◆◇◆カーテンの隙間(サスペンスホラー)◆◇◆
真夜中、強い風の音に目が覚めた。
時計を見ると時間はまだ午前零時半。
布団に包まって、まだ30分しか経っていない。
暗い部屋の中で、キチンと閉めたはずのカーテンが少し捲れて街の灯りが漏れていた。
「チャンと閉めたはずなのに、風で捲れたのかな……」
小さく独りで呟いて気が付く。
今はもう10月下旬、窓を開け放して寝る訳が無いし、まだできて左程立っていないアパートの窓はサッシで出来ていて気密性が高いはず。いくら風が強いと言っても、そうそう捲れるはずはない。
それでも眠たいのと、暖かい布団から出るのが嫌で、捲れたカーテンはそのままにしていた。
そして、いつの間にか寝てしまった。
風が窓を叩く音で、また目が覚めた。
枕もとの目覚まし時計を見ると、時間はまだ午前一時。
なんて夜なのだろう。キチンと寝かせて欲しい。
私を起こした窓を睨み付ける。
また少し捲れたままになっているカーテンの隙間が気になった。
隙間から見える東京の、街灯りは眠らない。
ふと、あるところだけが暗くなっていることに気付く。
“あれ、なんだろう?”
よくよく見ると、そこだけが暗いのではなくて、そこだけに街の灯りが写っていない事に気が付いた。そして、そこだけ黒い色ではない事も。
“なんでだろう?”
首を折り曲げて、頭を枕から離して注意深く見ていた。
何故だか心臓の鼓動がドキドキと早鐘を打ち鳴らし、耳に響く。
突然冷たい刃が心臓を突き刺すように心が凍り付き、私はベッドの上で跳ねるように上体を起こし、その上で窓から距離を取るように壁に体を押し付けた。
街の灯りがそこだけ見えないのは、その部分に人の顔があったから。
そして、その目が窓の外から私を捉えていた。
カーテンの隙間から少しだけ見える眼差しは、いつまでも無表情のまま私を捉えて離れようとしない。
窓に近付きカーテンを閉めると、私の手を外から掴み引き込もうとするかも知れない。
鍵は掛けているから、そんなことできるはずも無いのに、何故かそうなるように思える。
かと言って、このままだとその視線に射つくされ殺されてしまうかも……。
私は残されたありったけの勇気を振り絞って、部屋から出てバスルームに逃げ込んだ。
“ここなら大丈夫、朝になれば……”
まだシャワーのあとの暖かさが微かに残るバスルーム。
その暖かさにホッとするのもつかの間、換気扇から風が逆流してきて、心のよりどころであった温かさを瞬く間に奪って行く。そして外からカタカタと換気扇の外側を風が叩く。
慌てて飛び出した台所でも、それは容赦なく襲ってきた。
今度は台所の換気扇。
それに、入り口のドアの新聞入れ。
逃げ場を失った私は、部屋とバスルームの間にあるトイレに駆け込んで鍵を閉めた。
“ここなら……”
換気扇は回さない。
もし回してしまうと気付かれてしまいそうだから。
換気扇からは微かに冷たい空気が入って来るものの、それは微かなもの。
便座に腰掛けてブルブルと震える私。
その間も外の風の音は、容赦なくこの部屋の周りを探るように吹きすさぶ。
ここにひっそりと隠れている以上、大丈夫そうな気がしたが、携帯を持ってくればよかった。
窓のないトイレの中では時間が分からない。
扉を開けて外に出て携帯をとってこようと思ってやめた。
今頃、あの目の持ち主は部屋に入って私が鍵を開けてここから出てくるのを待ち受けているかも知れない。
もう動くほどの勇気は出てこなかった。
いつになったら朝が来るのか。
いつになったら、あの目の持ち主が私を解放してくれるのか。
暗いトイレの中で、私は誰かが“もう安全だよ”と言ってドアを開けてくれるまで。もう動けないだろう。