表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もやしのひげ

作者: 進藤奈都子

愚痴っぽいですが、吐き出したくて書きました。

もやしのひげ


「もやしのひげを丁寧にとって料理に使う。そういう、細かい心づかいが家族に対する愛情なんだよ。一時間ぐらいあればきれいにとれるからやってみなさい。」


仕事が終わって帰宅するのは早くても7時前。

そこから、30分そこそこで夕飯の支度、洗濯、届いた郵便の整理などを同時進行、夕飯後はお風呂、乾いた洗濯ものを片付け、簡単に掃除…。気がつけばもう11時前だ。寝付きが悪くて朝に強い方ではないので、早めにベッドに入りたい私としては、そろそろいい時間になる。

残業ともなれば、家事のいくつかは省略されて、週末の休みの日にまわされる。


こんな私の、いったいどこに、もやしのひげを一時間かけて取る時間があるというんだろう。


前夫の両親は、息子の嫁にそういうことを希望した。


仕事があるので難しいです

家事はできるだけ簡単にして効率良くやらないと、追いつかないので…。×さん(前夫)は、家事をやらないし…。


そういうことを繰り返し伝えていたら、仕事を辞めて家庭に専念するように奨められるようになった。

前夫の父親いわく、

「家に妻や子どもがいて、家族を養わなくてはいけないという義務感があってこそ、男は仕事に力を注ぐことができる。」

「職場は戦場で、家庭は安らぎ。男にはそれが必要。」

いわゆる「昭和的な」家庭像をとにかく良しとし、妻が全面的に家と子どもを守ってくれたから、自分は社会人として思う存分仕事に没頭できた。奈都子さんもそうして息子を支えてほしい、息子に男の人生を歩ませてやってほしい、家庭の瑣末なことにわずらわせないでほしい…。


今思えば、なんて甘えた思想だろう。

働くことなんて、健康な大人であればある程度当たり前のことだ。職場は戦場、なんて、本当に戦場にいる人に失礼じゃない?大げさな。会社が戦場と感じたのは、あなたの力不足では?

と、今の自分なら言うかもしれない。でも当時の私はまだ若かった。


私は仕事が大好きだし、仕事のない人生なんて考えられない。これからの時代は、高度経済成長時代とは違うから、ダブルインカムでリスクヘッジをすることも大切だし。

本気でそう考えているので、そのことを伝えていたら、あげくのはてには、

「家庭で家事に没頭して家事の醍醐味を知るのが女性の幸せ。それを知ろうとしない奈津子さんは不幸だ。」

「女性の仕事と男にとっての仕事は、同じことをしていても全く意味が違う。女性が仕事をしても意味がないし、社会的に受け入れられているように今は感じているだろうけど、男はみんな冷ややかに見ている。続けていても恥ずかしいだけだよ。」

「奈都子さんが働いているから、息子が仕事で本領を発揮できない。」

などと、女性に対する侮辱では?と思うようなことまで言い出す始末。


前夫の母親は、自分の夫に対しては冷ややかだったようで、

「仕事したい気持ちはわかるよ。私もそうだったし。

まあ、もやしのひげを取りながら、そんな気持ちを落ち着けたり、もやもやを整理してるうちに、家を建てて子どもが育って、これで良かったと思えるんじゃないかな。」

と噛みしめるように言った。


前夫は、

「君の気持ちはわかるけど、うちの父親は大人として考えを持ってるわけだから、それを否定はできない。

従えとも言えないけど、反抗はして欲しくない。」

と、私の気持ちを理解する気はありません!という態度。

経済的に厳しいから共働きを、という理由は、オトウサマの「お金が足りないなら、息子が稼げるようになるまで援助するから」というゆとり教育な発言で解決扱いされた。


そんなもやもやが続いたある日、私が仕事中は旧姓を使用していることを前夫の父親が知り、またまたイチャモンをつけてきた。⚫︎⚫︎家の人間になったからには、うちのやり方に従ってもらいたいという。


いいじゃん別に。

私は、結婚したからという個人的な事象を、仕事関係の全ての人にアナウンスするなんてまっぴらだった。

「結婚したので、名前が変わりました。今日からこう呼んでください」とかいちいち説明するなんて、相手にも自分にも時間の無駄。

名刺を作り直してくれと会社に頼むのも申し訳ないし、経費の無駄。長く働いていくうちに、自然にわかればいいし、結婚したことを知ってもらわなくても問題はない。

そんなことを前夫に話したら、言われた。

「何を旧姓にこだわってるかは知らないけど、進藤奈都子という人間はもういないんだよ。戸籍から消えたということは、消滅したのと同じ。死んだのとも違って、最初から存在しないということ。そこをきちんとわかってる?」


ハイ、終了ー。


このひとも、このひとの父親も、嫁には人権がなくて当然と思っている、ようだ。


私が、家庭に入り、⚫︎⚫︎家の嫁として控えめに生きたとして、あんたらは満足だろうけど、じゃあ私の「仕事がしたい」という気持ちはどこへいく?

「はじめから存在しなかった」扱いされた進藤奈都子の悔しさはどこへいく?


男に限りなく都合の良い昭和の価値観を大事に守りたい気持ちはあるだろうけど、そういうのはそれを受け入れてくれる人に言った方がいい。

そして、受け入れない人もたくさんいるのは当然だし、いろんな考え方があるのが世の中だ。

あんたらの価値観を全面否定はしないけど、人に押しつけてこないでほしい。

ましてや、その価値観からはずれた人間を不幸だとか、間違っていると否定するなんて、それこそ大間違いだ。


そんな女性たちの静かな怒りが顕在化しているような、今の少子高齢化日本。


満足度の高い人生というのは、経済的な裕福さがあれば得られるものではない。

結婚して仕事を取り上げられて専業主婦になって、経済力ないから人権もない扱いをされて。ダンナの稼いでくるお金をもらうために、人権ない人生を我慢するなんて、とても考えられない。

ましてや、私は働いて経済力を得ながら、家庭生活を送りたいと望んでいるのに、「女は家庭」と鋳型に無理やりはめて、それが女の幸せ!理解しなさい!理解できないほうがおかしい!と幸せの形まで押しつけられ、自分の意思は全否定される。


そんな生活、幸せなわけないじゃーん。やってられないよ。


というわけで、私は離婚しました。


「昭和を良しとする男」なんて、さっさと世の中から退場した方がいい。

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