おまけの小話
久しぶりすぎるくらいの投稿です。キャラ変しているかもしれません・・・。
ここは晴天の騎士団詰め所の一角。明らかに騎士ではない一般の人々が集まっています。
今日は王族警護の騎士達が楽しみにしている週に一度の面会日で、私、リーディアも初めて参加しました。
久しぶりの再会にあちこちから嬉しそうな声が聞こえてきます。
が。私は慣れない状況に緊張してしまって、会いたくてたまらなかった婚約者の騎士ラインハルト様こと、レイを前にして固まっておりました。
昨夜ベッドに入ってから、頭の中で会話のシュミレーションもしたのに!いざ本人を前にするとどうしていいかわかりません。
こんなんじゃ駄目です!まずは、そう、まずは挨拶からです!
私はきりっとしてレイを見上げました。
「こんにちは。ええと、お久しぶりです?」
「7日ぶりだよ、リディ。会いにきてくれてありがとう。相変わらず可愛いね。」
そんな返しは私のシュミレーションにありませんでした!
練習の成果を発揮できずに撃沈です。とにかく、何か返事をしなくてはいけません!
「そっそんなことはないのです!レイこそ相変わらず格好良いです。」
「ありがとう。リディに言われると凄く嬉しいな。」
全勇気を振り絞って話す私に対して、余裕そうな笑みを浮かべて私の頭に手を置いた婚約者にほんの少し、むっとしました。
私に言われたらって言い方は、他の人にも言われてるってことですよね。
そりゃ、レイがいろんな女性から好意を寄せられていることは知っていますけど、それをわざわざ分かるように言わなくてもいいじゃないですか!
それに、初めての面会で緊張してるのは私だけのようです。なんだか負けたような気がして、私は持っていた籠を勢いよく彼の顔の前へ突き出しました。
「これ、どうぞ!」
面食らいつつもレイが籠を受け取り、中を覗きます。
「あ、パウンドケーキだ。美味しそうだね、一緒に食べよう。」
「いいえ。私は上手くできているか不安で、たくさん味見しすぎてしまいましたので、それはレイの分です。・・・多分、美味しいと思います。」
食べ過ぎたことを話すのは恥ずかしいと思いながらも説明すれば、レイの驚いたような視線が私へ突き刺さりました。
「え?!もしかしてこれ、リディの手作り?!」
「そうですけど、そこまで驚かなくてもいいじゃないですか。私、こう見えてもお菓子作りは出来るんです。今まで家族にしか振る舞ったことはなかったんですけど、レイに会いに行くって言ったら、母が持っていけと強硬に言うものですから・・・。」
ぶすっとして反論したら、レイが慌てて詫びてきた。
「かわいいリディ、気を悪くしないで?君は大事にされているし伯爵令嬢だから、こういうことはしないと思ってたから驚いただけなんだ。」
「我が家は基本的に子供がやりたいことはさせる方針なのです。私はお菓子が好きなので出来たてを食べてみたくて始めたのですが、次兄なんて家を建てたいと言って庭の隅に小屋を建てていました。結局、雨漏りが酷くて住めなかったのですが、しばらく兄達と秘密基地にして遊んでました。」
懐かしい思い出を語る時は自然と口元が緩んでしまいます。レイもニコニコしながら聞いてくれました。
「ふうん、いい方針だね。僕達も子供が出来たらそうしようか。」
「ふわっ子供?!」
いきなりぶっ飛んだレイの発言に私の全身から湯気が出ます。顔なんてもう熱くて真っ赤になっているんじゃないでしょうか。
「もうっ!そんな先のこと言ってないで、早く食べてみてください!」
「そんなに先じゃないと思うけどね。じゃあ、早速頂くよ。・・・自分が面会の日に手作りのお菓子を差し入れしてもらえるなんて、想像したことなかったな。」
その場で立ったまま、ホクホク顔でひと切れ摘んで口に入れたレイを私はジッと見つめます。
美味しいって言ってもらえるでしょうか?
昨日一日、満足がいく出来になるまで作り続けて最後はどれが一番美味しいか、全て味見をしたのです。
ケーキを飲み込んだレイの口が動きました。
「うん、僕が食べた中で一番美味しいお菓子だ。」
「よかったです!私のオススメはこのチョコと紅茶のマーブルです!チョコに合う紅茶を探すのに苦労しました。是非、食べてみてください。」
「リディもこれ好きなの?」
「はい!一番好きな味です。」
「そうなんだ。じゃあ、ハイ、口開けて。」
その台詞と共に口の中にケーキが!
