第七話・なかなか進まない会話
その日の夜は、無理矢理ソース姉弟を引きとめ、自分の家に泊まってくれるよう頼み込んだ。最初は首を横に振っていたオイサイリアだが、ラカの「知り合いにそっくり」発言に(かなり悩んだあげく)ついに折れた。
―マヤ・ノット・バー二階
ラカが風呂から上がってオイサイリアも入浴するように告げようと彼女の部屋の扉を叩こうとした時だった。中から二人の声が聞こえた。
「あ、来た来た」扉越しにイスターが声をあげた。
何故分かるのだろう、とラカが思うと同時にオイサイリアが自分を呼んだ。
「話したいことがあるので、中に入って来てください」
部屋に踏み入ると、二人が真剣な顔でこちらを見ている。ラカは緊張した。
「ラカさん、こいつ(イスター)は、昔から勘が強いんです」
オイサイリアが唐突に話し始めた。少し当惑しつつも、ラカは頷く。そうしながらも視線は壁にかかったアジサイの絵の辺りをさまよっていた。
「それで、イスターがきっと言っても平気だ、オレの勘が言ってるって、そう言ってきたので、二人で相談した結果ラカさんに協力者になってもらおうってことで一致したんです」
ラカは固くなりながら問う。
「何の、ですか?」
この話がどういう展開になるかなど、まったく予想もできない。皆あれこれ考えて、誰も何も言わなかった。
イスターが沈黙に耐えかねて口を開いた。
「姉貴ぃ、演説(?)は下手なんだからちょっとはオレにも喋らせてく―」
「黙れ」
どうやらソース姉弟において、常に強い立場にあるのはオイサイリアらしかった。
思わずラカは噴出した。口元に手を当てる。
「な、何ですか?」
今度は逆に姉弟が当惑した。
ラカはそれには答えられなかった。あのイスターが、姉の尻に敷かれてるところを見る日が来るなどと、誰が予想できただろう。と、笑いながら考える。かつて【魔王】とまで呼ばれ、この大陸の二つの国双方から畏怖され、暴風に例えられた青年が、こんな惨めな姿をさらそうとは、誰が―
(あ、そうか違うんだ)
思い出しても笑いは止まらなかった。それは半ば発作に近かった。いつも意地っ張りでプライドの高かった彼とそっくりな少年が易々と女に屈しているのだ。
約5分後。ようやく笑いがとまる。彼女の爆笑の理由は、事情を知っていた人でも恐らく理解できないはずだ。
「すいません。知り合いのことを思い出してしまって…」
顔を上げてみて見えたオイサイリアの頬には各一個ずつ、合計二個の怒りマークが浮かび上がっていた。
「えーと、なんでしたっけ」ラカは大慌てで切り出す。
黙りこんでいるオイサイリア。作り笑いをするイスター。非常に危ない状況だった。
しばし白けた後、イスターは自分がこの場を仕切り直さなくてはいけないことに気付いた。
「え、とつまりはですね。簡潔に言えば―」
女二人は確かに簡潔な話を望んでいたのだが…
「オレが断罪者ってことなんですよ」
彼の場合、簡潔すぎた。