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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鳥のヒナ、すぐ死ぬ

作者: 翔という者

タイトルの通り、死にまつわる描写、グロくてエグい描写もあるので、閲覧注意です。

 鳥のヒナは、すぐに死ぬ。

 ちょっとしたことで、簡単に死んでしまう。


 本当にすぐに死ぬ。

 こんなに弱い生き物が、この世にいて良いのかと思ってしまうほどだ。



 たとえば、ヒナが卵から孵化するには、母鳥から卵を温めてもらう必要がある。もしも母鳥が卵を放置してしまうと、ヒナは卵から(かえ)ることができない。生まれる前から死んでしまう。


 特別なことではない。たとえば卵が五個あったとして、一個目の卵が孵化したとしよう。親鳥は最初のヒナに餌をあげるために、巣を離れがちになってしまう。その結果、他の卵が放置される時間が長くなってしまう。産み落とされても(かえ)れなかった卵は、存外に多い。


 無事に卵から(かえ)ることができても、油断はできない。

 むしろ、ここからが苦難の始まりだ。


 まず、生まれたばかりの鳥のヒナは、羽が全く生えていない。

 ミミズのような褐色の肌を、外気に無防備に(さら)している。

 いかにも水分量が多そうな、ぷるぷるのお肌だ。


 この状態のヒナは、身体がすごく冷えやすい。

 人間で言えば、全裸の赤ん坊が外で放置されているのと同じ状態だ。

 ものの二時間で寒さにやられて、目に見えて弱り、やがて凍死してしまう。


 だから親鳥は、ヒナが卵から(かえ)った後も、引き続きヒナたちを身体の下に(かくま)って温めてやらなければならない。


 だが、ヒナたちは餌を食べなければならない。

 餌を食べなければ、当然ながら餓死してしまう。


 だから親鳥たちはヒナのために餌を探しに行くわけだが、そうすれば当然ヒナたちは外気に晒されて身体が冷える。親鳥たちは餌を手に入れたら、急いで巣に戻らなければならない。


 ヒナたちは、親鳥たちに餌を口移しで食べさせてもらわなければ、自分で餌を食べることはできない。当然ながら、自力で餌を調達することもできない。


 もし親鳥が怪我をして、上手く餌を取れなくなってしまうと、やっぱりヒナは飢え死にする。


 ヒナの数が多いと、親鳥から餌をあまり貰えないヒナも出てきてしまう。そしてやっぱり、ヒナは飢え死にする。ヒナたちにとっては、周囲の兄弟たちさえも、時には生存競争のライバルとなるのだ。


 人間が作った鳥の巣箱では、親鳥が動いた拍子にヒナが産座……ヒナたちが集められている(くぼ)みから(はじ)き出されてしまうことがある。


 そして親鳥は、飛び出てしまったヒナを再び産座に戻すといった殊勝なことはしない。産座のヒナたちを温めている間も、親鳥は外に飛び出てしまったヒナを「こいつ何してるんだろう」といった感じの眼差しで、ただ眺めるだけだ。


 ヒナは産座から飛び出てしまったら、自力で産座まで戻らなければならない。戻れなければ、ヒナは親鳥から身体を温めてもらえず……その後は言うまでもないだろう。


 しかし、生まれたばかりのヒナは目が見えておらず、普通の鳥のように歩くこともできない。全身を使って這い回ることしかできない。


 そしてヒナは、産座に戻らなければ死ぬということも理解していないので、動き回って運良く産座に到達することを祈るしかない。つまるところ、ヒナが産座から弾き出された時点で、ほぼヒナの死が確定する。


 ヒナたちが集められている産座からほんの数センチ離れてしまうだけでも、ヒナは死ぬのだ。鳥のヒナがいかに弱い生き物か、よく分かっていただけると思う。


 そして、ここまで読んでお分かりいただけたと思うが、鳥のヒナは自身の生存を100%親鳥に依存している。温めてもらえなければ(こご)え死に、餌を貰えなければ飢えて死ぬ。


 つまり、親鳥が何らかの不幸でお亡くなりになれば、もれなく巣のヒナたちも全滅の運命を辿ることになる。


 そして当然、ヒナが巣の外にでも落ちようものなら、もうそのヒナは確実に助からない。心優しい人間がヒナを巣に戻したりしない限り、確実だ。


 それと、他のヒナたちと比べて非常に遅く生まれた、いわゆる「末っ子」のヒナの生存率も著しく低い。


 他の兄弟たちが羽も生えそろってモフモフになり、身体も大きくなっている中で、末っ子は頑張って親鳥から餌を貰わなければならない。


 しかし親鳥は、小さい身体の末っ子よりも、大きな身体の兄弟たちにいち早く反応して、彼らに優先的に餌をあげてしまいがちだ。小さい末っ子は親鳥に気付いてもらえず、餌も貰えないのだ。


