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ヒミコ

「ひかり姫さま、少々、まずいことになりそうです。……はっきり、申し上げれば、最悪の成り行きです」


 刃良と らは小舟をあやつりながら、海のかなたをみつめていた。


 その名のとおり、とらのように白と黒の髪がまじった老人だったが、背筋せすじはすっとのびていて、がっしりとした体のもちぬしだった。


 背中に半月刀はんげつとうをせおい、戦支度いくさじたくのくさびかたびらを身にまとっていた。


 瀬戸内せとうちの島のあいまに、七隻ななせき軍船ぐんせんが近づいてくるのがみえた。


 ひかり姫とモグラ男も、その姿を同じ青い左目にとらえていた。


 舟で海にのがれ、追手の兵をかわした三人だったが、都の貴族きぞくの軍船にまちぶせされていた。


 

 

「だいじょうぶよ。ここは私にまかせて」


 そういうと、ひかり姫は手でなにかのいんをむすんだ。


 彼女の翠色みどりいろの右目があやしく輝いた。


 すると、海の波のあいだから、水のりゅうがうまれでて、軍船におそいかかった。


「うわ! あれは、なに?」


 モグラ男はおもわず叫んだ。


「あれはひかり姫さまの水龍すいりゅうです。姫さまの翠色みどりいろの右目は、五色の龍をうみます。日巫女ひみこ鬼道きどうの力です」


 刃良と らは悲しげな顔をして、モグラ男に語った。


「この力を狙って、都の貴族はひかり姫さまをとらえようとしていました。この力があれば国がひとつ滅ぼすこともできます。手に入らなければ、殺してしまえということでしょう。だから、姫さまは……」


 刃良と らはそのあとの言葉をつむぐことができなかった。


「いいのよ。刃良と ら、泣かないで」


 ひかり姫は優しい言葉をかけた。刃良と らは両目から涙をながしながら、むせび泣いた。




 ひかり姫の水龍すいりゅう二隻にせきの軍船を、あっというまにのみこんだ。


 船はこっぱみじんになって、兵たちは海になげだされた。


 となりの軍船が兵を助けるために近寄っていく。




 その時、残りの四隻よんせきの軍船から、火矢ひやがはなたれた。


 ひかり姫たちの小舟に、空から火の雨がふりそそぐ。


 ひかり姫は、もう一度、手でいんをむすんだ。


 ふたたび、彼女の翠色みどりいろの右目がきらめいた。


 そうすると、今度は、空に火のりゅうがあらわれて、火矢をすべてやきつくした。


 


 だが、すでに、軍船はまじかに迫っていて、先頭の船の大砲たいほうが小舟を狙っていた。


 ひかり姫は、すばやく手でいんをむすぶ。


 翠色みどりいろの右目から血が流れていた。苦痛のためか、少し細められたが、かまわず大きくみひらく。


 今度は土のりゅうがあらわれて、小舟を守るように立ちはだかる。


 次の瞬間しゅんかん、軍船から大砲がはなたれた。


 すごい音が聞こえて、土龍どりゅうに大砲がつぎつぎとうちこまれる。


 土龍どりゅうはしばらく耐えていたが、大砲の雨でしだいに体をけずられていく。




 その時、二隻目の軍船がひかり姫たちのそばまで迫っていた。

 

「姫さま。私がいきます。ご武運ぶうんを!」


 刃良と らはすれ違いざま、軍船にのりうつると、背中の半月刀はんげつとうをぬいて、切り込んでいった。


  

 三隻目の軍船に、奇妙な黄色の法衣ほういをまとい、つえをもった男たちがみえた。


 一斉に、いんをむすぶ。


「……うっ! 方術使ほうじゅつつかいね。身体が……」


 ひかり姫の青い左目が相手の正体をみぬいたが、血が流れている翠色みどりいろの右目をおさえて、彼女はひざをがっくりとついた。


「わたしの予知夢では、この次の攻撃がかわせないの。ごめんなさい。月読ツクヨミ


 モグラ男はひかり姫を守るように、彼女のからだをだいた。


 無数の火矢が軍船からはなたれる。


 太陽が無数の火の矢の影で一瞬さえぎられて、真昼に夜の闇があらわれる。

  

 ひかり姫を守りたいと、モグラ男は強く願った。


 彼女の肩をぐっとにぎりしめる。


 彼の青い左目が神秘的な光をやどす。




 いつまでたっても、火矢はふたりに届かなかった。


 モグラ男は、ふと見上げた。


 火矢はあいかわらず、太陽をさえぎったまま、空中で止まったままだった。


 まるで、日蝕にっしょくのようだった。


 時が、止まっていた。


 

ついに、ツクヨミの青い左目が開眼したようです。さて、予告と違って、次回、最終回ですが、連続更新で、何とかこのお話も終わりそうです。

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