◆◇◆救世主(コメディー)◆◇◆
午前6時、目覚ましが鳴る。
うるさい。
ようやく暖かい布団の中から手を出すと、その寒さに起きてしまいそうになる。
凍える手で、目覚まし時計を探すためユラユラと手を動かせていたら、何かに当たる。
当たった瞬間、それがベッドから転がりカーペットに落ちた。
“ゴトン”
目覚ましの音が位置を変え、のたうち回るように鳴り続ける。
もうベッドから伸ばした手は届かない。
出した手からはドンドン熱エネルギーが放出され、この凍てついた空間に奪い取られて行く。
私の体にはコンセントも付いていなければ、石油タンクも備わっていない。
だから、放出されたエネルギーを補うことは出来ない。
このまま無駄にエネルギーを奪い取られることは、つまり死を意味するということ。
既に指先の感覚がおかしい。
凍傷による“壊死”が始まっているに違いないのだ。
私は出した手を布団の中に引っ込めて、脇に挟む。
なり続ける目覚まし時計は屹度誰かが止めてくれる。
さもなければ、電池が無くなる事を待つ。
遠くなる意識の向こうから、階段を登ってくる音が、近づいて来る。
扉が開き、あの煩い目覚まし時計の音が止り、カーテンが開けられ日の光が差し込むのがわかる。
“救世主”
そう思った次の瞬間、布団が剥がされ朝日に照らされた聖母マリアが言った。
「メシや!」と。
剥がされた布団は、まるで魂が抜けて行くように冷たくなり、無残にも一夜の役目を終えた。