第三話・そして彼は旅立つ
気まずいわずかな沈黙の後、ラカの会いたかった、というストレートな一言が二人の間の話しにくさを消し去った。
そして、友人同士の過去話などを酒を飲みながら語り合った。しかしラカは、妙な違和感を感じていた。
「私のカクテル、上達したと思わない?」ラカは違和感を打ち消そうとするように言った。
「そうだな。カクテルは昔からお前の得意技だったよな?」
「うん。これからもっと上達するから、またここに寄ってよ」
イスターが悲しげな微笑を浮かべ、ラカは違和感の正体を知った。動揺して、目が丸くなる。
物憂げな微笑など、イスターは一度も見せたことが無かったからだ。
「な…その顔は何!ちゃんと帰ってきなさいって言っただけよ!」気持ちとは正反対の強い口調。
「うん…ラカ、その約束、守るのは無理かもしれない」
「何で?」
答えるイスターの口調は悲しげだった。
「オレだってラカにまた会いたいし、美味いカクテルを飲んでみたい。でも…」
「でも?!」
イスターは答えない。ラカは苛立った。
「ちゃんと答えて!!」
彼はしぶしぶ口を開く。
「この国が西のルイ・デン公国と戦争してるのは知ってるだろう」
「ええ。ルイ・デンとティグリアの西南戦争なら、こっちにも被害がでてるから」
「ここ(ティグリア)の主力の魔術師ルーフルが暗殺されたのは知っているか?」
淡々とした口調で言うイスター。
「え?あの天才魔術師ルーフル・アル=カリストが?」
ラカは目を丸くした。
「ああ。ここまで言えば分かるよな」
「つまり…イスターが代わりに選ばれたってことだね」
ラカの気持ちは沈んだ。
(久々に会えたのに…)
「んじゃ、もうオレいくわ」
何事も無かったかのように立ち上がる姿も、今のラカには痛々しく思えた。
「……ょ」
バーの中が再び静まり返り、ドアに手をかけていたイスターが振り向いた。
「ん?」
「帰って来てよ」
彼は人の目が集まる中、頭をかいてから
「おう。どんな形でもいいから、帰って来る。だから、お前も待ってろよな」
と言い残して出て行った。
ラカは泣き崩れた。
それから16年後、この港町で一つの奇跡が起こる。