私は反射でもぐもぐしてしまいました。
うーん、やっぱりこの味は美味しいです。勝手に顔が幸せで笑ってしまいます。
くっくっという笑い声で我に返ってレイを見上げれば、彼は優しい眼差しでこちらを見ていました。そして彼も残りの半分を食べて藍色の目を緩ませました。
「ああ、本当だ。これは美味しいね。それにリディと半分こしたから、より美味しいな。」
「はわわっ!レイが、そんなことばっかり言うから、私の脳が熱さで溶けてしまいます!」
「それは大変だ。」
レイの手が私の頬に伸びて来たその時。
「あー!リーディア嬢、ケーキご馳走様!美味しかったよー。また今度も期待してるな!」
レイの同僚のヴィートさんが、離れた通路から通りがかりに声を掛けてきました。
「ヴィートさん、食べてくれてありがとうございます!また作ってきますねー!」
私もパッと振り向いてヴィートさんに大きく手を振り返しました。
「・・・リーディア?もしかして、君の手作りパウンドケーキをヴィートにもやったの?」
「ハイ!皆さん喜んでくれました。」
「皆さん?!騎士団全員・・・?!」
レイの顔があからさまに落ち込みました。でも、あの会話のどこに落ち込む要素があったのか、私にはわかりません。なので彼の言ったことを頭の中で反芻してみました。
・・・ん?もしかして、騎士団の皆さんと同じなのがダメだったのでしょうか?!
「レイ?皆さんと同じは嫌でしたか?!ですが、初めて好きな人にあげるので、たくさん、たくさん、練習してしまって。我が家だけでは消費しきれない量になってしまったので、父が『せっかくだから騎士達に持って行ってあげなさい。』と。」
よかった、今度はレイの顔がパッと輝きました。
「初めての、好きな人かぁ。嬉しすぎる言葉だな・・・。リディ、僕の為にそんなに練習してくれたの?」
「ハイ!百本以上焼きました。甘い物が苦手なエリク兄様が屋敷から逃げ出しました。」
「百本以上?!・・・それは、確かにここに持ってくるしかないか。」
「ハイ、皆さんあっという間に食べてくれて助かりました。」
そこで私はレイの服をそっと引っ張って彼の耳に口を寄せました。
「あのですね、レイの分は美味しく出来た物を私が選んだんです。特別美味しく出来た物ですよ。」
途端、視界が暗くなり私はレイに抱きしめられていました。
「リディ、僕の為にケーキを焼いて選んでくれて、本当にありがとう!愛してる!」
「うわえあわ!」
とっさのことに混乱した私の口から出たのはそんな意味不明の言葉だけでした。
いえ、抱きしめられたのが嫌だったわけではなく、その、もの凄く驚いてしまっただけなのですが・・・大人の女性のようにさらりと『私も愛してる』と返せなくてお恥ずかしいです。
早くちゃんとした言葉を返さないと、と彼の腕の中で焦っていたのですが。
「うん、本当に美味しいな。特別美味しいというのは伊達じゃないな。リーディア嬢は自信を持っていいぞ。」
すぐ横から聞こえたその台詞に、レイと二人でそちらへ首を向けました。
そこには眩い美貌のルカーシュ王子殿下がケーキを齧りながら立っていました。
「ルカーシュ殿下、それは僕のパウンドケーキですよ。王子ともあろう人が何をしているのですか!」
「よお、レイ。そんなに怖い顔するなよ。こんなにたくさんあるんだから一つくらいいいだろ。」
「駄目です!僕の婚約者が僕の為に作ってくれたケーキなんですよ?何で貴方にあげなきゃいけないんですか!」
「ケチだなあ。リーディア嬢、次は私の分もよろしく頼む。甘さ控えめでな。」
「あっ!どさくさに紛れて何を言っているのです!リディ、殿下の希望は聞かなくていいから!」
「ええっと、では甘いお菓子を皆さんの分もたくさん作ってきますね?」
「なるほど、そうきたか。」
「・・・リディ、そうじゃない。」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




