迷子の女の子
「ついたねー」メイが言った。メイは、僕たちの前を歩いていった。
僕たちは、森を抜けて、街へ着いた。まだ、日が出ている時間帯のようだった。
街に入ると、色とりどりな石畳や、古びた煉瓦の塀が見えた。人々の話し声も聞こえた。森のような場所に長くいると、人々の話し声が聞けるだけで、少し嬉しく思える。僕たちは、宿屋を探して歩いていく。
「ここはいい街だね。いい曲が書けそうだ」レイが言った。
「そう言って、いつも書かないじゃないか」と、僕が言うと、
「今日は調子がいいんだ」と答えた。
本当かなあ。レイが「いい曲が書けそうだ」と言って、実際に曲を書いたことは今までになかった。「書けそう」と「実際に書く」は、違うことだ。
僕たちがメイのところまで追いつくと、メイは、小さな女の子と話をしていた。
「ねえ、ケイ、レイさん。この子迷子みたいなの。一緒に親を探してあげましょう?」
「迷子なの?」レイが聞く。
「迷子なの」女の子は答えた。
「レイさん。この子、あっちから来たんだって」
「じゃあ、あっちへ行ってみようか」
それから、僕たちは、女の子の後ろを歩いて行った。女の子が「こっち」と、歩いて行き、「あっちよ」と、進む方向を変えれば、その後へ続く。進む方向を最初から決めていたかのように、進む。この子は、本当は迷子じゃないんだろうな、と思った。お姫様の家来のように、僕たちは、女の子の後をついて行く。
途中で、女の子は、菓子屋の大きいキャンディーを指差した。
「これが欲しいの?」
「うん。このお店のキャンディーは、長い間楽しめるのよ」
「キャンディーを買ったら、親が見つかるのかい?」僕がそう言うと、女の子は僕を睨んだ。
「ケイは、もう少し、子どもに優しくした方がいいんじゃない?」メイが言う。
「僕は子どもが好きじゃない」
「あなただって子どもじゃない! このおねーさんみたいな人が、大人よ」女の子は、レイを指差して言った。
「僕は、男だよ。お嬢さん」レイがそう言うと、女の子は紅潮した。
「……どっちでもいいわ。次はこっちよ」
僕たちは、何回か、同じ道を通った。この子は、本当に迷子になってしまったのかもしれない。
日が暮れてくると、昼とはまた違った街に見える。人の声が減り、風は少し冷たいが、風は、美味しそうな匂いを運んでくれた。
女の子が、キャンディーを舐め終わった頃、僕たちはこの街で宿を見つけた。
「おかーさんだ!」と、
女の子は母親の元に駆け寄って行った。
「娘がお世話になりました」
「私がお世話してあげたんだよ! おねーちゃんたち、旅人なのよ。迷子だったから、私がお世話してあげたの。今夜のお客様よ!」
迷子だったのは、僕たちの方だったらしい。僕たちは、顔を見合わせた。
「旅人さんをあんまり困らせちゃだめよ」
「いいじゃんかー! 私、お客様を連れてきたのよ!」
「お客様?」メイが尋ねる。
「私の家は宿屋なの。 今夜は私とパーティーしましょう? 最近、お客様が男の人ばっかりで退屈だったもの! さあ! 中に入って!」
僕たちは、言われるままに、宿に入った。
キャンディーの様な、甘そうな太陽が、地平線に溶けていった。