースターの生み出す推進力は、会場を警備する部隊を出し抜くのに十分すぎる程だ。

 大小の緑の丘を越え、きらめく星々はディスプレイの外へと流れる。身体にのしかかるGの影響で首を動かせない。まるで戦闘機に乗っているかのようだ。

 長距離レーダーに椀状に並んだ赤い点が映る。迎撃のために配置された、T.E.Cとデルタクティカル社の混成ハイエンド部隊だ。私は機体を左右に振り、事前に回避機動を取る。

 一瞬後、無数の火線が襲いかかってきた。レーダーにAAFM(対AFミサイル)が表示され、幾本ものそれは鎌首をもたげた蛇のように自機へ接近する。

 自動で起動状態(アクティヴ)になった対空二十ミリ機関砲が、斜め上へ向かって射撃を開始する。徹甲弾に弾頭を破壊されたAAFMは、内部の追尾用回路ごと空中で消し飛ぶ。

〈調印式会場まで残り10キロ。対空砲火が苛烈になるわ〉

 赤い光点がさらに増加。ディスプレイでは一つ一つにロックオン表示が割り振られる。

「総勢40機......。多すぎる」

 さらにAAFMが飛来。迎撃を間に合わせるよう減速する。ミサイルの第二波を墜とすと同時に、対空機関砲が残弾低下警告を発する。このままでは会場にたどり着けずにおしまいだ。

 高度を低く保ち、地面を滑るように飛行。FCSを起動し、両腕の機関砲の照準を敵機に合わせる。反撃に転じる。

〈敵陣に突っ込む気!?〉

「そうするしかない!」

 スロットルを開き、最大加速。燃料流量のグラフが跳ね上がる。敵機の接近警告を無視し、防衛陣地に突入。

 敵機は四脚型のAFが中心だった。長射程の誘導兵器を多く搭載した、陣地防衛に特化した装備だ。しかし密集している以上、敵はハイエンドの高機動を活かせない。

 左右の引き金を絞る。斜めに突き出した機関砲が唸り、避けられなかった敵機に容赦なく銃撃を浴びせる。四十ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)と三十ミリ徹甲焼夷弾。性質の違う砲弾が四脚を砕き、コクピット・ブロックを鉄屑に変える。

 推力そのまま。敵陣の一点を突破する。機体を持ち上げ、高度を確保。敵の射程からの離脱に成功。このまま会場へ高速侵入。

 会場はドーム状の建物で、事前に受け取っていた資料によるとAFが入るほどの入り口はない。ドームの一部を吹き飛ばすのが有効な戦術だ。武装を変更。背面の百二十ミリカノンを展開し、榴弾(HE)を装填。マニュアルで目標のドームを照準し、引き金を絞る。

 機が押し戻されんばかりの強烈な反動。高速で飛翔した榴弾がドームに接近した刹那、近接信管が起爆。真白のドームに爆風と無数の破片が降り注ぎ、侵入口が確保される。

「これより会場内部に侵入する」

〈こちらでも確認しているわ。気を付けて〉

 スロットルを引き戻し、徐々に減速。慣性で滑空。機体を空けたばかりの穴に滑り込ませ、侵入に成功した。

 ドーム内部は簡素な造りだった。中央に段があり、上に書類がのったテーブルがある。その席についているのは、T.E.Cおよびデルタクティカルの重役だ。

〈そこにいる6人が抹殺対象だ。ウルフ、逃がさんでくれよ〉

 依頼者(クライアント)からの通信。左腕の三十ミリ機関砲を重役らに向ける。機外の収音装置が命乞いを拾う。

「やめろ!」

「誰の依頼だ!私たちには提携が必要だっただけだ!」

「金なら出す、見逃してくれ!我々の専属となってくれてもいい!」

〈耳を貸すな。奴らは裏切り者だ〉

 引き金を絞る。まばゆい発射炎(マズル・フラッシュ)の奥で、男たちが赤く霧散した。

作戦(コンプリート)完了(ミッション)帰投する(RTB)

〈作戦目標クリア。機体システム、撤退モードに移行します〉

 電子音声が告げ、照準システムがダウン。ハイエンドパーツは電力消費が激しいため、使用時以外は通電させないことで機体のコンディションを維持できる。

〈警告・敵機接近。危険です〉

 ディスプレイに赤いWARNINGの文字。レーダーに新たな赤い光点が現れる。背後からの接近、速い。数秒と経たずに自機と接触。衝撃が駆け巡る。

 次の瞬間、機体は宙を舞っていた。すぐに落下。地面にたたきつけられ、各部位が警告音を発する。オート・バランサが作動し、ブースタを使用して機体を立て直す。衝突の原因と対峙した。

 ディスプレイに映る黒いAF。既視感のあるそれは、紛れもなくマドカの乗る機体「バタフライズドリーム」だった。

〈対象を確認......。駆逐します〉

 彼女は右腕の機関砲を向ける。私はペダルを踏みこみ、右方向へ瞬時に移動。壁面に左腕を打ち付けるが、射線から逃れることはできた。

〈増援!?〉

「一体どこに隠れていたんだ」

〈その機体を倒さなければ、撤退は無理よ〉

「無論だ。やってやる」

 円運動で敵機の背後を取る。右腕の四十ミリを向け、引き金を絞る。しかし彼女は後方へ移動。砲弾は掠めるのみで命中せず、逆に背面での体当たりを受ける。

〈警告・胴体ユニットに深刻な障害が発生しています。直ちに安全な挙動に修正してください〉

 吹き飛んだ自機は会場客席に倒れ込み、数台の椅子がクッションの代わりとなった。

〈死んでもらいます〉

 彼女は左腕の銃器を捨て、手首のプラズマ・ブレードを起動した。発振した青白い刃が地面を焼く。バタフライズドリームがブーストで舞い上がる。さながら蝶のように。

「させるか」

 仰向けに倒れた姿勢のまま、地を滑るように横へ移動。一瞬前まで自機がいた場所に、マドカ機のブレードが刺さる。

〈小賢しい動きを!〉

 同時に立ち上がり、背面カノンを展開。予測通り接近してきた敵機に、その砲口を押し当てる。引き金を絞る。警告音が響く。零距離射撃ゼロレンジ警告・最短信管距離ミニマムレンジ警告の二つ。しかしもう一度引き金を絞り、警告キャンセルの意志を機へ伝える。

〈やめ......〉

 百二十ミリ弾を撃発。この距離では榴弾の信管は起爆せず、ただ金属の巨大な塊で殴るようなダメージを負わせるのみだ。

 マドカ機の頭部と胴部の接点。人間でいう喉元に榴弾が突き刺さり、その運動エネルギーは機体を後退させた。その隙があれば十分だった。

 両腕の機関砲を向ける。

「さようならだ」

 射撃。フルオートで残弾が叩き込まれる。黒く美しい、ドレスとさえ形容される機体が、文字通りに蜂の巣と化す。最後の薬莢が落ちた時、既に彼女の機は原形を留めていなかった。

〈......周囲に敵影なし。今度こそ作戦終了よ。お疲れ様〉

 コクピットに、ヘレナからの無線が寂しく響いた。

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