真犯人が語る事実
夜の展望台で、帽子を被ったやせた男・柿倉がジタバタをもがいていた。
だが、完全に関節を決めて組み伏したため、柿倉はまったく身動きが取れないでいた。
「ちくしょう!!」
「警察が来るまで、あと少しだ。観念してもらうぞ。柿倉」
ついさっき、柿倉は楓坂を襲おうとしていた。
その瞬間を取り押さえることができたし、証人もいる。
今さら言い逃れはできないだろう。
だが俺に抑えられている柿倉が叫んだ。
「ふざけんな! その女のせいで俺のキャリアに傷がついたんだ!! 黙っていられるか!!」
「楓坂とのことは一年前の話だろ。どうして今さら……」
すると柿倉は眉毛を歪めて言った。
「はぁ!? てめぇ、彼氏とか抜かしてなんもしらねぇのか!」
「……何のことだ?」
「その女は、財閥の御曹司と結婚することが決まってんだよ!!」
柿倉は楓坂の方を睨みつけてそう言った。
え? どういうことだ?
財閥の御曹司と結婚?
突然の事実に、俺は一瞬目の前が暗くなった。
俺はすでに楓坂のカレシだ。
最初は形から入ったが、俺達は付き合っている。
だが、その彼女に婚約者がいるだと?
いきなりそんなことを訊かされて、ショックを受けないはずがない。
柿倉は俺の驚きに構わず話を続けた。
「楓坂のせいで俺はみじめな人生を送っているのに、その女はいい思いばかりするなんて納得いくわけねぇだろ!!」
「ホームから突き落としたのは、それが理由か?」
「そうだよ! へっ! あのタイミングなら死ぬことはないと思って突き落としたんだ」
いちおう助かることを想定しての行為だったわけか。
だが、それで許されるようなことじゃない。
「まっ。どっちにしても犯罪は犯罪だ。後は警察でゆっくりするんだな」
こうして柿倉はパトカーに乗ってやってきた警察官に連れて行かれた。
◆
展望台からの帰り道。
俺達の口数は少なかった。
真犯人を捕らえて、もう心配することはない。
だが、柿倉が言った『御曹司との婚約』が重くのしかかっていたのだ。
「あー。まぁ、真犯人が捕まってよかったよな」
気を紛らわそうと言ってみたが、楓坂の反応はイマイチだった。
柿倉が婚約のことを暴露した時から、ずっと下を見ている。
どうやら俺には知られたくなかったことのようだ。
すると結衣花が俺の腕の裾を引っ張って、ひそひそ声で話し始める。
「あのね、お兄さん。実は楓坂さんの婚約の話だけど、私も知ってたの」
「……そうだったのか」
「でも楓坂さん。本当はその御曹司と結婚なんてしたくないんだよ」
たぶんこの結婚は政略結婚の意味合いがあるのだろう。
御曹司がどんなやつかは知らないが、自分以外の人間が選んだ相手とうまくやっていけるほど、楓坂は器用じゃない。
「私はお兄さんなら楓坂さんを助けてくれると思って、それでカップルYouTuberの話をしたりしたの」
以前結衣花は自分にも目的があって協力していると言っていた。
その答えがこれと言うわけか。
俺は知らないが、きっと楓坂は自分の悩みを結衣花だけには伝えていたのだろう。
じゃあ、俺がするべきことは決まっているじゃないか。
「安心しろ。俺がなんとかしてやるよ」
「なんとかって?」
「それは今から考える」
「……頼りになるのかどうか、微妙だなぁ」
呆れたようにため息を吐く結衣花。
この表情も見慣れてしまったな。
だが、それでも俺には自信があった。
根拠はない。
策も企みもない。
だけど、楓坂は俺のカノジョだ。
理屈なんてすっとばして守るのは当然のことだろ。
俺はおもいっきり口角を上げて、にぃっと笑ってみせた。
「でも今までなんとかなってきただろ? 次もうまく行くさ」
「うん、そうだね。お兄さんならできるよ」
俺が次にするべきことが決まった。
楓坂と御曹司の結婚を阻止すること!
自分のカノジョを他のやつに奪われてたまるか!!
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