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結衣花が考えていたこと


 通勤電車に乗っていると、いつもの女子高生が挨拶をしてきた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花」


 常に淡々とした口調で話す女子高生は、今日も平常運転のようだ。


「昨日の動画見たよ。頑張ったね」

「まぁな。大変だったんだぞ」

「うんうん、すごく伝わってたよ。普通はもう少しスマートにできると思うけど、不器用カップルだもんね」

「今、さりげなく楓坂の事も不器用って言ったように聞こえたけど」

「空耳じゃない?」


 昨日の動画……。つまり『楓坂が甘えるシチュエーション』のことだ。


 楓坂が緊張のあまりのぼせてしまったり、俺も頭がパニくって何もできなかったりと散々だったが、不思議なことに視聴者からの反応は良かった。


「そういえば今日はいつもみたいに『やれやれだよ。これだからお兄さんは……』とか言わないんだな」

「なにそれ? 私のものまね?」

「似てなかっただろ」

「全然」


 結衣花は特に気にする様子も見せず、ピシャリと否定した。……が、しばらくすると俺とは反対の方向に顔を隠す。


 そして、必死に笑いをこらえ始めた。


「く……。くく……」

「あのさ……。本人のいる前で、笑いをこらえるの、マジでやめてくれ」


 こういうのって、地味に恥ずかしいんだよな。

 とはいえ、あの表情をほとんど変えない結衣花を笑わせたんだ。

 俺ってお笑い芸人のセンスとかあるんじゃね?


 そんないつもの和やかな時間が流れている時だった。


 ふと……車両の向こう側に、見覚えのある男が見える。

 その帽子を見て、俺は目を見開いた。


「なっ!?」


 カーキ色の帽子を被った細身の男……。


 間違いない!

 アレは楓坂が線路に突き落とされた時に怪しい行動をしていた奴だ。


「あいつ、ノコノコ出てきやがって」


 俺はすぐに男を捕まえようとした。

 だが、結衣花は俺の腕を掴んで言う。


「待って」

「……結衣花?」

「ダメだよ。気づいてないフリをして」


 つまり泳がせろってことか?

 前から感じていたが、結衣花は何かを知っているみたいだ。

 もしかして、あの帽子男は知り合いなのか。


 男は車両に乗っている乗客をチェックするようなしぐさをしている。

 もしかしたら楓坂を探しているのかもしれない。

 結衣花の方も少し見たが、男に大きな変化はなかった。


 そしてしばらくすると、帽子男は電車を降りてしまう。


 緊張から解放された俺は、結衣花に訊ねた。


「どういうことだ? あの男のことを知ってたのか?」

「……うん。確証はなかったけど」


 結衣花は静かに語り出した。


「あの人はね。一年前まで美術部の顧問だった人で柿倉(かきくら)先生っていうの」

「美術部? 結衣花はCG部だろ?」

「うん。今はそうだけど、一年前まで美術部だったの」


 それから結衣花はざっくりと一年前にあった出来事を話してくれた。


 結衣花と楓坂は元々美術部員だったらしい。


 だが、柿倉(かきくら)という男が顧問になり、生徒たちに厳しい練習を強要した。


 次々と美術部員が辞めていく中、楓坂が先頭に立ってCG部を立ち上げて、美術部員たちを守ったそうだ。 


 そして柿倉はPTAからクレームが来て、学校を去ることになったという。


「……そんなことがあったのか」

「柿倉先生は楓坂さんのせいで、自分のキャリアに傷がついたと思っているから、今も怨んでいると思う。ほら見て」


 結衣花が見せてくれたのは、柿倉のTwitterだった。

 そこには昔の生徒の悪口が書かれている。

 名前こそ書いていないが、特長からして楓坂だろう。


「なるほど。どうやら柿倉がストーカーで間違いなさそうだな」

「でも証拠がないと警察に言えないし、下手に動いて警戒されると、しっぽを出してくれなくなるでしょ? だから泳がせてたの」


 さらに聞くと、柿倉は自分より強そうな人がいるとすぐに逃げるクセがあるそうだ。


 カップルYouTuberを提案したのも、俺が楓坂の傍にいる事をアピールすれば、あの男はちょっかいを出してこないと踏んでのことだったらしい。


 ここまで考えて行動していたなんて、たいした女子高生だ。

 さすが名軍師と自称するだけのことはある。


 だが……。


 俺は人差し指で結衣花の頭を『トンッ』と小突いた。


「あたっ。……なんなの?」

「こんな危険なことを一人でするのはどうかと思うぞ」

「……それは、ごめんだけど。確証がなかったから」


 こういう話はデリケートだ。

 結衣花の言う通り、証拠がないと警察は動いてくれないだろう。


 しかし……と俺は思う。


「確証なんていらないよ。俺は結衣花のことを信じてる。だから結衣花ももう少し、俺のことを頼ってくれ」

「……」

「どうした?」

「……お兄さんってさ、……んー。まぁいいや」

「え、なにその反応。すごく気になるんだが?」

「いいの。……ばーか」


 ……なんで俺、ばーかって言われたの?

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、音水ちゃんが暴走!?


投稿は、朝と夜の二回。7時15分頃です。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] おや、意外とあっさりストーカーが見つかった。 しかし、いくらなんでも線路に突き落としはなんというかあり得ない。単純に殺人未遂で、列車往来危険罪だから、もうそれだけて十分警察が動いてもいいはず…
[良い点] 色々な伏線が分かったのが良いです♪ [一言] 結衣花ちゃん、普段無愛想な笹宮さんがものまねとかすると可笑しかったんでしょうねw気持ち分かります。さりげなく楓坂さんをディスる結衣花ちゃん……
2021/05/27 09:35 退会済み
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