第六話・身内登場
ラカの脳がイスターの言葉を解読するまで、数秒の間があった。
「え、い、今何て言った?」
彼の声が頭の中で何度も繰り返される。そして、同じことが目の前のイスターの口から聞こえた。
「あんた、誰?」
わずかなためらいの後、また言葉を紡ぐ。
「だいたい、初対面のあんたが何でオレの名前を知ってるんだい?それに、知ってるにしてもいきなり呼び捨ては普通ないでしょ。ソースさん、とかイスター・アルーディ・ソースさん、とかそうやって呼ぶもんじゃ―」
「ソース?」ラカはオウム返しに言った。
「ん?名字を知らなかったのかぃ?」
「イスター・アルーディ・カーミュラじゃないの?」
「誰だ、それ。オレはソースだぞ。人違いじゃないか―」
ドスッという鈍い音。振り向くと、短い金髪の美女が気絶したイスターを踏んでいた。イスターと同じ青い目で、彼を睨みつけながら。
「こんの…くそ馬鹿!!知らない人には敬語で話せと何度言ったら分かるんだ!!」
そして、唖然とするラカの方を向いて一言。
「すいません。この、馬鹿たれ・エロ・ウザ・間抜け・長髪おかま弟野郎の態度が悪くて」よくもいっぺんに話せるな。思わず感心してしまう自分に気付くラカだった。しかし、最後の方の一言が気になる。
「弟?」
「はい。長髪ですが女じゃありませんよ」
「あ、男だというのは知ってます。そうじゃなくて、あの…」言いにくい質問。美女の顔には明らかに怒りマークが浮かんでいた。
「の?」
後で知ったことだが、彼女が辛抱強く相手の話を聞くなど(しかも敬語で)何か裏があるときぐらいしかなかった。
「私の知り合いに同じ名のそっくりな人がいるんです。だから―」
「あらぁ、それは奇遇ですこと。でも私達は貴方なんて見たことありませんよ〜。あ、失礼しました。私はこの馬鹿の姉オイサイリア・ウィン・ソースと言います」
本人にとってはただの自己紹介なのだろうが、ラカにはものすごく重い言葉だった。
(おねぇさん…ほんとに…じゃあ、私の目の前にいるイスターは別人なの…?)