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楓坂のデニムジャケット


 恋愛バラエティ企画に勝つために楓坂が考えたプラン。

 それは俺のイケメン化デートだった。


 だがもともと外見を気にしないタイプだった俺には、かなりハードルが高い内容だ。


 着替えを済ませた俺に、お嬢様コーデにデニムジャケットを羽織った楓坂が声を掛ける。


「お待たせしました」

「なぁ……考え直さないか。」

「まだ覚悟が決まらないの? 私が一緒だから怖がらないで」

「そうは言ってもだな……」


 別に怖いわけじゃないさ。

 でもイケメン化と言われるとどんなことをされるのか心配なんだ。


 しかし楓坂は妙に楽しそうだ。


「私、ずっと思ってたんですよね。笹宮さんって服装と髪型を少し変えれば今よりずっとカッコよくなるって」

「これって恋愛バラエティ企画のためのデートだろ? 俺をイジる意味なんてあるのか?」

「もちろんあるわ」


 楓坂はたっぷりの自信を示すように腕を組み、ドヤ顔をしてみせた。


「ダメな男性をヒロインがイケメンに仕上げていく逆シンデレラストーリーって王道の一つでしょ」


 なんだよ、その自信。

 それ王道か? 王道ってもっとシンプルなような気がするんだけど?


「漫画や小説の世界だけだろ」

「それをリアルでやるんですよ」

「マジかよ……」


 あー、ダメだコレ。

 恋愛バラエティ企画に勝つとかじゃなくて、楓坂がやりたいだけじゃないか。

 

「っていうかさ。今の話の流れだと、俺ってダメ人間って立ち位置?」

「人としてはダメじゃないですけど、オシャレじゃないですよね。私服なんていつも同じですし」


 くっ……。痛いところを突いて来る。

 確かに今日も普通のシャツにジーンズに、特徴のないジャケットを羽織っているだけ。


 しかも適当に選んでいるから、全体のバランスが悪いんだよな。


「こ……これはだな……。どこにでもあるナチュラルなコーデと機能性を取り入れた男の美学なんだ」

「ただ単に服装選びが面倒くさいだけでしょ……。男の人の言い訳って年齢が違っても変わらないのね」


 はぁ~っとため息をつく楓坂。

 なんだよ。そこまで残念そうな目で見ないでくれよ。

 自分で自分がかわいそうに見えてくるぜ。


「そういえば舞っていつも同じジャケットを羽織ってるよな。それって男モノだろ?」

「あ、これですか?」


 楓坂はいつも着ているデニムジャケットを見た。

 楓坂の体型にしてはひと回りほど大きいサイズだ。


「三年程前に私を助けてくれたお爺さんがいたんです。その方の形見なんですよ。お守り代わりにいつも着ているんです」

「へぇ……」

「もっとも、さすがに冬になったらコートを着ますけどね」


 形見ということはもう亡くなったのか。

 でもこうしてずっと着ているということは、きっとその人の事を大切に思っているのだろう。


 そこまで考えた時、居心地の悪い不安に襲われた。


「もしかして舞は、その爺さんのことが……その……好きだったとかあるのか?」

「まさか。さすがに恋愛感情はありませんよ。でも尊敬はしていますね」


 冷静に考えればそうだろう。

 三年前ということは楓坂は高校一年生。

 そんな時に爺さんに恋をするなんてありえない。


 だけど俺はついそう考えてしまった。


 俺の不安を感じ取ったように、楓坂は俺の顔を覗き込んでくる。


「もしかして妬いてるの?」

「いや、別に……」

「妬いてるんだぁ~。ふぅ~ん」


 楓坂は女神スマイルで悪役顔を作った。

 いい獲物を見つけたと言わんばかりだ。

 ひさしぶりに見たぜ、この表情。


「なんで嬉しそうに言うんだよ」

「だって和人さんがそんなふうにヤキモチを焼くのって初めて見たもの」

「そうか?」

「ええ」


 そういえば楓坂って男嫌いだから、ヤキモチを焼く必要なんてなかったんだよな。

 確かにこれが初めてかもしれない。


「安心して。今の私が好きなのはあなただけよ」

「お……おう」

「で、和人さんは?」

「俺も……好きなのは舞だけだ」

「うふふ。よくできました」


 満足気に微笑んだ楓坂はショルダーバッグを肩に掛けた。


「じゃあ、行きましょう」

「ああ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、ショッピングは甘々にて!


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] なぜデニムジャケットをあえて、と思ったけれど、思い出の品だったのか。そのご老人は既出の人なのかな。 いや、ありえないとは言えないのよ。世の中ジジ専とかいるし。性的嗜好も多様性の時代だから。…
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