第2話
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「カイル……これはどう?」
「少し腐敗しています。別の物がいいでしょう」
「ん~とね、じゃあこれは?」
「はい、問題ありません」
「ありがと、カイル。じゃあこれにしよっと」
カイルと姫は近所のスーパーに到着して、目的だったタイムセールに間に合ったのだった。
そしてカイルと姫は、姫の父親の誕生日に肉じゃがを作る事に決めたのだった。
「え~と……あと何が必要なんだっけ?」
「姫様、肉がありません。肉がなければ肉じゃがとは呼べないかと……」
「あっ! ホントだ! これだと、じゃがじゃがになっちゃうね」
そう言って姫は満面の笑みを浮かべ、それを見たカイルもまた心から笑みを浮かべる。
「お肉よし、じゃがいもよし、玉ねぎよし」
スーパーからの帰り道、カイルと姫は横並びで帰路に着いていた。
買った食材の有無を声を出しながら確認する姫は、手に持っているビニール袋の中を覗いている。
隣で同じスピードで歩いているカイルは、姫を視界に捉えながら常に半径300mに結界を張り、姫に害を為す物に注意を払っている。
交差点。
差し掛かる直前。
食材の確認後、カイルは姫から荷物を受け取っており、その荷物が地に着かないよう配慮しながら、その場で片膝を着いた。
そしてカイルが頭を低くした直後、交差点の陰から姫の母親である麻宮 加奈が姿を現した。
「あ、ママ! おかえり。仕事は終わったの?」
「うん、さっき終わったところよ。それより姫? 肉じゃがは作れそう?」
「多分大丈夫だよ。カイルも一緒に手伝ってくれるから」
そう言って姫と加奈は片膝を着いたまま動かないカイルに視線を当てた。
その視線を感じた後、カイルは頭を下げたまま口を開いた。
「加奈様。本日もお仕事お疲れさまでした。手荷物は私めにお任せください」
「悪いわね、カイル君。じゃあお願いしていいかしら?」
「はいっ! 喜んで!」
カイルにとって姫とは、絶対的存在である。
例え万物の法則が崩れようと、この信念だけは揺るがない。
そしてその敬意は姫の両親にも向けられている。
それも当然の事。
忠誠を誓っている人物の生みの親なのだから、敬意を払って当然。
「パパ、お誕生日おめでとう!」
「鉄平様、お誕生日おめでとうございます!」
「はははっ、ありがとう二人とも。この肉じゃがも美味しいよ」
鉄平とは姫の父親の名。
帰宅後。
カイルと姫はすぐに調理に取り掛かり、手際良く肉じゃがを作り上げていく。
と、言っても、姫は料理がそれほど得意ではない。
むしろ不器用な方である。
しかしそこはカイルがフォローする事で全てが円滑に進む。
「ところでカイル君」
「はい。何でしょうか、鉄平様」
四人用のテーブルには鉄平と加奈、カイルと姫がそれぞれ隣同士で、向かい合う形で座っている。
鉄平は対角線上にいるカイルに声を掛け、カイルはその声に反応し、体ごと鉄平の方に向く。
「次……魔物達は、いつ出てきそうかな?」
魔物。
太陽光力によって異次元への扉が開かれた時、向こうの世界から現れた「それ」の事である。
人間達は後に魔物と称し、向こうの世界を魔界と名付けた。
「来週、出張で海外に行く事になってね……。少し心配だから聞きたかっただけなんだ」
「鉄平様。食事中に大変無礼なのは承知の上で、お願い申し上げます。少々お時間を頂いてよろしいでしょうか?」
「ん? あ、ああ……別に構わないが」
「では……」
そう言ってカイルは一瞬にして姿を消した。
と、思った矢先2秒後には元の席に着いていた。
「たった今、魔物を魔界から人間界に引きずり出し、約8万程の魔物を退治してきました。これで当分の間、奴らは畏怖し、人間界に姿を現す事はないでしょう」
カイル。
姫が名付けた、黒髪黒目のたった一人の魔界の住人。
守護者。
姫の下部。
それと同時に、最強の少年でもある。
鉄平の誕生日を祝った後。
姫の部屋。
カイルと姫は同じ部屋にいた。
ベッドに腰かけている姫。
正面で床に片膝を着いているカイル。
二人はトランプで遊んでいた。
「じゃあ次はページワンしよう?」
「はい、是非やりましょう!」
姫がトランプを手にカードをシャッフルし、それを丁寧に配る。
配られたカードを二人は確認し、ゲームが始まった。
「あ、もうこんな時間……」
時刻は午後10時を過ぎたところだった。
姫は明日の学校の用意を始め、カイルはその様子を見守っていた。
「えと、筆箱は入れて……教科書も入れて……」
「姫様、体操服がございませんよ」
「そうだった! ありがとう、カイル!」
カイルに教えられた姫はタンスから体操服を取り出し、学校の鞄の中へと入れる。
用意が完了し次第、カイルは立ち上がり窓を開け、振り返ると同時に又もや片膝を着いた。
「では姫様。私めはこれで」
「うん、おやすみ、カイル」
「おやすみなさいませ」
そう言ってカイルは窓から外に出て、麻宮家の屋根の上へと宙に浮きながら移動した。
それを確認した姫はカーテンを閉め、自分のベッドに潜り込んだ。
麻宮家の直上で宙に浮いて目を閉じるカイル。
姫の目覚めまでは基本的に毎日この姿勢のまま微動だにしない。
10月。
冷たい夜風が黒衣を靡かせる。
考える事は姫の幸せの事ばかり。
カイル。
魔界より来たりし、たった一人の最強の守護者。
この少年にとって出来ない事は、指で数える程にしかない。
夜明け。
目覚めの時。
姫が目を覚ましてカーテンを開け、日差しを一身に浴びた後に窓を開けると、いつの間にかカイルが姫の視界入る真下に存在しており、外で片膝を着いていた。
「おはよう、カイル」
「おはようございます、姫様」




