第二話・再会
バーテン・ラカには生まれつきの予知能力があった。それは夢の中でしか感じることができなかったが、恐ろしく正確だった。
昨日の夜、ラカは枕に頭をつけた瞬間に寝てしまった。
夢の中でラカは居心地の良い丘の上に立っていた。辺りは暖かく、蜜蜂が飛び回り、柔らかい草が生えていた。日当たりも良くて、思わず昼寝をしたくなってしまう。
しかし、あくびをした時に気付いた。何かが足りないことに。ラカは首を傾げた。
近くに川が流れている…。足りないのは水ではない。生き物でも、太陽でも、ましてや雲ですらもない。じゃあ、もっと身近で、無意識のうちに感じているもの…。
「あ…」ラカは思わず呟く
「風が、無い」と。
丘には風がそよとも吹いていなかった。そして、風が吹いていないのに何か緑色のものがひらひらと顔にかかった。わずかな磯の香り。これは―
「青…のり…?じゃあ、これは…」
ふとラカの脳裏に浮かんだのは、4年前に旅立った友人の面影だった。
「…さん、ラカねぇさん?」
ラカは常連客の一人の声で我に返った。
(まさか…ね)
「どうかしたのかぃ?」ラカを正気づかせた客は心配そうだ。
バーテンは無理やり笑顔を作って接客した。
「いえ、何でもないわ」
「それならいいがね。可愛いラカちゃんに何かあったら町の男が放っておかないだろうからな」
誰かが口を挟む。
時計が8時を指した。外は真っ暗だ。
その時、新たな客が入ってきて、こんな時間にと怪訝そうな顔をする客を通り過ぎて残っていた一つの席をとった。
バーは静まり返る。黒いフードをすっぽり被っているため、新入りの顔は見えなかった。
しかし、沈黙も新入りの「カクテル、きついのを頼む」という声で緩み、酒場はまたにぎやかになった。
しかし、バーテン・ラカは顔色を変えた。
「その声…まさかあんたはイスター?」
客とラカは周りから完全に遮断された。客はゆっくりと顔を上げ、フードをとった。
フードの下から長い金髪が零れ落ち、整った顔立ちと、海のような目があらわれた。
「久しぶりだな」