第八話・歴史の解説
断罪者。それは、三人が今しがた立っている大陸においては全ての国を揺るがす存在だった。
国といっても、宗教派のエアーか、無宗教派のセトラの二つしかないのだが。
エアーは、エノアラ神という女神を絶対なる唯一神と考え、自分達〈人間〉は彼女の最初の創造物だと思っている国だ。エアーの住民は全て人間で、怪物達の他、少しでも普通の人間と異なるところがある者には皆、虐殺、追放を行ってきたのだという。さらに恐ろしいことに、死や過ちに恐怖を抱く人々が団結して始めた宗教ので、エノアラが実在するか定かではないというのに彼女を心から信じていた。善人も、悪人も。
もう一方のセトラは、エアーから追い出だされた荒くれ者が多いうえ、大地が豊かとはとてもいえない状態だったため、絵に描いたような無法地帯だった。通り魔や裏取引はかろうじて無かったが、道端の殴り合いや、食べ物を求める争いは普通だった。
エアーは異形を憎み、セトラはエアーの豊かさを憎んだ。
その両国どちらの歴史にも記されている、革命者とも呼ばれる者。それが断罪者である。
いつ書かれたかも分からない歴史書によると、
「断罪者:彼の者、現われし時には金色の光を伴なう。白き国と黒き国、双方の力を受け継ぐ革命者は、過去に互いの犯した罪を浄化し、世の災いを消し去るだろう」と記されている。
解読不能な言葉もあるが、【白き国】はエアー、【黒き国】はセトラを指しているというのは誰でも知っている。【双方の力】と【互いの犯した罪】はまだ分かっていないが、革命者、という言葉は読んだ誰もが納得した。それほど両国の仲は悪かった。
そうして、互いの犯した罪を理解できぬまま今に至っている。