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なろう公式企画

雪の兵隊

作者: 烏屋マイニ

 世界のどこか、とても遠いところのある国に、一本の高い塔がありました。それは、みんなから季節の塔と呼ばれていて、てっぺんには春と夏と秋と冬の女王さまが、順番に住むきまりになっています。そうすることで世界には、春と夏と秋と冬の季節が順ぐりにやって来るのです。

 季節の塔に冬の女王さまがいる間、塔の入口には雪の兵隊が見張りに立ちます。真っ白い雪でできた彼はツララの槍を手に、ぴんと背筋を伸ばし、たった一人で悪者から、塔と女王さまを守るのです。それはもう、冬の度に何百回も繰り返してきた事ですが、実を言えば今まで一度も、彼の前に悪者が現れたためしはありません。だから雪の兵隊は、ひょっとすると自分は、要らないものかも知れないと考えていました。それに冬の女王さまは、春と夏と秋の間に住む氷のお城から、季節の塔へ向かう時も、雪の兵隊には一度だって付いて来いとは言いませんでしたし、塔に出入りする時でさえ、彼にはちらりとも目をくれないのです。たぶん冬の女王さまにとって、雪の兵隊はいてもいなくても良いものなのでしょう。

 でも、雪の兵隊はへっちゃらでした。もし彼が、冬の女王さまにいてほしいと思われることがあるとすれば、それは悪者が塔へやって来た時です。雪の兵隊にとって一番大切なのは、冬の女王さまが危ない目に遭わないことですから、女王さまにいてもいなくても良いと思われていることが、たぶん一番良いことなのです。それに、毎年冬の終わり、季節の入れ替わりのために塔へやってくる春の女王さまは、冬の女王さまと違って、必ず彼に優しく声を掛けてくれます。

「今年も冬を守ってくれてありがとう」

 にっこり笑顔で言う春の女王さまの、小鳥のように可愛らしい声を聞くと、雪の兵隊は、雪でできた体が融けるほど、胸の中があたたかくなりました。それは雪の兵隊にとって、とても嬉しいことなので、彼はその嬉しさをくれた春の女王さまに、彼ができる一番素晴らしい敬礼を黙って送ります。ツララの槍しか持たない雪の兵隊に、お礼としてあげられるものは、それだけだったからです。ただ、どう言うわけか、その時の冬の女王さまは必ず嫌な顔をして、いつもは気にも留めない雪の兵隊に、早く行きましょうと言って帰りを急かします。雪の兵隊は、冬の女王さまが何に腹を立てているのか、さっぱりわからなかったので、きっと女王さまは、本当のところ季節の塔を明け渡したくないのだろうと考えることにしました。

 実を言えば、それは雪の兵隊も同じ気持ちだったからです。季節が変われば見張りの兵隊も変ります。季節の塔に春の女王さまがいる間、塔の入口を守るのは花の兵隊の役目。でも、優しい春の女王さまが住む塔を守ってあげられたら、どんなに素晴らしいことかと、雪の兵隊は考えずにいられません。もちろん、彼は雪なので、あたたかい春の日差しの下に立っていれば、何日もせずに融けてなくなってしまうでしょう。そうなっては、もう冬の女王さまを守ってあげることもできなくなります。だから雪の兵隊は、完ぺきな敬礼を花の兵隊と送り合って、見張りの役目を黙って彼に譲るのでした。

 そうして、また何度目かの冬の終わりを迎えたある日、春の女王さまに素晴らしい敬礼を送る雪の兵隊を見て、冬の女王さまは言いました。

「あなたは冬よりも、春が好きなようですね」

 冬の女王さまの赤い目は、燃えるようにぎらぎら輝いています。どうやら、ひどく腹を立てている様子でした。

「もう、あなたはいりません」

 冬の女王さまの真っ白い髪が、突然吹き始めた風に巻かれ、ばさばさと踊りました。そして女王さまは、春の女王さまに言いました。

「その兵隊と、私の城をあなたにあげます。代わりに私は、この塔をもらいましょう。そうして、あなたが私の兵隊を、あなたのその温かい言葉で融かす代わりに、世界を凍らせるのです」

