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罪人―つみびと―  作者: 指サック
第二章 従者
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第3話

 カイルがいれば、このような問題は解決できるかもしれない。

 しかしそれは姫自身が快く思わなかった。


 これは自分の問題であって、カイルに頼る事は逃げる事になる。


 カイルならば自分の頼みを、何でも聞いてくれる。

 そして、自分の幸せの為なら手段を選ばない。


 彼は過去にこう言った。


 (姫様以外の人間など不要です。私は姫様がいれば、それだけで幸せなのです)


 そうなのだ。

 カイルにとって姫以外の人間は、存在して存在していないようなものだった。


 それを一番理解しているのは、姫自身だった。



――――――



「貴様達は【罪】を犯した」


 少年は目の前の人間に対してそう告げ、右手をその人物に翳した。


「【罪】を償え」


 その右手に力が込められる直前。

 自分の首元に架けてある青いペンダントと同じ波長を、遥か遠くから感じ取ったのだ。



「姫様ッ!?」



 その反応を察知してからの少年の反応は速かった。

 少年は光の速度を超える速度で、その波長の元まで一瞬で辿り着いた。

 するとそこには、女子高生が4人集まっていた。



「姫様……このようなところに……」



 女子高生の頭上で見下ろしながら姫の存在を確認した少年は、心の底から湧き上がる喜びを味わっていた。


 いつぶりだろうか……。

 姫と再会するのは。


 少年は姫に声を掛けようとした。

 しかし、様子が変だった。



「ご、ごめん! 由依ちゃん! 許して!!」


「なぁ~にが、ごめんなのよ! このメスブタ!」


「キャッ!!」



 姫は由依に髪を強く掴まれ、痛がる姫を地面に叩きつけた。

 姫は恐怖で怯えてしまっており、地面に倒れた状態で激しく震え、立ち上がる勇気さえもなくなっていた。



「姫……様……?」



 信じられない。

 少年の頭の中は真っ白になっていた。


 己が忠誠を誓ったたった一人の姫が、人間ごときに穢されている。

 それが信じられなかった。




「姫様ァァァァァァァァッ!!」




 そして、少年の心からは再会の感動というものは消え去り、純粋な殺意しか芽生えなかった。


 少年の叫び声が由依達に届くより先に少年は移動し、姫と由依との間に現れる。

 そして遅れて聞こえた少年の声に反応した由依達は上を振り向こうとしたが、顔が向きを変えるより先に、少年はどこからか出した黒剣を逆袈裟に切り上げた。


 宙を舞う由依達の四肢。

 胴体が地面に落ち、鈍い音を奏でた後、由依達は自分達が何者かによって襲撃された事に気付く。



「イ、イヤァァァァァ!!」



 一瞬にして激痛が走る。

 意識が朦朧とする。

 吐き気がする。

 血の匂いがする。


 今までに体験した事のない状況下で、由依達は混乱していた。

 が、意識が遠くなっていく。


 死。


 由依達は白目を向き始め、次第にピクリとも動かなくなった。



「由依……ちゃん……?」


「姫様、もう大丈夫で――」


「由依ちゃん!!」



 後ろで黙ったままだった姫が由依の状態を確認すると、すぐさま由依の元まで駆けつけ、由依の容態に驚愕していた。


 先まで自分をいじめていたとはいえ、この有り様は酷すぎる。

 神様の裁きだとしても、ここまでする必要はないだろう。


 姫は涙を流し、由依の名を呼び続ける。



「由依ちゃん! 由依ちゃん! 由依ちゃんッ!!」


「姫様、その者達は次第に地獄に落ちましょう」



 後ろから聞こえた少年の声。

 姫は立ち上がり、少年の方へと歩み寄っていく。

 少年はいつの間にか右膝をついており、右手を左胸に当てた状態で固まっていた。



「あなたが……やったの……?」


「ハッ! 仰る通りでございます、姫様」



 その返事を聞いた直後。

 姫は少年の左頬を右手で叩いていた。


 姫に叩かれた。

 その事実は少年にとって、天変地異よりも凄まじい出来事であった。



「……して!」


「姫様……?」


「戻してよッ!!」


「姫……様……」


「由依ちゃん達を戻してよ……! 戻してよぉ……うっ、うぅっ……!」


「た、ただちにッ!!」



 姫の涙。

 それは少年の心を抉る何よりの武器であった。


 少年はその瞬間、自分の過ちを知り、倒れた3人を視界に捉えるだけで、3人の状態を元に戻した。

 切り落とされた四肢は何事もなかったかのように戻り、溢れ出ていた血も消えていた。



「あ、あれ……私……」



 元に戻った由依は何が起こったのか理解しておらず、不思議そうに紗良と光と顔を見合わす。



「由依ちゃん!」



 すると姫が由依に声を掛けた。

 反応して由依が姫の方向に顔を向ける。

 すると姫の後ろには黒衣を着た少年が右膝を着いて固まっていた。


 本能が告げる。


 逃げろ、と。



「「「キャアァァァァァ!!」」」



 大声を上げながら去って行った三人。

 取り残された姫と少年。


 少年は大量の冷や汗を流しながら、姫の言葉を待っていたのだった。

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