クリスマスイブの朝
十二月二十四日、幻十郎さんに認めてもらった翌日の朝。
俺は自宅マンションの寝室で目を覚ました。
カーテンを開けて太陽の光を部屋の中に入れ、思いっきり伸びをする。
「ん~っ!」
心なしか気分が軽やかだ。
やはり楓坂とこれからも一緒にいられるという安心感があるからだろう。
寝室を出ると、部屋着にエプロン姿の楓坂がキッチンから顔をのぞかせた。
「おはようございます、和人さん」
「おはよう、楓坂」
「コーヒー、飲みますか?」
「ああ、頼む」
キッチンへ向かうと、楓坂はインスタントコーヒーのパックをカップにセットし、ゆっくりとお湯を注いでいた。
すると香ばしい香りが周囲に漂う。
コーヒーの香りって、このお湯を入れる瞬間が一番いいんだよな。無条件でホッとする。
俺達はキッチンで立ったまま、コーヒーを飲むことにした。
「朝の出勤前に、こうしてのんびりする時間があると、なんか贅沢な気分になるんだよな」
「ふふふ。なんだかオジサンみたい」
「二十六歳だ」
「でもそれは今日まででしょ?」
楓坂のその一言に、俺は驚いて訊ね返した。
「あれ? 俺の誕生日、知ってたのか?」
「もちろんです。結衣花さんに聞きました」
なるほどね。
結衣花には俺の誕生日を教えていたからな。
「ちなみに楓坂の誕生日は六月十五日だろ?」
「どうして知ってるの?」
「結衣花に聞いた」
お互いに結衣花から聞いていたことを知って、顔を見合わせて笑った。
俺も楓坂も、結衣花には頭が上がらないからな。
こうして付き合うようになれたのも、結衣花のサポートがあったからこそだ。
本当にすごい女子高生だよ。
「今日はクリスマスイブですし、和人さんの二十六歳最後の夜ということで豪華にしますね」
「クリスマスイブねぇ……。特別な日なんだろうが、俺は仕事だからな」
「イベントの現場もあるんですか?」
「ああ。とは言っても、他のチームのヘルプだけどな」
「今日の夜、早く帰ってこれる?」
「大丈夫だ。任せろ」
「和人さんって仕事人間だから心配なのよね」
イベントと一言で言っても、担当する内容によって忙しい時期が異なる。
ちょうど今俺が担当している案件はIT関連の展示会とオープニングセレモニーで、クリスマスが特別忙しいということはない。
なので今日は早めに帰ることができる。
横に立つ楓坂に近づき、優しくささやいた。
「今は舞の方が優先だよ」
「本当?」
「当たり前だ」
疑いを晴らすように、コーヒーカップをテーブルに置いて彼女を横から抱きしめた。
突然だったからなのか、楓坂は子供がはしゃぐように笑った。
「うふふ。やだぁ~っ、もうっ!」
「いいじゃないか」
「朝から甘えすぎよ」
「朝だからだろ。楓坂こそ、しっかり抱きしめてるじゃないか」
「だって、こんな風にされたらもっとくっつきたくなるでしょ」
そして楓坂もコーヒーカップを置き、俺の手に指を絡ませてくる。
「キスしたい」
「お……。おう」
「して……。はやく……」
楓坂を引き寄せて、キスをしようとした瞬間――
ピーッ!!
湯を沸かしていたヤカンの笛が鳴った。
その音で現実に引き戻された俺達は揃って、湯気を出すヤカンの方を見る。
いや……まぁね。予想はしてたんだよ。うん……。
「……ヤカン先輩が怒ってるわ。朝食の準備を始めろってことかしら」
「はは……。手伝うよ」
おかずは楓坂に任せて、俺は食器の準備とサラダの盛り付けをしよう。
たぶん少し早く終わるだろうから、その後は掃除をすればいい。
そう思って冷蔵庫からレタスを取り出した時、楓坂は調理をしながら訊ねてきた。
「和人さん。……今日の夜は二人っきりでゆっくりできますよね」
「ああ」
「じゃ……、じゃあ。続きは……その……夜にしましょうね」
続きを夜ってことは……、キスの先のことを夜にってことか?
それってつまり……。
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残り、あと二話。
次回、クリスマスイブの夜
投稿は【朝7時15分頃】
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