 そんな末っ子が辿る運命は、餌が貰えず餓死。あるいは、兄弟たちの大きな身体によって巣の外に押し出されて転落死。ツバメのヒナなどはこういったことが時々ある。


 さて。そんな波乱万丈の幼少期を乗り越えたヒナたちは、身体が羽毛に包まれて、それなりに鳥っぽくなる。ここまで来れば羽が外気を防いでくれるので、凍死の心配も無くなる。


 だがそれでも、油断はならない。

 ヒナたちの命を脅かす外敵は、この自然界にごまんといるからだ。


 代表的なのは、ヘビだろうか。

 彼らは木や壁の高いところにある巣にも難なく到達し、巣の中のヒナたちを絞め殺し、そして一羽ずつ丸呑みにしてしまう。


 カラスもまた極めて危険な存在だ。

 知能が高い彼らは、親鳥がいないタイミングを正確に見計らって、一瞬でヒナたちを誘拐してしまう。


 マイナーなところでは、キツツキもヒナたちの天敵だ。

 キツツキは肉食の鳥で、他の鳥のヒナを巣からさらって、その鋭いくちばしで脳髄を食ってしまうのだという。


 大きい鳥ばかりが敵ではない。

 たとえばアリやダニといった小さい虫も、ヒナたちの身体にまとわりつくと、ヒナたちはくすぐったくなって暴れ始める。この拍子に巣から転落してしまうヒナも多い。


 自然豊かな山の中では、木々を伝うリスもまた、ヒナをさらってしまうことがある。普段は可愛いリスが容赦なくヒナを誘拐してしまうシーンは、見る人が見れば相当にショッキングかもしれない。


 ネコやアライグマといった肉食獣にとっても、鳥のヒナはごちそうだ。こんな巨大怪獣に襲われた日には、ヒナたちはひとたまりもない。巣もろとも全滅だ。


 また、たとえ同族の鳥でも、自分のヒナでなければ、多くの鳥たちはなぜか攻撃を加える。ツバメの子殺しなどは有名な話だ。たとえ同族だろうと、ヒナたちにとっては、親鳥以外の生き物はほぼ全て敵なのだ。


 こうした外敵たちのほとんどは、一度鳥の巣を発見すると、その巣の場所を覚える。そして、一羽のヒナを始末しても、また次のヒナを狙いに戻ってくるのだ。これをヒナたちが全滅するまで繰り返す。あるいは、最初から全滅するまで巣の中に居座る外敵もいる。


 恐ろしい外敵に襲われることもなく、親鳥から餌も十分に貰えたヒナたちは、親鳥とそう変わらない見た目にまで成長し、やがて飛行訓練の時期に入る。


 だが、ここでもやっぱり油断はならない。

 巣立ちに失敗して転落し、ここまで育ったのに命を落とすヒナもいる。

 また、巣立ちのタイミングを狙ってヒナを襲うカラスなども存在する。


 心優しい人間が、落巣したヒナを拾って育てるケースもある。

 だが、人間から巣立ちしたヒナは、親鳥から狩りの方法を教えてもらうことができず、自力で餌も取れないので、自然界では生き残れないという話も存在する。厳しい現実だ。



 こうした数々の苦難を乗り越え、親鳥から自然界で生き抜く術を教え込まれたヒナたちだけが、晴れて成鳥として、この大空に旅立つことができるのである。


 しかし、彼らの人生……いや、鳥生はまだまだ始まったばかり。

 本当の戦いは、これからなのかもしれない。

 今度は彼らが自分の子を産み、自分を守ってくれた親のように、自分の子らを守る番だ。



 空を見上げれば、今日もたくさんの鳥が飛んでいる。

 彼らにもまた、いつ死んでもおかしくないヒナの時期があったのだ。



 耳をすませば、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。

 それが、見方によっては一つの奇跡なのだということを、どうか忘れないでほしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)なるほど~勉強になる御話でした!!でも翔様がこうした作品を書かれることによって鳥への愛着が湧く読者の方々がでてくるかもしれません。少なくとも僕はそうなった気がします……!! [気にな…
[良い点] 本当に命は廻りますね~。 私はマンボウなんかにも奇跡を感じますね~。 3億個も卵を産むのに、その内で成体として生き残れるのは僅かに一匹か二匹程度、凄いですよね、そんな生物が悠久のときを生き…
[一言] 同族でも子供に攻撃するのは人間で言うところの不倫や寝取りみたいなものらしい。子供や卵がなくなったらメスが発情するからつがいのいないオスがそういう行動を取るのだとか。これは自然界じゃ割と普通な…
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