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リア充ってもしかして死語?

「ハァッ……ハァ……ハァ……」

鼓動が大きくなり、吐く息が深くなると共に、君のことが大きく、そして深く好きになっていく…

加速する僕の気持ちと反比例して走るペースは落ちていく。

「そういえば人が全力疾走できる限界はたったの40mだったな……」

今更ながらに後悔しても手遅れである。

『落 花 流 水』

春の終わりも近づき、照りつける太陽の日差しが背中に降り注ぐ。

これ程の気温ならば濡れた服は容易に乾くはずなのだが、断続的に吹き出す汗が服の乾燥を妨げている。

もはや汗を拭うという行為でさえ億劫だ……

 まつ毛はその機能を停止し、今や、前だけを見つめる僕の瞳はウサギのように真っ赤に充血している。

未だかつてこんなに一生懸命になったことなんてなかった……

何かに必死になることが怖かった…

まったく、なにこんなに必死になってんだよ。

――君との距離はあとどれくらいだろうか?

――まだ間に合うのだろうか……

走りはじめた頃に色々と考えていたことは頭から消え去り、思考はクリアになっていく。

空っぽの頭でも右の腕を振ると、左の足が前にでる。

空っぽの頭でも「君を好きだ」ということは認識できる。

……いや、認識できているというよりも、空っぽになった僕の思考の上に君への想いが積もっていくと言ったほうが近いのかもしれない。

君が好きだ。きみがすきだ。キミガスキダ。 様々な「好き」が積もっていく。

あの日見た山桜の花弁ように真っ白なぼくの思いはしんしんと降り積もる……

――周りの人はどう思うのだろうか? 

――こうしたらみんなはどんな反応をするのだろうか? 

そんな周りの顔色を伺うことで都会のようにごちゃごちゃしていた僕の思考は、積りに積もった想いで辺り一面キミ景色。


……一体どのくらい走ったのだろうか? 

無心になって走ると、ようやく二人の思い出の場所が見えてくる……

息を切らし急勾配の坂道を登り切ると、明かりの消えた校舎がおれの前に現れた。

「本当によかったよ。 同じ大学に入って…… あいつの存在がどれほどおれにとって大きなものだったか、ようやくわかったから……」

沢山の思い出が詰まった学び舎に入り、廊下を直進する。

残された力を振り絞り、錆びかけた非常扉を開けると、そこには空高く伸びる階段がそびえ立っていた。

――この階段を登れば初恋の相手に会える。

心は「前へ、前へ」と急かすが、乳酸の溜まった足が着いてこない。

はやる気持ちと共に階段を駆け登ろうと膝を曲げるが、足が上がらない。

「オレの人生は何時も躓いてばっかりだった……色々なことを諦めてきた。一度も何かに真剣になることはできなかった……でも、それは自分が全力を出していないことを言い訳にして逃げ道を残しておきたかっただけで……自分の限界を認めたくなっただけで……いつも自分の弱さから逃げていた……」

階段を一歩ずつ。だが、着実に登っていく――。

「――何時も全力なお前が羨ましかった。何時も支えてくれたお前が好きなんだッ! ようやく……ようやく。わかったというのに…… なんでお前はそんな逃げるような答えを出したんだよ……」

……上へ。上へと。一歩ずつ。

積み上げてきた思い出と共に、上を目指す。


「悪いけど今回だけはゼッテー諦めないし。逃げたくねぇんだよッ!」

「今更こんな障害に躓いてられるかよッ!」 

 言う事を聞かない自分の体にムチを打ち、階段を踏みしめていく……

「待ってろッ! もう自分の気持ちから逃げないッ! お前も絶対逃がさないからなッ!」

力一杯思いのたけを叫ぶと、所々サビのある階段を強く、強く蹴った。

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