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9.街へおでかけ4

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誤字報告いただき、ありがとうございました。該当部分訂正しました。気をつけます。


「じゃ、次はあの店に行こう。」


 指し示された場所を見て、私は再度、彼の顔を見上げました。

 あそこは、宝飾品を扱う、かなり高級なお店ですよ?今日の予定にありませんでしたよね?


「あのお店、ですか?何を買うのです?大体、こんな格好で入店してもいいのでしょうか。」

「うん?格好なんて関係ないでしょ。買うものは、まあ、行ってからのお楽しみで。」



 からん、と静かな店内にドアベルが鳴って従業員さん達の視線がこちらに向けられます。


 ドアのそばにいた人が笑顔でやって来て、空いているテーブルに案内してくれました。ここは、個別にテーブルでやりとりする形式なのですね。


 私のアクセサリー類は、母が宝飾品の輸出入も扱っている関係上、業者がまとめて家に持ってくるので、実は店舗に来るのは初めてです。


 周りをそっと見回すと、私達以外の客もそれぞれのテーブルで、ビロード張りの箱に入ったものを眺めたり、手にとって見ています。


 なるほど、希望にあったものをテーブルまで持ってきてくれるのですね。


 座って待っていると、先程案内してくれた従業員さんとは別のきれいな女性の従業員さんがやってきました。


「ヴィリデ様、いらっしゃいませ。こちらが婚約者のお嬢様ですか?初めまして、私、ヴィリデ様を担当させていただいております。以後、よろしくお願い致します。」


「こんにちは。そう、彼女が僕の婚約者。」

「リーディア・エーデルと申します。本日はよろしくお願い致します。」


 こんなに美人な従業員さんが担当とは知りませんでしたよ。・・・婚約者と紹介されましたし、気にはしませんが。ええ、気にしてませんよ。


 従業員さんとレイはそのまま話しています。


「先日手を入れさせていただきました、腕時計の調子はいかがですか?」

「うん、問題ないよ。ありがとう。」


 どうやらレイは腕時計のことで、このお店に来たことがあるようです。腕時計に何をしたのかしら?


 私が腕時計を見ようと首を傾けると、気がついた彼がそれを外して、よく見えるようにテーブルの上に置いてくれました。

 お礼を言ってじっくり眺めさせてもらいます。その間に彼は彼女に何か頼んでいます。

 二人がお似合いに見えてしまうのは、私の僻みでしょうか。


 私はそっと腕時計を掌に乗せて顔の前に近づけます。ベルト部分は前に見たときと同じ、黒に近い青です。文字盤は・・・おや?


「これはルビーですか?」


 ちょうど三時の部分に紅いルビーが嵌め込まれれています。

 前からあったかしら?と、ルビーとにらめっこしていると、

「それ、こないだ入れたんだ。リディの瞳の色によく似てるでしょ?いつでも君の色をつけていられるようにね。」


 私の色を着けてくれていました!それも毎日。そのことが嬉しくて顔が熱くなっていきます。

 さっきまでの僻みが何処かへ飛んでいきました。私もかなり現金ですよね。

 彼が私の頭のリボンにそっと触れながら、何か悪いことを白状するような口調で、ささやきました。


「リディが今日、服とリボンに僕の色を取り入れてくれてるのを見て、嬉しかった。」

「気がついていたのですか?!」

「会ってすぐに気がついたんだけど、嬉しすぎてどう反応したらいいか迷って、言い出しそびれて・・・。せっかくの好意を無視してごめんね。」

「いえ、今言ってくれたので十分です。」


 いつも着けている腕時計に紅い石を入れてくれただけでも嬉しかったのに、あのわかりにくい、ささやかな刺繍に気がついていてくれたなんて、私は幸せ者です。

 しみじみと幸福を噛み締めていたら、いつの間にか奥へ行っていた従業員さんが、周りと同じようなビロードの箱を持ってきて、私の前に置きました。


「こちらにヴィリデ様のご希望に近い物をいくつか見繕って参りました。リーディア様、お気に召すものはございますでしょうか?」


 赤いビロードの上には金地のブレスレットが五つ、並べられています。デザインは様々ですが、全てにレイの瞳のようなサファイアがあしらってあります。これを私に?


 隣から覗き込んできた彼を見上げると、赤い顔を半分、大きな手で覆いながら、

「嫌でなければ、カラスに持って行かれたブレスレットの代わりを、プレゼントさせてもらいたいのだけど。サファイアばかりなのは僕の我儘だから、もちろん他の石でもいいよ。」

と早口で言って、反対方向を向いてしまいました。

 あの間抜けな私の話を聞いて、こんなサプライズをしてくれるなんて、本当に彼は、私には勿体ない人なのではないでしょうか?!

 喜びのあまり言葉が出ない私を心配して、従業員さんと彼が、同時に、声を掛けてきました。


「お気に召しませんでしたか?」

「リディ、やっぱりいらない?」


 私は慌てて首を横に振って二人に謝りました。


「ごめんなさい、嬉しすぎて声が出ませんでした。私も貴方の色を毎日着けていたいです。本当にプレゼントしていただいていいのですか?」


 彼はほっとしたようにこちらを向いて微笑むと、もちろん、と頷いてくれました。

 となると、後は私が選ぶだけですが、それはすぐに決まりました。最初に見てすぐにかわいいな、と思ったデザインがあったのです。


「ええと、これがいいのですが、どうでしょう、レイ。」


 私が選んだのは、蔓草を模したものにエメラルドの葉とサファイアとダイヤを使った花を一つあしらったものです。


「うん、君に似合いそうだね。試しに着けてみて?」


 従業員さんにも是非に、と勧められて、腕に着けてみます。腕をちょっと持ち上げて動かすと、石の部分がきらきらして、素敵です。


「でも、このデザインだと可愛すぎて、歳を重ねたら似合わないのではないでしょうか?」


 ふと思いついてそう尋ねると、レイが意表をつかれた顔でこちらを見てきました。何か変なこと言いましたかね?


 やはりここは専門家の意見を聞こうと、従業員さんの方を見て、確認しました。


「どうなんでしょう?もっとシンプルなデザインの物にした方が一生使えますよね?」


 彼女はにっこり笑って、

「そんなことはありません、今つけておられるものも控えめなデザインですので、いくつになってもお使いになれますよ。他のデザインにされるのもいいですが、お気に召されたものを着けていただくのが良いと思います。」


「そうですか?じゃあ、これにします。レイ、いいですか?」


 彼の方を振り向くと、思いもよらないことが起きた、という顔でこちらを見ていた。


「一生、それを着けてくれるつもりなの?」


 彼の台詞に、今度は私が彼と同じ表情を浮かべます。

 逆に、これを一生着けなくてどうしろというのでしょう?


「もちろんです。」


 にっこり笑って返事をすると、何故かレイが物凄く我慢をしているような、何かに耐えているような、複雑な表情で拳を握りしめていました。

 横にいた従業員さんは、吹き出すのを必死に抑え込んでいるようです。私だけがわからない・・・。


 レイは直ぐに、いつもの穏やかな表情に戻っていましたが。


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