 びゅうびゅう吹きつける雪まじりの風が、雪の兵隊と春の女王さまを囲んでぐるぐると渦を巻きはじめました。

「さようなら、雪の兵隊。さようなら、春の女王」

 冬の女王さまは怒った顔のまま、真っ赤な目からぽろぽろと涙を流しました。雪の兵隊は、女王さまがどうして泣いているのかわかりません。でも、その涙を見て、彼の胸はずきりと痛みました。まるで、百本のツララが刺さったような、痛みと冷たさです。

「さあ、行っておしまいなさい!」

 冬の女王さまはそう言って、さっと手を振りました。雪の兵隊と春の女王さまは、風に巻かれて空高く舞い上がり、雪雲が垂れ込める北の空へと飛んで行きました。


 遠く遠く空を飛び続け、風はようやく雪の兵隊と春の女王さまを、地面に降ろしました。そこは冬の女王さまが、春と夏と秋の間に住む氷のお城の庭園です。何もかもが凍りついたそこに、生き物の姿はありません。バラの生垣も、芝生も、木立も、みんな氷でできているのです。しんと静まり返ったその様子を見て、春の女王さまがいいました。

「なんてきれいで、寂しいところなのかしら」

 雪の兵隊は、まったくその通りだと思いました。でも、彼は不思議でなりません。冬の女王さまと一緒にいたときは、寂しいなどと思ったことは一度もなかったからです。

「冬の女王は、こんな所に住んでいたのね」

 春の女王さまは、透き通った氷でできたお城を見上げて言いました。それから春の女王さまは、氷の扉へ向かって歩いて行きました。それは、お城の中へ通じる扉です。雪の兵隊は先回りして、春の女王さまのために扉を開けてあげました。

「あら、ありがとう」

 春の女王さまは嬉しそうに笑ってお礼を言いました。雪の兵隊は、少しだけびっくりしました。それと言うのも彼が同じことをしても、冬の女王さまは決してお礼など言わなかったからです。雪の兵隊はとても嬉しくなって、また少し雪の身体が融けました。

 二人は並んでお城の中を歩き回りました。お城の中には、たくさんの雪の人形がいて、みんなせわしなく働いています。でも、彼らは自分の仕事に一所懸命で、一言もしゃべりません。だから、お城の中は動くものの無い庭園と変わらず、やっぱり静かで寂しい場所でした。そして彼らは、春の女王さまが挨拶をしても知らんぷりしています。

「失礼な人たちね」

 雪の兵隊は首を振って、ぷりぷり怒る春の女王さまに教えてあげました。

「仕方がありません。みんな、心を持たないのです」

「どうして?」

 春の女王さまは、不思議そうに聞きました。

「心を持つと、あたたかい気持ちになることがあります。そうすると、私たち雪人形は融けて水になってしまうのです。だから彼らは融けてしまわないように、心を持ちません」

「でも、あなたには心があるように見えるわ」

 雪の兵隊はうなずきました。

「あなたは、融けてしまわないの?」

 雪の兵隊は首を振りました。

「冬の終わりに、あなたが言ってくれる『ありがとう』の言葉のせいで、私はいつも融けそうになっています。その度に冬の女王さまが、私を魔法で直してくれるのです」

 それを聞いた春の女王さまは、目を丸くしました。雪の兵隊がどうしたのかとたずねると、女王さまは答えました。

「冬の女王が、どうしてあんなに怒ったのか、わかったの」

「それは、なんでしょう?」

 でも、春の女王さまは首を振るばかりで、教えてくれません。

「今はだめよ。でも、冬の女王に会えたら、きっと教えてあげるわね。さあ、急いで季節の塔へ行きましょう」

 そして二人は、お城の広間へやって来ました。でも、外へ通じる玄関の扉の前には、ツララの槍を持った雪の兵隊が二人、通せんぼをしています。

「そこをどいてちょうだい」

 春の女王さまが言っても、心の無い兵隊たちは耳を貸しません。それどころか、槍を構えてじりじりと迫ってきます。雪の兵隊は春の女王さまをかばって、ツララの槍を構えました。そうして槍を一振りすると、心の無い兵隊たちをあっという間にばらばらにしてしまいました。

「あなたって、とても強いのね」

 春の女王さまは驚いて言いました。それから「ありがとう」と言い掛けて、慌てて口をふさぎました。雪の兵隊が不思議そうに見ていると、女王さまは言いました。

「私がありがとうと言えば、あなたは融けてしまうのでしょう?」

 雪の兵隊はうなずきました。

「それなら私はもう、ありがとうとは言わないわ。あなたが融けてしまうのは嫌だもの」

 でも、雪の兵隊は、また少し融けてしまいました。それは「ありがとう」の言葉のせいではなく、春の女王さまの優しい心遣いを、彼が嬉しく思ってしまったからです。雪の兵隊は黙って、お城の玄関の扉を開けました。春の女王さまは、「ありがとう」の言葉を飲み込んで、扉を通り抜けました。その顔付きが、冬の女王さまとそっくりだったので、雪の兵隊はびっくりして彼女の顔を、じっと見つめました。

「どうしたの?」

 春の女王さまは、不思議そうに雪の兵隊を見つめ返します。雪の兵隊はなんでもありませんと首を振り、女王さまと並んでお城の外へ出ました。

 お城の外は、ひどい吹雪でした。いつもは、氷の城から塔へ行くときは、冬の女王さまが呼ぶ北風に乗って飛んで行くのですが、春の女王さまが呼ぶ風は、吹雪にかき消されてしまうので、彼らは仕方なく厚く積もった雪の中を歩いて進みました。二人は何日も何日も歩き続け、ようやく季節の塔のそばまでたどり着きました。でも、そこでは何百人もの雪の兵隊を相手に、青草の兵隊と麦穂の兵隊が戦っていて、塔へ近付くことができません。二人が困っていると、そこへ王さまと、夏と秋の女王さまがやって来ました。

「春の女王よ、今までどこへ行っていたのだ」

 吹き付ける雪に、ヒゲを凍らせた王さまがたずねました。

「氷の城です、王さま。私たちは冬の女王を怒らせて、そこへ飛ばされてしまったのです。そうして、何日も歩き続けて、ようやく戻ってくることができました」

 春の女王さまが答えました。

「そうすると、冬の女王が塔にこもって出て来ないのは、お前たちのせいなのだな?」

「はい、王さま。だから、私たちは冬の女王に謝らなければならないのです」

 すると、王さまは悲しそうに首を振ります。

「それは無理だろう。私は冬の女王に、塔から出るよう話しをしに来たのだが、塔は雪の兵隊に守られていて、近付くこともできない。どうにかしようと夏の女王からは青草の兵隊を、秋の女王からは麦穂の兵隊を借りて戦っているが、この吹雪の中では雪の兵隊は誰よりも強く、他の兵隊たちではまったく歯が立たないのだ。このままでは、世界は終わらない冬のせいで、雪と氷に覆われてしまう」

 雪の兵隊は、困り果てている王さまと、三人の女王さまを見て、一歩前に進み出てから完ぺきな敬礼をして、こう言いました。

「王さま、そして女王さま。ご覧の通り、私も雪の兵隊です。私に青草と麦穂の兵隊を貸していただければ、きっと塔までたどり着いてご覧に入れましょう」

 驚いた王さまは、三人の女王さまと相談し、しまいにうなずいて言いました。

「わかった、雪の兵隊よ。お前に任せよう」

 雪の兵隊は王さまに敬礼し、さっそく青草と麦穂の兵隊を集めて命令しました。

「みんなは、春の女王さまを守りながらついて来てくれ」

 そうして雪の兵隊はツララの槍を構え、塔へ向かって歩き出しました。そうはさせまいと、心の無い雪の兵隊が次々と襲い掛かってきます。雪の兵隊はツララの槍を雷のような速さで突いたり、風車のように振り回したりして、心の無い兵隊たちをうち倒しながら突き進みました。その勇敢な戦いぶりに、王さまと、三人の女王さまは、目を丸くします。でも、心の無い兵隊は何百人もいました。だから、雪の兵隊が三人をやっつける間にも、別の四人が彼を槍で突くのです。それでも、雪の兵隊は突き進みました。真っ直ぐに塔の入口を見つめ、何度も槍につらぬかれながらも、決してひるまず歩き続けました。そうして塔の入口にたどり着いたときには、もう立っている心の無い兵隊は一人もいなくなっていました。雪の兵隊も、すっかりぼろぼろです。体は穴だらけで、片脚は折れてなくなり、ツララの槍も、元の半分ほどの長さしかありません。もう、春の女王さまのために扉を開けてあげることもできず、彼はばったりと塔の入口の前に倒れました。

 春の女王さまは自分で塔の扉を開け、冬の女王さまを呼ばわりました。

「早く来て。さもないと、彼が死んでしまうわ」

 しばらくすると、塔の長い階段の上の方から、こつこつと足音が響いてきて、冬の女王さまが姿を現しました。女王さまは、まだ怒った顔のまま、赤い目からぽろぽろと涙を流しています。

「お願い。あなたの魔法で、彼を治してあげて」

 春の女王さまは、冬の女王さまに頼み込みました。でも、冬の女王さまは悲しく首を振ります。

「もう、ここまで壊れてしまっては、私の魔法でも治すことはできません。どうして、こんなことをしたのですか? 彼は、あなたのことが好きなのですよ。彼は、あなたの優しい言葉にあたためられ、融けてしまうことを望んでいたのですよ」

 すると雪の兵隊は、力を振り絞って立ち上がり、冬の女王さまに向かって敬礼を送りました。脚が一本しかないので、折れたツララの槍を杖代わりにしての、ひどく不恰好な敬礼でしたが、それは彼が今できる精一杯の敬礼でした。そうして、彼はきっぱりと言いました。

「冬の女王さま。私の望みは、一つしかありません。ずっとあなたと一緒にいて、あなたをお守りすることです」

 冬の女王さまは目を丸くし、それから雪の兵隊を抱きしめ、おいおいと泣き出しました。そして、二人を見ていた春の女王さまは言いました。

「私は氷の城でわかったの。あそこに心のある者は、彼一人しかいなかったわ。だから、あなたは、彼をとても大切にしていたのね。それなのに私は、あなたの大切な人を、知らずに融かしてしまうところだった。本当にごめんなさい」

 雪の兵隊も言いました。

「私も、今わかりました。私はずっとあなたから、いてもいなくても良いものだと思われていると考えていました。でも、それは私があたたかい気持ちになって、融けてしまわないようにしてくれたからなのですね。あなたの優しい気持ちに気付かず、本当にもうしわけないと思っています」

 すると、冬の女王さまは首を振り、慌てて言いました。

「違います、違います!」

「もう、嘘はつかなくてもいいのです、冬の女王さま。私は氷の城で、ありがとうを我慢する春の女王さまの顔を見ました。それは、あなたとそっくり同じ顔でしたから、私にはもうわかっているのです。その証拠に、今の私の心はこんなにもあたたかい」

 そう言って、雪の兵隊はにっこりと笑いました。彼はぽたぽたと融け出し、もう片方の脚だけでは立っていられず、ばったりと地面に倒れ込みました。冬の女王さまは、倒れた兵隊のそばに座り、涙を流しながら、雪の兵隊が生まれて初めて見る優しい笑顔を浮かべて言いました。

「私の兵隊。今までずっと、私を守ってくれてありがとう」

 地面に倒れたまま、雪の兵隊は腕を上げ、冬の女王さまに敬礼を送りました。

「冬の女王さま、もう守ってあげられず、もうしわけありません。そして、今まで私を大切に思ってくれて、ありがとうございました」

 次いで彼は、春の女王さまにも敬礼を送りました。

「春の女王さま、私に大切なことを気付かせてくれて、ありがとうございました」

 そして雪の兵隊は、ありがとうと言う言葉が、もらうよりもあげるほうが、ずっとあたたかい気持ちになれるのだと気付き、嬉しくなりました。その素晴らしい発見を、誰にも教えられない事をちょっとだけ残念に思いながら、彼はすっかり融けて水になり、地面に吸われて消えてしまいました。そして、彼が融け去ったあとには、ハートの形をしたバラ色の水晶が、ぽつりと一つだけ残されました。

「冬の女王よ」

 いつの間にか春と冬の女王さまのそばには、王さまが立っていました。王さまの後ろには、夏と秋の女王さまもいます。王さまは、バラ色の水晶を地面から拾い上げ、言いました。

「彼に心を与えたのは、私なのだ」

 冬の女王さまと、春の女王さまはびっくりして王さまを見つめました。

「春に生まれた命は、夏に育てられ、秋に実り、冬には死んでしまう。女王たちのなかで、お前にばかり、そんな寂しい思いをさせるのがもうしわけなくて、私は一人の雪の兵隊に心を与え、ひとりぼっちのお前をなぐさめようと思ったのだ。しかし、それがお前を苦しめることになるとは思わなかった。本当に、すまなかった」

 冬の女王さまは、謝る王さまに首を振り、笑顔で言いました。

「私は誰かをなくす悲しみが恐ろしくて、私が作った雪人形たちに、ずっと心を与えずに来ました。でも、それは間違いだったようです。私は優しい彼のおかげで、どんなに悲しみが大きくても、その人との思い出はかけがえのないものだと知ることができました。王さま、彼に心をくれて、ありがとうございました」

 すると、不思議な事が起こりました。今までびゅうびゅう吹き付けていた吹雪がぴたりとやみ、代わりに大きな雪粒が、ふわふわと降って来たのです。それはなぜか綿毛のようにあたたかく、凍り付いていた王さまのヒゲも融かしてしまいました。

「まあ、不思議な雪」

 春の女王さまは、雪粒を手の平で受け止めて言いました。その雪粒は、女王さまの手で温められても、まったく融ける気配がありません。夏と秋の女王さまも、このあたたかい雪を手に取って、不思議そうに見つめています。

「冬の女王よ。この雪を集めて雪の兵隊を作るのだ」

 王さまは、何かを思い付いた様子で言いました。冬の女王さまは、王さまに言われた通りあたたかい雪を集めて、一人の雪の兵隊を作りました。そして王さまは、手に持ったバラ色の水晶を雪の兵隊の胸に入れました。すると、雪の兵隊が、ぱちりと瞬きをしました。

「これは、どうしたことでしょう?」

 雪の兵隊はびっくりして言いました。

「勇敢な雪の兵隊よ」

 王さまは笑顔で言いました。

「お前の優しい心が、冬の女王の心をあたため、彼女にこの不思議な雪を降らせたのだ。あたたかい雪で作られたお前はもう、決して融けることは無く、これからもずっと冬の女王を、守り続けることができるだろう」

 あたたかい雪の兵隊は、王さまに完ぺきな敬礼をしました。王さまは笑顔で、満足そうに彼の完ぺきな敬礼を受けました。そして雪の兵隊は冬の女王さまを見て、笑顔で言いました。

「私の望みをかなえてくれて、ありがとうございます」

 冬の女王さまは優しい笑顔でうなずき、雪の兵隊を抱きしめました。

「ありがとう、私の兵隊。これからもよろしくお願いします」

「はい、お任せください、女王さま」

 雪の兵隊は敬礼の代わりに、女王さまを優しく抱きしめました。それは、彼ができるどんな敬礼よりも完ぺきで、なによりも素晴らしい敬礼でした。


 こうして冬は終わり、世界にはまた、順ぐりに季節がやって来るようになりました。いつもの春と、いつもの夏と、いつもの秋。でも、あたたかい雪の兵隊が生まれたその日から、冬はちょっとだけ違う冬になり、しばしばあたたかい雪が降るようになりました。もし世界のどこか、とても遠いところのある国の、季節の塔へ行くことがあれば、そのわけがきっとわかるでしょう。あたたかい雪が降る日には、決まって塔の入口で、冬の女王さまと雪の兵隊の、楽しげな笑い声が聞こえるからです。

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